開催
沢山の人々、飛び交う怒号や声援、熱気。
ついに武闘大会が始まった。
僕とお兄ちゃんは観客席からさらに上段の展望席から見てるけど、とにかく人、人、人の数に圧倒される。
それでね、皆がお兄ちゃんに手を振ってる。
お兄ちゃんが皆からすごく尊敬されてるのがわかる。
エテルナさんやエミリーちゃんは恐ろしく怖い人って言うけど、そんな事はないんじゃないかな。
だって僕の大好きなお兄ちゃんは僕の家族だもん。
「ねぇ、お兄ちゃん、皆がお兄ちゃんに手を振ってるね。お兄ちゃんはすごく尊敬されてるね」
「ふふ、あれはそなたに手を振っているのだ」
「僕?」
「手を振ってみろ」
僕は片手を軽く上げ、手を振ってみた。
観客A「あああ、聖女さまが俺に手を振ってる?!」
観客B「違うわよ、あたしに手を振りなさったのさ、聖女さま~!」
観客C「きゃーっ、聖女さまー、こっち向いてー」
観客D「オルトブルクの奇跡だ!」
ワァーッ、ワァーッ
「え?、ええ?!聖女さま??って、誰?」
「そなたの事だ、いまや、領民は皆がそなたの事を聖女と呼んでいる」
「やだな~聖女なんて、僕はお兄ちゃんの家族だもん」
お兄ちゃんはニコッとして、僕の肩を引き寄せた。
僕はお兄ちゃんの肩に頭を寄せる。
お兄ちゃんの心臓の鼓動が聞こえる。
「ああ、そうだ」
「ずっと、ずっといっしょだよ」
「!ああ、ずっと、ずっとだ!」
「うれしい」
「!む、?!」
◆◆◆
ルケル視点
「!む?!」
「どうしたの?」
「いや、何でもない」
私はオリビアの頬にキスをして離れる。
「お兄ちゃん、くすぐったいよ」
オリビアは顔を赤らめながら離れていく。
可愛い、その一つ、一つの仕草が私を捉えて離さない。
かつてあれほど執着していた王へのこだわりや、魔法使いにたいする憎悪も最近薄れてきている気がする。
唯一、家族と呼ぶこの子がいれば何も要らないと思えるほどに愛しく感じる。
!まただ。
先ほど感じた殺気と同じものだ。
私は魔法を使えない事を補えればと、幼少の頃から剣術にのめり込んだ。
いまでは師範役の剣術家にはみな、勝った。
だから、私に向けられた殺気はかなりの遠方でない限り、感じとれる様になっていた。
どこだ?観客席ではない。
武闘大会出場者控え席か!いた、なんだ?妙な仮面をかぶっている。
赤髪、緑髪、金髪、いずれも似た仮面だ。
しかも、弟達と同じ髪色か。
ふ、いいだろう。
勝ち上がってくるがいい。
お前達が魔法を使おうと私は負けん。
オリビアは私のものだ、誰にも渡すつもりはない。
◆◆◆
レッド視点
グループ名、仮面三兄弟で登録し、ここまで勝ち上がって上位十グループに入って小休止だ。
観客「ああ、聖女さまだ」、「聖女さまが手を振っていらっしゃる、ありがたや、ありがたや」
「?!」
観客達の声で思わず展望席を見ると、黒髪の美しい少女が片手を振ってにこやかに笑っている。
リン!やっと君の姿を見つける事ができた。
早く君の近くに行き、その手を取りたい。
!隣にいるルケル兄上が、リンの肩を抱き寄せる。
ああ、なんて幸せそうな顔で兄上を見上げてる?!そして、そして頭を兄上の肩に預けるだと!
これが作られた感情だとしても、兄上に嫉妬の業火を燃やさずにはいられない。
グリン「兄さん、少し力を抑えて」
イエル「レッド兄上、回りが不味いです」
気がつくと回りを冒険者達が遠巻きに見ている。
どうやら魔力が漏れていたらしい、俺は魔力を抑えようと平常心を保つように心を鎮めた。
チュッ
だが、駄目だった。
兄上がリンにキスをしたからだ。
控え席は高温になり、俺以外は誰も居なくなった。
◆◆◆
カル視点
おれたちは、ギルマス、ラルのお陰でグループ戦の混戦を勝ち残った。
それで次の代表戦に向けて小休止してたんだけど
ラル「おい、おい、おい!なんなんだ、あのバケモンは?」
英雄のレッド王子って言えないよ。
リム「英雄のレッド王子だぜ、後ろの二人は知らねーけど」
ラル「は?!英雄?レッド王子かよ!」
「………………………………………………」
ふぅっ、リム、ほんと、口が軽い。
「ラルさん、このことは内密に。いろいろあって、王子達とは顔見知りです」
ラル「そうか、それもあの聖女絡みか?遠目だったが間違いねぇだろ」
そうだけど、言うことでもない。
リム「そうなんだよ、聖女さまはオレ達といっしょだったんだけど、途中で誘拐さ、モガッ」
おれはリムの口を手でふさいだが、遅かったらしい。
ラル「どういうことだ?カル」
「後で話します。それよりこの後の代表戦、自分が出たいんですが」
ラル「実力差は分かってるな?お前は俺より弱いが、あの王子は俺より強い」
「それでも、同じ土俵に上りたい」
じっとおれはラルの目を見た。
ラルはニヤっと笑い、言った。
ラル「…………若いな、いいぜ、やってみな」
リム「ええーっ、ラルさん、そりゃないよ?!」
ラル「てめえは黙ってろい」
リム「う、はい」
身分も実力もたしかに届かないけど、それでも彼女への想いは絶対負けたくない。
それを示す為に。
◆◆◆
とある観客席
串焼き屋「串焼きはいらんかねー、エールもあるよー」
メイサ「おっちゃん、串焼き二つ」
串焼き屋「まいど、美人姉妹に一本おごりだ、ほれ」
メイサ「おっちゃん、分かってるーっ、ありがと」
ミン「メイサさん、食べ過ぎじゃ?」
メイサ「はい、美人な妹へ」
ミン「………ありがとうです」
ミンは食べ過ぎな件を誤魔化された気がしたが、美人の言葉に流していた。
メイサ「それで?タンが何処にいるって?」
ミン「ええ、たぶんこの近くに?」
ワウッ
二人が狼?の声に振り返る。
マリン「ん?」
そこには獣化したタンを抱くマリンがいた。




