始まりの霧
掲載日:2022/07/24
ホニヤへ森の奥深くでは、不穏な色と安らぎの香りをした霧が立ち込めているという。
霧の中では草や花が刈り取られたように宙を浮いており、枯れ始めるとどこへともなく消えるらしい。
薬草を求めているうちに森の奥深くで道を失ってしまった村人はこの古い言い伝えを思い出した。
辺り一面が暗い色の霧で包まれ、植物が宙に浮いている。
村人は、ひどく安堵した。もう大丈夫なのだと思えた。
この霧を見たから。魔虫に刺された村人達は解毒された。ああ、良かった。
これで日常に戻れた。
その時、腕に何かがさわと掠めた。
村人は虫かと腕を引っ込めたが、それは花びらが少し茶色くなった一輪の白い花だった。
花は腕から離れてゆっくり回転した。クルクル、クル。そしてなんと、茎の方から消えていく。
村人は、いいや、何が大丈夫なのかと、首を振った。
こうしている間にも皆は苦しんでいるのだ。手にした薬草を無事に届かなければいけない。帰らなければ。
茎がすっかり消えた花を村人は奪い取った。
花は掌に収まっている。これ以上消えることはないようだ。
辺りを見回すと、後ろの方で少し霧の晴れ間が見えた。目を凝らすと、知った道だった。
こうして村人は無事に帰り、持ち帰った薬草によって魔虫にさされた人達は回復したのである。




