奴隷の首輪
僕の兄とは血は繋がってはいない。
兄とは八歳差だった。
父の連れ子だった兄は、僕の母とはなかなか打ち解ける事はなかった。
まして、その子供である僕とは年が離れている事もあり、会話すらほとんどした事がなかった。
でも、母が失踪して僕が母を求めていつも泣いていた時、初めて兄が僕に声をかけてきた。
「うるさい、いつまでも泣いてるな!」
「うう、ひっく、うえーん」
「ばか、お前は男だろ。母ちゃんなんかいなくても生きていけるはずだ」
「……ひっく、……」
「あ~っ、わかったよ。おれがいっしょに居てやる。今日からおれがお前の兄ちゃんだ」
「兄ちゃん?」
「ああ、家族ってやつだ、だからもう泣くな」
「かぞく、兄ちゃん!」
「そうだ!家族の兄ちゃんだ、わかったか?」
「うん、かぞく、兄ちゃん!」
それから僕は母の代わりのように兄を慕い、よくついて回った。
社会人になってからも、よく兄に相談とかしていたなぁ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「うーん、は?ここは?!」
目が覚めると、豪華な部屋の天幕付きのベットの上だった。
なんかプロレス出来るくらい、広いベットなんですが?
ジャラッ
「え?な、に、これ!」
首輪?!鎖付き首輪が僕の首に付いている!
これじゃまるで犬か何かだよ、人をなんだと思ってるのさ!
僕は首輪に手をかけて外そうと、首輪と首の間に指を入れて引っ張った。
バチッ
「ひぎぃ……………?!!??!」
痛い、痛い、痛い、なんなのこれ?!なんか脳天突き抜ける痛さなんだけど?電気ショックみたいな??!
僕は悶絶してベットにつんのめる。
その時、ドアが開いて一人の男が入ってきた。
「あちゃーっ!、やっちまったか?」
「うっ、だ、誰!?」
頬に大きな傷がある男、あれ?何処かで見た事があるような?
「悪かったな、あんたが何時起きるか、分からんかったからな」
そう言って男は懷から僕の仮面を取り出した。
「いや、まさかあの時の怪しい仮面があんただとはな、わかんねえもんだ」
あれ、やっぱりこいつ、見た事あるやつ?僕は目を細めて男を凝視する。
その瞬間、思い出した。
「あーっ、ヤナ町の近くでカリスさん達を襲った盗賊!!」
「ハベルだ、盗賊っていうな!」
「なんでお前がここにいるのさ!?」
「そりゃあ、あんたを拐ったからだな」
「拐った?あの時に?」
こいつ、山田がいたあの場所にいた?都合よくあそこに?
僕は男を睨む。
「山田に何かしたのは、お前か?」
「ヤマダ?なんだそれは」
「ジャイアントベアーがいただろう!」
男はピクッと眉をあげ、また懷を探ってなにやら人形を取り出した。
「なるほど、その黒髪とこの小さいところ、似てる、似てる」
「はぁ?」
「あんた、英雄の仲間のリンレイだろ?生きていたんだ」
「その事と山田の事、関係ないだろ!」
なにを言い出すのか、この男は。
僕がそんな三頭身人形に似てるって?フザケルナ!
「それが関係あるんだわ、あいつ、この人形を見せたら素直に俺達の仲間になったんだぜ」
「そんなアホな理由があるか、ふざけるな!」
いくら山田でも、そこまでアホなわけあるか!
「まあ、あの場は流石に操らせてもらったがな」
「操る?」
僕は男をもう一度睨む。
「かーっ、そんな可愛い顔で見つめられたら理性が飛ぶぜぇ!」
「見つめてんじゃない!睨んでるんだ」
ばかにするな!
「ま、いいや。今、あんたが付けているのが❪奴隷の首輪❫っていうやつで主人に逆らったり、無理に外そうとするとあんたが経験した通りになる」
「…………………」
「それの上位の首輪に❪隷属の首輪❫ってのがある。弱い意思なら意識を奪い自由に操れる。これでな」
ハベルは自分の腕に嵌めた腕輪をみせる。
「お前が」
「ん?」
「お前が山田にあんな顔をさせたのか!!」
頭きた!こいつの顔面にパンチッ、僕は手をグーにして腕を振り上げ
バチッ
「!!かっ……………………!!??!は………!!」
い~たあい!痛い、痛い、痛い、声がだせない!僕はまた悶絶して突っ伏した。
「あちゃー、涙と鼻水とヨダレで可愛い顔が台無しだぜぇ、嬢ちゃん学習しようぜ」
「っ、」
「ま、俺の部下がやられて解放されたはずだから、大丈夫じゃねえか?」
!!本当か?!
