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別の転移者と転生者の話。

佐藤双葉はあの日異世界トラックにはねられた。

異世界転生や異世界転移を信じる気も無かった。

だから単純に親に切り捨てられて殺された事は理解していた。



母親からは幼い頃から自身の跡を継いで小児科医になれと言われて勉強させられてきた。

だが試験には落ちた。


やる気のある人間とやらされている人間の差は歴然だった。


数回の試験の後で母は「看護師になりなさい」「うちの病院で使ってあげるわ」「それで小児科医の婿を取って病院を存続させるの」「うちは地域になくてはならない存在。無くなるなんてあってはいけないの」と言った。


そして母は周りに吹聴して回った。

「身が入らないからおかしいと思ったら看護師になりたかったんですって。仕方ないから学校に入り直させますわ」

この言葉を聞くたびに心は冷たくなって言った。


だが双葉には何も出来なかった。

何もしてこなかった為に自分の人生だから好きな事をして生きたいと思ってもそれは叶わなかった。

好きな事もよくわからなくなっていた。

ただ言えるのは母の用意した道は間違っていると思っていた事だけだった。



春になり学校に入る。

学校は夢に向けてキラキラしている連中ばかりで目が眩む。吐き気がした。


やはりここでもヤル気のある人間とやらされている人間の差は歴然だった。


そんな時に出会ったのは鈴木創一と田中三雄だった。


2人は子供時代からの親友でいきたい進路も将来の夢も無く…。可能なら旅人になって世界中を回りたいと思っていたが今の世論はそれを許さない。

せめて職業をカメラマンや動画投稿者としなければならなかったが2人はそれを拒否した所、恩師から看護師はいつの時代も不足していて人の為になる仕事だからやってみろと言われて入学して来ていたが考えが甘かったと双葉同様に挫折した。


3人はすぐに意気投合して落ちこぼれグループになる。

そしてあっという間に双葉は人生初の彼氏が出来た。三雄から告白をされた日は驚いた。

化粧もろくに知らず、無理矢理やらされたガリ勉でメガネも分厚い。

自信なんてものはカケラもなく、最初は何かの罰ゲームで告白をしてきたと思ったが、話を聞くと三雄は本気だった。


だが母はそれを認めなかった。

付き合っていることはすぐにバレる。


成績不振の理由も創一と三雄のせいにされた。


だから貯金を持って家出をした。

母は娘がたぶらかされたと創一と三雄の家に対して訴訟を起こした。


この結果、困った大人達は口減らしの異世界トラックに子供達を差し出す事で円満解決をしていた。



双葉達は捕まってすぐに死の滑走路に連れて行かれた。

噂には聞いていた異世界トラックが目の前にあり金網で逃げ場を封じられた中で殺される事に気付く。


生気を失った顔のサラリーマン風の男や座り込んで乾いた笑いをあげ続ける女。

今自分はそいつらと同じカテゴリーに入れられていると気付いた時に震えた。怖くなった。


震える手を雄三は強く握りしめてくれた。


双葉は金網の外にいる作業服の連中に向けて「やめてよ!」と言うと創一と三雄も「異世界なんてウソだろ!無いんだろ!」「殺すなんてふざけんなよ!」と声を上げた。


だが無惨にもトラックは容赦なく突っ込んできた。運転手の張り付いた笑顔が気持ち悪かった。

あっという間に眼前に迫ったトラックにはねられ、くぐもった音が聞こえながら意識は無くなった。



目覚めると不思議な場所にいた。

そして目の前に現れた女は自身を「救済の女神」と名乗って双葉を救うと言う。


「救う?」

「はい。あの男の言う異世界転移はでっち上げですが、私の作った世界バトラバトルズでしたら転移できます。そちらで自由に生きてください」


女神は優しく微笑みながら言う。

女神なのに恭しい姿に双葉は好感を持つ。


「一応、あの詐欺師の男が言っていた能力の付与を考えています。それは村民最強です。その力で新しい生活を送ってください」



双葉はその時になって初めて創一と三雄がどうなるのかを聞いていない事に気がついた。


女神に問いかけようとした時、目の前が光り輝き光が晴れると目の前には小さな村あった。


「ここで暮らせって事?」

双葉がそう呟いた時、背後から「双葉!」と名を呼ぶ声が聞こえてきた。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



