スローライフは山田と共に(ガウガウ) [挿絵アリ]
「おおーっ、ここが師匠が使っていた魔の森の隠れ家か、いいところだなーと」
僕は今、やっと師匠がかつて住んでいた魔の森の隠れ家にやってこれた。
森を進むと突然、木々の無い開けた空間が現れ、中央に小さな丸太小屋があったのだ。
「苦節四十年、長かったなぁ、ってあれか、前世分足したら駄目じゃん?!」
とりあえず、周りを見回してみる。
「あれ?井戸がないけど水はどうしてたんだろう」
うーん、あ、そうだ、師匠はなんか魔法で作り出してたわ。
「やってみるか、ええと、魔法陣書いてたな、面倒だ、こう、水よ、出でよ!なんちって」
ザバーッ、ガコン
「………頭から水を被る、は、分かるが、いやいやわからんけど、なんでアルミの桶が頭に?!いまどきこのギャグ使う?」
桶を取る、ただのアルミ桶、自分にとっては前世で見慣れた物たがこの世界では初めてだ。
「アルミ金属、ここではアーティファクトじゃない?!」
ガコン
「……………誰か、わざとやってない?桶、要らないんだけど!」
ザバーッ
「……………ヤバい、思考の切り替えを、水と桶から離れないと!」
ザバーッ、ガコン
「ムキーッ!!」
桶をぶん投げる。ガラン、転がっていく。
なんか息が上がってクラクラする。
ふと左手を見る、手のひらが虹色に輝いてる?
「まず、賢者の石の制御があまい!落ち着いて、かけ声は必要か、魔法解除!!」
手のひらの輝きが消える。
シーン、しばらく待ったが水も桶も止まった。
「賢者の石の力は❪力の授与▪増幅▪統合❫だけじやない?僕が魔法を使えているのは石の力か、使い方を考えた方がいいな」
ギャーッ、ギョーッ、ギャーッ
鳥?の泣き声がする、先の森から十数羽が飛び立つのが見える。
「なんだ?なんかあったな、いってみるか」
魔物避け袋を腰に着ける、師匠直伝だ。めちゃ効く。
ざっ、ざっ、ざっ
林の向こう、鉄な匂い?否!血の匂いだ!!
僕はいつの間にか駆け足になっていた。
「ハァ、ハァ、ハァ、なんだ?!熊、熊の親子?血だらけだ、あれは鎧鬼熊!!あ、やったな!くそっ間に合え!」
鎧鬼熊、ドラゴン種に並び立つ生態系頂点に近い存在、身体は十メルとジャイアントベアーに拮抗するが、特徴は頭に生えた角、そして身体を覆う固い鎧骨だ。
鎧骨は剣すら弾き、角は鉄の盾を貫通する。
その角が今、まさに一頭の親熊の胸を貫通した。
「ガウアッ」
「グウアアア………」
「ガウ?!」
「クウゥン…」
うーん、何を言ってるかわからん。
だが、状況から父熊?が倒され母熊が小熊を守っているところか、あまり時間は無いけど僕に出来ることがあるかな?正直、無我夢中で走って来たけど非力な僕は殺されに来ただけじやない?
ズウンッ
父熊が倒れ、母熊がその爪を鎧鬼熊に振るうが鎧骨には傷もつかない。
身体差も圧倒的だ、母熊は七メル、小熊は一メルもない。
あ、母熊が鎧鬼熊の片手に吹き飛ばされた。
僕は思わず両手を拡げて鎧熊と小熊の間に立っていた。
鎧鬼熊が右手(右足?)を振り上げる。
僕は迫る恐怖の中で茫然と言った。
「あ、死んだ」
「ガウッ!」
「グオッ?!」
その瞬間、鎧鬼熊の背に母熊が噛りついた。
「グオオオオッ」
「ガウウウッ」
やっぱりわからん。
「今のうちだ、ほら、君、一緒に逃げよ」
「クウウウン」
僕は、小熊のお尻を押してなんとかこの場を離れようとしたが、小熊は全く動かない。
「ここにいたら殺されちゃうんだって、うーん、重いい、早く立ってよ!」
「ギャンッ!」
「あ?!」
振り向くと母熊の腹を鎧鬼熊の角が貫いていた。
そのまま母熊は吹き飛ばされ、動かなくなった。
そして鎧鬼熊はゆっくりと僕達に振り向くと、立ち上がり僕達の前に来た。
もう駄目だ。
僕は再び死を覚悟した。
その時だ。
「ガアウッ」
小熊が鎧鬼熊に突進した。
「ああ、駄目だ!!敵うわけない、殺される!」
鎧鬼熊はゆっくりと右手を上げていく、口元が笑ってる、くそっ、誰か、誰か小熊を助けてくれ、止めろ、奴の腕が振り下ろされる。
「止めろーつ!」
突然、僕の前に伸ばした両手から虹色な光がでて小熊を包みこむ。
その途端、小熊が急加速し前足の爪を伸ばしたまま鎧鬼熊に突っ込んだ。
「ガウ???!」
「ガーウーウーンッ!!」
ドカッ、ズシャッ
小熊はいつの間にか、鎧鬼熊の後ろにいた。
そして鎧鬼熊の腹に小熊サイズの大きな穴が開いていた。
「ガ?!グアアアア!」
ズウウンッ
鎧鬼熊は倒された。
僕はそれを見た後、意識を失った。
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「佐藤、何時も言ってるだろ、やられたらやり返さないと、あいつら懲りずにまたお前を虐めてくるんだって」
「うるさいな、あんなガキども、無視してれば気にならないよ」
「佐藤はいつもそうやって一人になって、また俺みたいなだれかの盾になってるんだ」
「僕に近づくとお前、また虐めが始まる、離れるんだ」
「佐藤!」
「山田、佐藤っていうな、どこの佐藤かわからんだろ、日本で佐藤って何百万人もいるんだぞ」
「じゃあ、麟太郎」
「気安いな、山田」
「山田じゃない、俺の名前は▪▪▪▪だ」
「何?よく聞こえなかった、君の名は?」
「▪▪▪▪」
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「うーん、なんか懐かしい夢を見ていたような」
「ガウッ」
「うお?!、おお君、大丈夫だったか?ってここは?」
周りを見るといつの間にか、丸太小屋の前だった。
「お前、ここまで僕を運んで来てくれたのか」
「ガウ」
「愛いやつ、愛いやつ、あ、あ、むえ?うお、な、は、?!あ、や、やめ、舐めないで、あ」
小熊の頭を撫でていたら、小熊にベロベロ僕の顔を舐めまわされた。
「わ、分かった、分かったからストップ、ストーップ!」
僕は立ち上がって小熊を見る、ちょこんと座ってやっぱりカワイイ。
「あれ、また、賢者の石の力だよね、この子があんなに強くなるなんて。ほんと使い方、気おつけないと、ん?」
あれ、この子、一応魔物だよね?なんで魔物避けが効いてるこの土地に入れたのかな?
「んーっ、ま、いっか、お前、僕とここで暮らすか、一人だと寂しいだろ」
「ガウ」
「うわ、また、ぶわっ、分かったから、ぶ、もうやめって」
僕は子熊にまた、飛びつかれて舐められた、べしょべしょだ。
「ふーっ、じゃ、今日からお前の名前は❪山田❫だ、いいな」
「ガウ」
山田は嬉しそうに僕の周りを回った。
「とりあえず、山田の両親のお墓を作らないと、いくよ、山田!」
「ガウッ」