マリンの戦い
◆タン視点
お姉さん、お姉さん、お姉さん
ぼくの大事な番。
その番を害する奴ら、許さない、許さない。
ぼくは、獣化してお姉さんの匂いを追った。
まだ短時間ならぼくでも、匂いを追う事ができる。
「ガウウッ?!」おかしい、匂いが途切れた?
何かに乗ったのだろうか?
見ると、道のかなり先に馬車がある、あれだ!
ぼくは全力で追いかける。
だが、全く追いつく様子がない。
だんだん息が苦しくなってきた。
遠目だが四頭立ての荷馬車だ、荷が少ないのか全然スピードが落ちない。
だが、諦める訳にはいかない。
走れ、足よ動け、もっと早く、お姉さん、お姉さん、お姉さん!
とうとう馬車に引き離されたぼくは、それでも馬車が向かった方角へ街道をひた走る。
足が痛いが関係ない。
番から引き離される思いに比べたら、大したことではないのだから。
夜通し走ってきたら、海が見える街に着いた。
見覚えがある街だ、たしか、港湾都市だったか?
目が霞む、ふらふらが止まらない。
ああ、お姉さん、ぼくはここにいます。
ガラガラガラ、沢山の行き交う人々、馬車、朝の喧騒にぼくは道の片隅にうずくまる。
通行人a「なんだ、この小汚ない野良犬は?」
船員d「邪魔だ、邪魔だ、しっ、しっ、しっ」
眠い、くたくただ。
でも、頑張んないと、はあ、はあ、はあ、お姉さん、苦しい、逢いたいよ。
目の前が暗くなってきた。
いや、目の前に人の影、誰だろう?
「タンちゃん?」
呼ばれたが、ぼくはそこで意識を失くした。
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◆マリン視点
ゴーテン号が見えてきた。
三姉妹が甲板に見える。
私は、今、停止した馬車から降りた。
そのまま、ゴーテン号に向かう途中で通行人の声が気になった。
「ねぇ、おかあさん、あのわんちゃん、動かないよ」
「ただの小汚ない野良犬さね、ほら、余計なものを見てないで前に進みな!」
足を止めてその声の方を見ると、通行人の親子の近くの道端に小さな仔犬がうずくまる。
「まさかね」
私は、進む方角を船から仔犬の方に進む。
マデリン「マリン様?」
「ちょっと待ってて」
道の片隅に、早い息をした仔犬が横たわる。
片足が赤く腫れて、ずいぶん無理をして走って来たのだろう。
銀狼、間違いない。
この子は
「タンちゃん?」
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盗賊B「お頭、なんか甲板後方にきてくだせい。変な船が追いかけてきてるみてぇで」
ハベル「なんだとぅ?!」
船内、貨物室の階段上から盗賊Bが声をかける。
その奥に、箱の蓋を開けていたハベルが答えた。
盗賊C「しっかし、見れば見る程小綺麗な娘ですや。少し味見してもいんじゃないですかい?」
盗賊Cが、リンレイの黒髪をいじりながら言う。
リンレイが僅かに反応する。
リンレイ「うっん…………」
ハベル「バカやろう!ソイツは皇帝陛下への貢ぎ物だ。おまえらの命が幾つ有ってもたんねぇ、早く催眠香を入れ換えて蓋を閉めろ。その娘は魔法使いだぞ」
盗賊C「へぇ、分かりやした」
「おい、うるさいぞ。どうした?」
黒いローブを着た男が、別階段から降りてくる。
ハベル「どうやら、追ってがかかったようで」
黒ローブ「ほう?想定内だな。安心しろ、もう帝国の勢力圏内、手配はしてある。む、そろそろだ」
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サリー「風よ、加護の力を与えん」
メグ「風よ、我らに聖なる力を」
モモ「風よ、我らを守りたまえ」
ゴウウウォーッ、三人が呪文を唱えると向かい風の中、帆船が前進していく。
それどころか、どんどん速度が上がっていく。
三人が両手を掲げた。
サリー「風よ、道を開け」
メグ「風よ、道を開け」
モモ「風よ、道を開け」
ヴァアアアーッ、ゴーテン号の船首が僅かに浮き、その回りを風が回転しまるで水中翼船のように高速で進んでいく。
「!見えた、あの船ね。タンちゃん、間もなく私達の大事なあの子に逢えるわよ」
マデリンが操舵をする側に、マリンとタンが立つ。
タン「マリンさん、ありがとう」
「まだよ、あの子の無事な姿を見るまで気は抜かない」
タン「うん、お姉さんを必ず助け出す」
「その意気よ、マデリン、このまま直進!最短で進むわ」
マデリン「マリン様、あれを!」
「!!」
左右からゴーテン号の進路を妨害するように、二隻のギガール軍船が現れた。
「そんな?!」
タン「お姉さん!」
軍船はゴーテン号に対し、横向きになりその腹から大砲が現れた。
その総数三十二門(二隻分、片側のみ)、対してゴーテン号は僅かに三門。
ドオオンッ
カクヨムで❪TS逃亡勇者の憂鬱❫、連載中です。