佐藤双葉がバトラバトルズに降り立って1年が過ぎていた。

あの日、バトラバトルズに降り立った日、村長は救済の女神から神託を貰ったといって村の出口まで双葉達を迎えにきた。


村の名前はネツト村。

小さいながらも衣食住に関する店なんかは全て揃っていた。


「女神様からのお達しです。村にいる間には不自由はさせません。命尽き果てるまでお過ごしください」

そう言って甲斐甲斐しくされるがやはり心苦しい訳で双葉達は出来ることをすると言って手伝いに名乗りをあげた。

双葉と言う名前はバトラバトルズでは珍しいので新しい世界に馴染む為にも双葉の名をやめてツインと名乗る事にした。


双葉は医学の知識だけはあったので村人の健康をケアしたが、それだけではなく女神からは治癒魔法を貰っていたので外科手術にしてもやりたい事をイメージして魔法を使う事でケアできていた。


そして10年が過ぎた。

ネツト村は変わらず平和だったが、噂で聞こえてくる世界の話では魔王討伐に向かった勇者が敗北し、負けた勇者を取り込んだ魔王が強化されて魔物達が勢いを増したという話だった。


双葉には男の子が1人生まれていた。

不思議な事に子供はバトラバトルズで産まれたからか、黒目黒髪ではなかった。

その子供ももう7歳になっていた。


その子供が木から落ちて大泣きしている。


「ちょっと?落ちたの?何やってんの!?」

双葉は子供に駆け寄って泥汚れを拭きながら顔を覗き込む。

本当に活発な子で困ってしまう程だったがまさか木から落ちるとは思わなかったし、落ちたこともなかった。



「痛え!双葉!腕折れたかも!」

突然子供はそう言い出した。


子供は佐藤双葉の名を知らない。

子供が生まれる前にツインの名を使っていた。


「は?サード!?なんで私の名前知ってるの?お父さんが教えたの?」

双葉が顔を覗き込むと子供は目を逸らして「やべ」と言った。


「アンタ?まさか?」

「…今はそれよりも腕の治療を…。折れたかも知れないんだよ」

必死に腕を見せてアピールをしてくる息子に向かい、双葉は「流暢な話し振りね。三雄?」と言うと息子は「あれ?バレた?」と言った。


「アンタ何やってんの?」

「色々ありまして…」


双葉は頭を抱えながら診療所を兼ねている自宅に戻って、お手伝いをしてくれているアンナに「ごめん、サードが木から落ちて怪我したの。今日は休診にするからおしまい。帰りにアインを呼んで来て」と頼むとアンナは「サード君がですか?大丈夫ですか?」と心配しながら後ろをトボトボと歩くサードに「痛いの?」と声をかける。


三雄…サードは普段とは違ってしょんぼりしている風に見えるのでアンナはよほど怖かったのかと思い「大丈夫?怖かったのね」と優しく声をかける。


「ありがとうアンナ。怖いのは…これから…」

そう、アンナ越しに三雄を怖い目で睨みつける双葉の怖い事といったらなかった。


「大丈夫だよ。ツインさんの治療は痛くないんだよ」

「うん…わかる…でも怖い…」


アンナは怯える三雄を優しく抱きしめて「大丈夫だよ」と言う。

その姿は天使そのもので三雄の顔は緩み、双葉の圧が増す。

アンナからすれば三雄は7歳だが双葉からすれば旦那と同じ30歳になる立派な男でセクハラは許されないと睨む。


アンナは帰り、すぐにアイン…創一が「サードが木から落ちたって本当か?」と飛んで帰ってくると木の床に正座したサード…三雄の前で椅子に座って足を組んだ双葉が「お帰り」と言った後で「これ見る?」と出したのはメモ用紙に丁寧に書かれた「田中 三雄」の文字だった。


