第1話
ああ、これで私は自由だわ。
私、クロエ・ド・ヴァロアは断罪の場で微笑んだ。
そのままギロチン台の上に首を置く。
やっとこれで私はすべてから解放される。
――――――――――
今までの私の人生は振り返ってみると最悪だった。
私は貧乏子爵家の家に生まれた末娘だった。
この時の私の名前はクロエ・ド・ルボー。
上には親に甘やかされて育った兄。
両親はというと、貴族としてのプライドばかり高い人たちだった。
末の娘であった私への扱いは当然ひどい物だった。
使用人のいないこの家では私が使用人も同然。
家族からは毎日嫌味を言われ、無理難題を押し付けられる。
私はこんな家から出ていけるなら、貴族の身分なんか投げ捨ててやりたい、そんな気持ちで生きていた。
そんな私のこの時の目標はというと、この家から出ていき商人なって世界中を旅することだった。
そんな私に転機が訪れたのは私が18歳を迎えた時だった。
両親が突然私に縁談を持ってきたのだ。
しかも縁談相手は公爵家の当主。
男性は20歳が成人年齢とされる中、女性が16歳で結婚というのは何ら不思議なことではない。
しかしその縁談は手放しで喜べるものではなかった。
なんと相手は今回で2度目の結婚であり年齢は56歳。
その当時の私はそのことを聞き、ほぼ死にかけのジジイじゃないと内心思った。
しかし母はというと満面の笑みを浮かべる。
「相手は公爵様よ。もちろん承諾したわよ。」
「お母様!私は結婚するなんて一言も言っていませんよ!」
「まあ、まさか断るなんて言わないわよね?公爵様はもしこの結婚を承諾すれば大金をルボー家に納めて下さるそうよ。クロエはもちろんお家のために嫁いでくれるわよね?」
私に拒否権はなかった。
私が駄々をこねたところで、それを聞き入れてくれるような両親ではない。
そのことを瞬時に悟った私はこの家から出て、公爵家の夫人となれる。
これはチャンスなのだと思うことにした。
年の差は40歳。
しかし私はその結婚を受け入れることにした。
迎えの馬車が来たのは、母から結婚のことを聞かされてから1週間後。
早すぎる迎えに驚きはしたが、こんな家から出て行けるのならと、私は胸を張って馬車に乗り込んだ。
もちろん私を見送ってくれる人間など1人もいなかった。
公爵家は私が想像する以上に豪華絢爛。
お城のように大きなお屋敷に、金ぴかの装飾、花瓶に飾られた華やかな花たち。
今まで食べたことのない豪華な食事。
しかし私の公爵家での生活は決して華々しい物ではなかった。
公爵家に着いた晩、公爵イヴァン・ド・ヴァロアと共に食事をとることとなった。
イヴァンの印象はというと、優しいお爺さんというよりは、厳格な紳士といった風な男だった。
ライトグリーンの瞳は冷たく、頭は白髪で56歳とは思えないほど姿勢がよい。
「今日から君はこの公爵家の女主人だ。結婚式は行わない。そのようなことをしている暇はないからな」
「え?」
「君には明日から公爵家の主人としてふさわしくなってもらうために学んでもらうことがある」
彼はそう静かに語るだけでそれ以上何も言わない。
その時私は彼の言っている事の本当の意味が分からなかった。
女主人としてふさわしくなってもらうために勉強をする。
その程度のことだろうとその当時の私は思っていたのだ。
しかしその言葉の本当の意味を知るのは、結婚から2年後、彼イヴァンが死んだ後だった。
こういった作品は初めてなので頑張っていきたいです!
ただ他の作品を主に書いているので更新は遅いです。申し訳ありません。
好評であれば続きも早めに出していきます。