トントン、「入りますよ」
「ちっ、ここまでか。じゃ、またな嬢ちゃん」
ハベルは立ち上がってドアに向かう。
入れ替わりに年配の貴婦人が入ってくる。
「あら、未婚の女性の部屋に無粋ですね、どういうおつもりですか」
「もう、用事はすんだんで出ていきますぜ」
バタンッ
「…………どこの馬の骨かわからぬ下賤の者を屋敷に入れるなど、殿下はなにを考えておいでか?」
貴婦人は少しハベルが出ていったドアを睨んでいたが、ため息をついたあと僕の方を向き直った。
「起きましたのね、あら、酷いお顔ね?また、反抗したのかしら」
「………………」
何、この人?なんか細目の眼鏡、茶髪な髪を団子髪にして綺麗な人だけど怖くて気難しい感じ。
「大国ギガールの皇族と聞いていたけど、返事も出来ないのですね?令嬢教育以前に一般教養からですか、大変ですね。まずは、その酷い状態をなんとかしませんと」
パンッ、パンッ
彼女が手を叩くと、数人の侍女がドアから入ってくる。
「湯浴みと着替えを」
侍女A「はいマダムイライザ」
侍女達が僕の回りに集まって、う、止めてよ!このままでいい、触らないでよ!服を脱がそうとしてくる侍女に抵抗していると
ビシッ「いっ!」
僕の肩に痛みが走る。
マダム?が手に小さい鞭を持っていた。
「何を手こずらしているのです!いつまでもそんなはしたない格好でいるつもりですか?」
はしたない格好?僕は初めて視線を下に向ける。
スケスケネグリジェで胸に巻いてたはずのサラシがない、あの野郎、だからずっとニヤついてたのか!
僕は半ば強制的に浴室に連れていかれ、身体中を磨き上げられたら、部屋で絶賛着替え中だよ、しかも、今、死にそうなんだけど。
だってコルセットを侍女の人、すごく締め上げるんだけど!メチャ苦しいんだけど。
侍女C「あの、お嬢様?なにか香水かお使いですか?あと、髪になにかお付けになってらっしゃいます?」
そばかす茶髪侍女が聞いてくる。
「?何も付けてない、香水なんて使った事ない」
侍女C「そうですか。あまりに髪がサラサラで櫛が要らないくらいなので」
侍女A「なんか、髪がうっすら光ってません?」
侍女B「なんですの、この匂い、すっごくいい気持ちになるんですけど」
いやいやいや、へんな香水も整髪剤も怪奇現象もやってません、白状します。僕は無実です。
結局、僕は豪華なドレスに着替えさせられた。
うう、歩きづらい、コルセットは苦しい、あと重い、開放感ゼロ。
鎖は外してくれたけど、首輪はそのままだ。
イライザ「あら、血統だけの乳臭い娘かと思っておりましたが、結構さまになるものですね。改めて紹介させて頂きますわ。私はイライザ▪フォン▪グーデンベルクと申します。グーデンベルク伯爵家当主をしております」
イライザはカーテシーをして挨拶してきた。
「………リンレイです」
パシッ
「いっ!」、また肩に鞭!?
「挨拶から更正しませんと、とてもじゃありませんが社交界に出られませんわ。あなた、殿下に恥を掻かせるおつもり?」
「?殿下??!」
「ルケル王太子殿下、貴女の婚約者ですわ」
「はいぃ?」
パシッ「いっ!」
誰?なんか知らない内に婚約者が出来た?でも殿下って
「あ、あの」
「はい?なんですの」
「その方って男です?」
「当たりまえでしょう?!同性の婚約者がいるわけありませんわ!」
「……………………」
僕は知らない間にBLの世界に異世界転移したようだ。