だが筆跡は双葉のものではない。


「は?ツイン?その字…三雄?え?」

アインが思った通り驚いていると「言いなさい」と双葉が促して三雄は「よう、創一久しぶり」と言った。


創一が「お前?三雄か?久しぶりだな」と言った瞬間に特大のゲンコツが三雄の頭に落ちて「久しぶり?へぇ」と言うと三雄は「ごめんなさい、実はずっと俺でした」と言って謝った。


三雄の話によればあの日、異世界トラックに殺された時、目の前に現れた女神と話した時、三雄は我先に自分よりも双葉と創一を助けて欲しいと願った。

女神はその願いを聞き入れて双葉と創一をバトラバトルズに送る手筈になった。

そして女神から三雄はあるお願いをされた。



「お願い?」

「ああ、あの日居た連中の中から俺たちの他にも助け出してバトラバトルズに送った奴がいて、なんでもそいつに勇者になって欲しいって頼んだんだよ。ただ万一ソイツが失敗したり勇者が嫌になって逃げ出した時の為の保険として俺に勇者を頼みたいって言ったんだよ。だから皆と一緒の転移だと10年して勇者が失敗しても俺も30とか過ぎちゃうだろ?だから俺は転移じゃなくて転生だって言われたんだ」


「…そんな」

「まあそれは良いんだよ。日本で殺された俺達が住む場所が良くないとかヤダろ?それに俺はお前達が無事に平和なら構わないしさ、だから転生でもOKしていたら、まさか気がついたら母親が双葉で父親が創一って思わなくてさ、慌てて誤魔化したよ」


「…一応聞くけど何歳から?」

「物心つくと言うか2歳くらいかな?双葉って眼鏡やめたのな?」


…今朝まで「お母さん」と呼んで来ていた息子がまさか元カレとは思わずにショックを受けながらも双葉呼びはダメだと思い、ゲンコツと共に「お母さんでしょ?」と言う。


「はい…すみません」

「もう、メガネは転移した時に身体中治ってて目も良くなっていたのよ」


「それで三雄は勇者をする為に後から生まれてきた…と。じゃあ魔王討伐に向かって取り込まれたって奴が日本からの奴か」

「てっきり私達は勇者が三雄かと思っていたし、魔王に殺されたと思っていたのよ?」


「ごめんな。でもさ、流石に彼女が親友と結婚していてその子供だと思うと名乗り出にくくてさ」

「私達だって生まれてきたあなたを見て三雄に似てるからサードって名前にしようって言ってたのよ?」

「な、まさか本人だったとは…」


こうして3人揃えた事に感謝をして日常生活に戻る事にした。

そして三雄のはこの日から公衆浴場は男湯限定となった。


「俺は恥ずかしかったから女湯は嫌だったけど必死に拒否ったらおかしいと思ってだよ!」

三雄はそう言っていたが、双葉は「怪しいと思ったのよね。ジロジロと胸を見比べてたし。アンナに呼ばれると吸い込まれるように近付いていたわよね」と言って息子を見る目からケダモノを見る目に変わっていた。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



サードの正体が三雄だと判明して3年が過ぎた。

親子の暮らし方が微妙に変わってしまったが問題なく過ごせている。

サードは勇者として鍛えなければならない事を公言したが同世代の男の子達の「おれがまおうをやっつけてやる!」と同レベルだと思われて軽くあしらわれていたものの同世代の男の子達が訓練に飽きる中、1人で素振りや走り込み、村の中では優秀な魔法使いから簡単な魔法を教わって実践していた。


