手記
◆マリン視点
私が目覚めたのは、魔力切れで気を失ってから三日後の朝だった。
シンとマデリンから事の次第を聞いて、私は愕然とした。
「それで、その男達は誰もその素性がわからないのね?」
マデリン「はい、ルケル王太子殿下がハベルという男を武官に任命し、秘密裏にいろいろさせていた様子ですがそれ以上は」
「参ったわね」
なんでこうもあの子が狙われるのか、私達の知らない何かが動いているのではないのか。
シン「それと、これはグリン殿下からでルケル殿下の手記との事です。隠すように服の中に縫いつけてあり、女神神殿に関わる内容が書かれているとの事です」
?!女神神殿?、何故、ここで女神神殿の事が話しに上がるのか?
シン「それでは、これでマリン様」
「レッドを追うのね、気をつけて」
シンは、会釈をして部屋を出ていった。
あの日、ハルージャを出発した荷馬車は全部で十二台、それにあたりをつけレッド達はその日の内に出立した。
「少し時間を貰うわ。これまでの経緯はお母様に報告して」
マデリン「わかりました」
マデリンが下がったところで、私は手記を開いた。
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◆王国歴三百三十三年 紅の月
一人の男が私を訪ねて来た。
その男は自らを、女神神殿の副神官長と名乗り、私に❪魔法使いにならないか❫といってきた。
初めは眉唾だと、門前払いとしていたが女神神殿の聖女は男が作り出したという。
そして、魔法を出す魔獣を見せられた時、私は男の話しを信じ、男に施術を頼んだ。
効果は絶大だった。
私はその日から、魔法を行使できるようになったのた。
これで弟達を見返す事ができる。
母上の無念を晴らす事が出来る、そう思った。
だがそれと同時に、日々要求が大きくなる男に疑念と恐怖が生まれた。
この男は自由に魔法使いを、作り出す事が出来る。
それは、何の能力を持たない平民であってもだ。
魔法使いという一握りの特権に人生を狂わされた私にとって、それは耐え難いものだった。
私は男を殺した。
そして、男が持っていた書類を読んで私は恐怖した。
魔法使いにする施術は、宝玉を心臓近くに埋める事で発動できる。
だが、その延命率は三の月だというのだ。
男は最初から、私を殺すつもりだったのだ。
それから三の月、私は死の恐怖に苛まれていたが、三の月を過ぎても私に変調は訪れなかった。
その後、私は一つの仮説を立て、小さな魔獣で実験を繰り返す内、ある確信に至ったのた。
まず、男が私に施術した宝玉が女神神殿の聖女から取り出したものである事。
そして、魔獣の実験でただ宝玉を施術した魔獣は、たしかに魔法を行使できるようになったがニの月で物云わぬ人形になり、三の月で心臓が停止した。
死んだ魔獣の宝玉は消失し、かわりに心臓が結晶化していた。
よって、あの男は聖女が生きている内に宝玉を聖女の体から抜き取ったことになる。
これを踏まえ、魔獣の実験を行ったところ、全ての魔獣で三の月を過ぎても変調はなかった。
ただし、同種の魔獣の体内から抜き取った宝玉でなければならない。
別種への施術は、三の月を越えての延命は出来なかった。
また、抜き取られた検体が延命することはできなかった。
心臓に宝玉が癒着するからだ。
よって、魔法使いを作り出す方法とは、人間に宝玉を埋め込み、廃人になってから取り出した宝玉を新たな人間に施術する事だ。
取り出した人間が死ぬ事から、❪生け贄施術❫と呼ぼうか。
どちらにしても鬼畜な施術といえる。
私は、これらを封印するつもりだ。
だが、奴らはこれを狙っている。
隠さなければならない。
わが愛しの家族の為に
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サハラ島の実験、魔獣兵器、聖女、これで全てが繋った。
奴らとはおそらく、帝国だ。
そして、奴らの目的はこのルケルの❪生け贄の施術❫だ。
では、彼女を拐った連中は帝国の命を受けたものだ。
なんの為に?ルケルを脅す為に彼女を拐った?
でも、奴らはルケルが死んだ事を知っているはずだ。
なら、何の為だ?
そういえば、前にリンちゃんからの手紙で彼女は、ホムンクルスで賢者の石が心臓の代わりになっていると書いていた。
賢者の石がどんな物か判らないけれど、もし、それが宝玉と同じような物で帝国がその内容を知っているのだとしたら?
「帝国の狙いが最初から賢者の石だった?!」
不味い、なら、リンちゃんの命は!!
コンッコンッ
「マデリンです。至急、お伝えしたい事が」
「いいわ、入って」
カチャッ「失礼します」
「どうしたの?」
「それが、ブラック殿下の側近ベクターから魔道レターが届いたんですが」
「?」
「行方不明らしいんです」
「誰が?」
「ブラック殿下です」




