号外
何が起きてる?
わからない、ワカラナイ、ナニヲサレタ?!
わ~ん、うわ~ん、うわ~ん
子どもが泣いている。
母親が倒れている?さっきまで僕に感謝で笑っていた子どもが母親にすがって泣いている?!
やったのはあいつ、ルケルの従者のあいつダ!
「お前!!、なんて事をするんだ!」
僕は母親のところに駆け寄った。
バチッ「がっ?!!」
僕は激しい痛みにみまわれ、母親にたどり着く前に膝をつく。
「これ以上、勝手はさせん」
ルケルが腕輪を弄ってる!?あれで僕に痛みを!
僕は苦しい息の中で、ルケルを睨みながら叫んだ。
「やめ、て、なんで……ぎっ、邪魔、す、るな!は、やく、あの人の、とこ」
従者「死にました」
「?!!」
従者が母親の首筋を触りながら言った。
その途端、僕から激しい痛みが消えた。
ルケルが腕輪から手を放したからだ。
僕は従者を押し退け、母親のところに駆け寄った。
子ども、女の子が真っ赤になった目で僕を見ながら震える声で僕に言う。
「お母さんが、死んじゃった、うえ、おがあさん、うええん」
僕が母親に触ったのを見て、ルケルが言う。
「無駄だ、例えお前が聖女だとしても死んだ人間を生き返らせる魔法はない」
僕はルケルに背を向けたまま、ルケルに問う。
「なぜ、こんな事を」
「そこに気絶している男はクズだが一応、貴族だ。だが、お前の対応は間違っていない。お前は伯爵令嬢だ。お前に無礼を働いたのだからな。しかし、その子どもは間接的に王太子である私の馬車を止めた。その責は親にある。平民なら死罪は免れぬ」
「そんな理屈、馬車を止めた事が命より重いなんておかしいよ!」
ここは公爵領第一都市オルトブルク、日はすでに沈み回りはすっかり暗くなっていた。
回りにはこの一連の騒ぎを見守っていた人々の人だかりが、さらに増えていた。
僕は立ち上がり、天空に両手を広げた。
ルケルが腕輪に手を近づける。
「腕輪を使うなら使うがいいよ、僕は止めるつもりはない」
「なにをするつもりだ」
「命はね、誰でも一つ、だからどこまでも尊い、それは王族、貴族、平民変わらないよ」
「王族と平民の命が同等だと?!」
僕は呪文をとなえる。
「大地の星霊よ、その力を我に授けよ、天空の星霊よ、この者の心を戻したまえ」
キイイイーン、天空より真っ白い一筋の光がふりそそぐ。
大勢の人々が天空を見上げ、目を丸くして驚いている。
さらに白い眩しい光が僕と母親を包む、さらに僕と母親が1mほど浮かび光が強くなる。
女の子が口を開けたまま、身動きせず目を見開く。
従者が呆気にとられ、ルケルが茫然と事の成り行きを見守る。
「なんだ!?これは?!!」
そして最後の言葉を僕は唄う。
「女神よ禁忌を許したまえ、世界の力よ、今ここに!スターリザレクション!!!」
カッ、ピカッ
その日、公爵領第一都市オルトブルクはその全域が一瞬、目映い光に包まれた。
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ここは、王太子領中央都市ハルージャ。
「号外、号外、公爵領オルトブルクの奇跡、聖女様降臨だ、十万人が奇跡の目撃者だよ、買った、買った!」
シン「殿下、この記事は!?」
シンが号外を受け取り、レッドに渡す。
レッド「リンか?!公爵領に?」
タン「お姉さん」
三人は先ほどハルージャに到着したばかりだ。
そこに声をかける者がいた。
「ねえ、何で貴方達がここにいるわけ?」
三人が振り向いた先にいた人物は、美しいピンクの髪、金の瞳、白い肌、均整のとれた顔、まさに美女、エンポリア公国ピンクマリン第一王女その人である。
その彼女がレッドとシンを疑いの眼差しで見つめていた。
その横には、従者マデリンがいる。
レッド「………………」
レッドは無言で俯いている。
マリン「シン?」
シン「申し訳ありません、マリン様、守れませんでした」
◆◆◆
ここは、さきほどの場所から近いところにある食堂である。
その後、事の次第を聞いたマリンは大きくため息をついた。
マリン「英雄が二人もいて、女の子一人も守れないなんてね」
相変わらず、マリンの言は辛辣だ。
三人とも、俯いてしまった。
マリン「それで?何か当てがあるの」
シン「これです」
シンは先ほどの号外をマリンに渡した。
それに目を通していくマリン。
マリン「なるほどね、確かにこんな事が出来るのはリンちゃんしかいないわ」
ガタッ
レッドが立ち上がる。
マリン「どうするつもり?」
レッド「その親子にリンの事を聞く」
マリン「どこに住んでいるか、わからないのに?」
レッド「聞いて回る」
マリンは額に手をやって俯いた。
英雄でこの国の第二王子、実直で信義に厚くそれなりに思慮深かったはず、それがリンの事になると人が変わった様に回りを見ない。
危うい、という感じすらある。
マリン「一日だけ待ちなさい。マデリン、頼める?」
マデリン「はい」
その瞬間、マデリンの姿がかき消える。
「「「!」」」
マリン「彼女はうちの諜報部隊長なの。情報収集は得意だわ。信じて待ちましょう」