ある日、昼食後にサードこと三雄が「なあ、2人は子供とか考えないの?」と聞き、創一が「…この家の何処で更に子作りすんだよ?」と呆れ返す。


家は元々日本で言うところの1LDKだったが診療所を始めた関係で一部屋は潰れていて残りで家族3人の生活をしている。


息子の質問に父親が答える図式だがそれは異質で皿洗いの終わった双葉はゲンコツと共に「子供と何話してるの?」と創一を怒る。


三雄はそれを聞きながら「えぇ?別に知った仲だし平気だって」と返す。双葉は三雄と男女の仲になっていたので、三雄は遠い記憶だが自分の腕の中で眠る双葉を覚えている。


この返しに双葉は「平気じゃない!」と怒り、創一は「なんでそんな事言い出すんだよ?」と聞いた。


「いやー、そろそろ魔王討伐に行かないとヤバくね?だから俺が旅立った後が寂しくないようにさ」


「何言ってるの!?まだ10歳でしょ!」と怒る双葉に「でもさ、ネツト周辺でも変な話が出てくるようになったろ?いい加減行かないとダメじゃね?」と三雄が返す。


「だが俺たちはついていけないんだぞ?」

「本当よ。訓練ならいくらでも付き合えるけど一緒には行けないのよ?」



「それでもさ、訓練は感謝してるって。後は今の自分達がどれだけ強くなったかわからないのが問題だよな」

「問題だろ?な?これで勇者の名乗りとして王都に行った時に殺されたら困るだろ?」

「着いていけたらいいのに…ヤキモキするわ」


ここで創一と双葉が救済の女神から授かっていた村民最強がネックになっていた。


村民最強はあくまで自身の居る村、ネツト村最強であって村が見えない場所に行くと途端に普通の村人レベルに弱くなる。

元々は平穏無事に人生をエンジョイ出来る為のサービスでしかなかった。


今現在、ネツト村最強は能力を隠しているが勇者としてポテンシャルが約束されている三雄で、その三雄が村に居るからこそ、双葉と創一は相対的にもう一段上の実力を持っていた。


その3人の稽古は深夜に行われるが本気で戦うと付近の魔物達は恐れを成して逃げ出す程になっていた。


「せめてもう一年だけ訓練をして強くなってから勇者の名乗りに行って?」

「そうだな、三雄がいる間だけなら俺たちも強くなるから訓練に付き合えるしな」


この日から更に本気の訓練が休みなく行われた。

朝になると山道を塞いでいた岩が粉々になっている時もあれば見たこともない大穴が空いていたりして村民達は魔物の襲来を案じていたが、実際やっていたのは三雄達だったりする。


そして三雄はその事をすっかり失念していて「また村の周りで魔物が悪さしてるのか…心配だな、もっと鍛えないと」と言って訓練を続けていた。


時折聞こえてくる勇者の偉業を聞くと双葉と創一はたまらなく不安になった。

恐らく自分達のような転移者だろう。


ある日草原に現れた勇者は2000を超える魔物の群れを1人で倒した後は王城に赴いて勇者を名乗るが勇者の装備を身につけずに旅に出る。


そして真っ直ぐに魔王城を目指し、底の見えない深い谷は見たことの無い魔法で目の前のみを塞いで歩いてしまい、灼熱の山を凍り付かせ、魔物が用意した大瀑布を干上がらせて魔王城を目指したと言う。


そんな力を持った勇者が倒されて魔王に取り込まれたとあっては親として、元カノとして、親友としては慎重に慎重を重ねて、訓練に訓練を重ねて安心して送り出したい気持ちだった。



