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第4話

 暗闇の中、私は1人ぼっちだ。

 今までの出来事が走馬灯のように流れていく。


 本当に地獄のような日々だった。

 それでも私の人生はつらい事ばかりではなかった。


 イヴァンと共に過ごした時間。

 もちろん私たちの間には、一般的な夫婦のような愛はなかった。

 それでもイヴァンはまるで本当の父のように私に接してくれていた。 

 家では両親から使用人のように扱われていた私にとって、彼と過ごす時間は居心地のいいものだった。

 そんな彼との約束、公爵家を守るという約束を私は破ってしまった。


 そして思い出されるのは、刑執行日前に出会ったアラン。

 彼は私のことを家族だと言っていた。

 もしかしたら私は彼らとの関係を諦めて、自分から突き放してしまっていたのかもしれない。


 私が死んでしまった後、あの子供たちはどうしているのだろうか。

 アラン、キリアン、ジャンヌ、あの3人は叔父が当主となった後どうなってしまうのだろうか。


 私が自己中心的な行動をしたせいで、あの子供たちを守ることもできなかった。


 今更こんな罪悪感を抱いてしまうなんて。

 死んで尚戻れない過去を悔やむなんて、なんて浅ましいのだろうか。

 けれどもしもう一度チャンスがあれば。

 私は胸の前で腕を組むと神に祈る。


 それでももし叶うのならば、神様、どうか時を戻していただけないでしょうか。

 彼との約束を守れるように、過ちを正すために、もう一度私にチャンスをいただけないでしょうか?


 どれだけこうして祈っていたのだろうか。


 誰かが私の名前を呼ぶ声が聞こえる。

 そしてだんだんと暗闇に光が差してくる。


「奥様、起きて下さい、奥様!」


 呼ばれる声で私の意識もゆっくり覚醒していく


「ん、んん」

「奥様、今日は旦那様の葬儀の日ですよ!早く起きないと」

「そうぎ……」


 そうぎ?誰か死んだの?私の葬儀かしら?


「ってイヴァンの葬儀ですって!」


 女性の声で私は寝台から飛び起きる。

 見れば生前身の回りの世話をしてくれていた侍女のメルだった。

 年が近いのもあって私が気兼ねなく、話せる数少ない人間の1人だ。

 メルが驚いたように小さく悲鳴を上げる。


「メル、あなた今イヴァンの葬儀の日って言ったわよね?」

「え、ええ。ですので早く準備を始めた方が良いかと……」


 ど、どういうこと?葬儀の日って言うと私が殺されてから2年前ってことよね。

 確か私は刑の執行日に首を飛ばされたはず。

 ベッドから慌てて立ち上がり鏡を覗き込む。もちろんしっかりと首はくっついてるし、傷一つ見つからない。

 映っているのは黒髪にグレーの瞳の少し幼くなった私だった。

 メルはさっき葬儀だと言っていたが、葬儀の日って言うと私は18歳だったわよね。


「お、奥様?」

「あ、ごめんなさい。そうね、支度しましょうか」


 そう言うとメルに手伝ってもらいながら支度を始める。

 葬儀ということでもちろんドレスは質素な黒色のドレス。

 それから髪をお団子に結い上げ黒いベールで顔を隠す。

 着るものすべてが見覚えがあるもの、というより葬儀に来ていたものと全く一緒であった。


 支度を終え廊下を歩いていると、いつの日かジャンヌが割った花瓶に綺麗な花が活けてある。

 それに、買い換えたはずの絵画がまた飾られている。


 時間が遡ったのは間違いないようだ。

 あの地獄の日々に戻ってきたと思うと頭が痛くなりそうだ。

 でもどうして?

考えてみてもさっぱり分からない。

 きっと神様が私の願いを聞き入れてくれたのかも。

 うん、そういうことにしておこう。これ以上考えたって無駄な気がする。


 神様が与えて下さったチャンスを私は絶対に無駄にしない。

 遡り前のようなことが起こらないように、今回は子供たちにも認めてもらって本当の家族になれるように。


 二度目の人生は悔いが残らないように生きていこう!


 私は静かにそう心の中で決心した。


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