訓練を続けて一年。

三雄はサードとして村長の元を訪れる。

そうしたのには理由があって、父母である双葉と創一はまだダメだと言って出立を認めようとしなかった。


だが三雄的にはもう一刻の猶予もないと思っていた。

日々村の外が魔物達に荒らされていて、村民達は怯え切っていた。

本来は双葉と創一と三雄の訓練で荒らされただけだが、訓練に熱が入ると周りが見えなくなりヘトヘトになるまで暴れるので惨状には相変わらず気付いていない。


「おお、どうしたサード?お前は熱心だから他の連中が辞めた訓練も未だに続けているな」

「はい!」


三雄はサードとして溌剌に振る舞って今年34だとは悟らせない。


「それでどうしたのだ?」

「女神様が夢枕に立ちました」


「何!?」

「女神様は俺が勇者になる子供だと教えてくれました。ですが夢かも知れないから村長のところに行って2人きりになったら声をお聞かせくださいと頼みました。

なのでここで女神様の声が聞こえるか待たせてください」


「…なんと…。女神様に導かれたアインとツインの息子が勇者とは…」


村長が目を潤ませて居るが未だに女神の声は聞こえてこない。

三雄は「おーい、とりあえず魔王討伐に行くから声聞かせてよー」と念じると遠くから女神の声が聞こえてくる。


「おお!これは神託!間違いない!」

喜ぶ村長と、これでようやく魔王討伐に出れると思った三雄だったが聞こえてきた声は「修行しろ、修行しろ、まだ早い」と言うものだった。



「な…女神様?」

驚く村長には「夢枕には立ちましたが、サード少年は肝心なところが聞こえていなかったようですね。まだ幼いのでまだ自己を高めてください。今のままでは勇者の装備が身につけられません。彼を大人達で鍛えてあげてください」と聞こえてくる。


それはサードの耳にも届いていて「ウソ…マジ?」と返すと「ええ、村長を巻き込む作戦は良かったですがまだまだです」と言う女神の声が聞こえた後、村長は本気を出した。



村人を集めて神託を得た事を言う。

そしてその横に居るサード…三雄を見て双葉と創一は嫌な予感と共に固まる。


「聞け!神託の徒アインとツインの息子サードが女神様に勇者として選ばれた!」

どよめきと感動、その中で怒気が起こる。


流石は親、流石は親友と元カノ。

流れから三雄が出立したくて村長に売り込んだ事は一目瞭然だった。


怒りを振りまく双葉と創一の殺気に晒された三雄は信じられない恐怖に震えていた。


村長はそれを緊張と勘違いして優しい目で「恐ることはないぞ」と言って三雄の肩に手を置く。



「このサードが夢に女神様が現れて勇者に認められたと申したのだ。そしてそれは真実だった。私と2人になった時、女神様がお声を届かせてくれた!」


村人達は「おおぉぉ!」と喜ぶ。


「この流れ…」

「ああ、女神の言質も手に入れて名乗り上げに行くつもりだな」


「骨を折ってでも足止めしなきゃ」

「ああ、右足は任せた、右手は任せろ」


双葉と創一がそう言って居る中、村長は「だがサードは幼かった為に女神様のお言葉を聞き逃していた」と言う。


「は?」

「え?」


「女神様はまだサードに修行が足りないと、勇者の装備を身に纏うには幼いと言っていたのだ」


「あれ?」

「話が違う?」


双葉と創一が見ていると三雄の顔はドンドン曇っていき、バツの悪そうな顔になる。


「よってサードは女神様からお許しが出る日まで修行に明け暮れる事になる。皆のものもサードを応援する様に」


この言葉に村民達は皆「はい!」と声を揃え解散になった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



三雄は双葉から殴られずに済む。

むすくれてテーブルに肘をついて「くっそー」と漏らすと創一が頭を撫で回して「残念だったな」と言って笑う。


「笑い事じゃねーよ」

「でも良かったじゃない。女神様のお墨付きが貰えるまで鍛えれば魔王にも勝てるわよ」


「それまで世界が保たねーって」

「それはそれだろ?」


「それとも勇者に憧れでもあるの?」

「ああ、お前って仮面デストロイヤーとか好きだったよな。誕生日に変身ベルト買ってもらってたの覚えてるよ」


「あら、特撮大好きなのは散々見知っていたけど変身ベルトは知らなかったわ。でも特撮と違って魔物は殺しにかかってくるのよ?」

「知ってるよ」


むすくれながら三雄は「倒してきますって行って何年かかるんだよ。その間にこの村は危険に晒されるだろ?それに大概こういうのって実は初動が肝心でこうしてる間に魔王達が力を蓄えたりするだろ?」と説明をする。


創一が「おお、三雄なのに考えてる」と驚き「バカにすんな!」と三雄が怒る。


「なら遅くなって平気か女神様を呼んで聞いてみたら?さっきの話通りなら三雄は呼べるんだよね?」

「確かに、それで修行に打ち込めば良くないか?」


「仕方ない。おーい、女神様ー、疑問に答えてよ」

三雄の呼びかけに「見てましたよ。サードの心配事はわかりましたよ」と声だけが聞こえてくる。


「勇者出立の話ですね。ご安心なさい。勇者はもう1人居ます」

「は?それって初めに言われた別の日本人だよね?」


「いえ、他にも数名転生者を募りました。皆差はありますが佐藤双葉さんと鈴木創一さんがバトラバトルズに降り立った日に生まれてきた者も居ます」


ここで会話の違和感に双葉が気付く。

「女神様?おかしいですよね?」

「ツイン?」

「どした双葉?」


ここで三雄は殴られて「『お母さん』でしょ!」と怒られる。


「女神様は三雄みたいな保険を何人も用意した。でも今は三雄の他にもう1人居るとしか言わなかった」

「…あ」

「あれ?」


「お気付きの通りです。勇者は初めの勇者の他にこちらの田中三雄さんを含めて5人の保険を用意しました」

「…3人足りないな」


「1人は3年前、10歳で名乗り上げに向かう最中に命を落としました。また別の1人は大きな街に生まれましたが人攫いに捕まって逃げる際にボウガンの矢が当たって死にました。3人目は魔王城から城までの進軍ルート上で村そのものが…」


「残機2かよ…。てか女神様の力で無限の命とか死んでも復活とかって出来ないの?」

「世界のルール的にやりたくありません。それを行うと魔王も無限の命を手に入れる可能性があります。死者蘇生にしても魔王が持てば倒した強敵が復活します」


「うわ…マジか」

「女神様、俺ってそれなのにネツトでのんびり修行していていいの?」


「はい。今の勇者は14歳、勇者の武具も身に付けることができます。今は名乗り上げを行いに城を目指しています」


ここで双葉が「質問よろしいですか?」と聞き、女神が「はい。なんでしょうか?」と言う。


「仮に新たな勇者を募ることは出来ないんですか?どうせまだ異世界トラックは人を殺しますよね?」

「…それは難しいです。転移や転生を新たに行えば魔王が真似をして、日本から仲間を増やす可能性があります」


「え?魔王って何者?女神様とおんなじ事がやれるの?」

「そもそも魔物ってなんでそんな危険なのが居る世界なんですか?」


「魔物は世界の汚れが命を持った結果です。あなた方の居た世界でも環境問題はありましたよね?海が汚れ、大地が、空が汚れ。私はその問題を魔物に転化する事で回避したのです。

そして魔王ですが、上位互換ではなく私のする事を見て学ぶように進化してしまいました」


「…なんか仕方ない気がするな」

「うん。川の水も美味しいし魚も沢山」

「食べた動物もキチンと自然に還ってるよな」


双葉達は地球の状況を思い浮かべてバトラバトルズを見た時に「これは仕方ない」と思えてしまう。


「なんか了解です。じゃあもう1人の勇者は勇者の装備を纏って魔王の所に行くんですか?」

「そうなったら三雄は戦わなくて済むんですか?」


「ええ、そうなります。ただ…、このような言い方は良く無いのですが最後の1人、切り札として訓練に勤しんでください」

「わかりました。我々が責任を持って鍛えます!」


「女神様、その14歳の勇者が魔王の所に攻め込んで順調だとしたら何年くらいかかるんですか?」

「…多分彼の性格からすれば3年です」


「じゃあ俺は2年半くらいでタイムリミットが来るんですね」

「そうなります」


「じゃあ大まかに言って1,314,720時間しかないよ!」

「…双葉は相変わらず計算早えな」


この瞬間に双葉は三雄の頭に拳骨を落として「『お母さん』でしょ?」と言う。

三雄は頭に拳がめり込みながら「はいマム」と答えた。

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