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失くしたもの

メディ「メディ?」


「そう、それが貴女の名前」


メディ「な、ま、え、メディ?」


「ん、あなたの名前がメディだよ」


メディ「な、ま、え、あなたのなまえがメディ?」


「違う、僕はリンレイ、であなたがメディ」


あれから、カルのおかげで子供達は人形でなくなったんだけど、みんな記憶喪失になっていた。

子供達は自分の名前すらわからない状態で、名前が分かるのはメディちゃんだけ。


でも髪に艶が戻ってきて、日に日に元気になってきてるのが分かる。


公国の医師によるとショック性の一時的な記憶喪失、ではないかとの事だけど記憶が何時戻るかわからないとの話だった。


どちらにしても、今の僕にできることはない。


「マリンちゃん、メデイちゃんは僕が両親のところまでつれていくけど、他の子はどうするつもりなの?」


「女神神殿が家族の情報を持っているから大丈夫よ、神殿からの返信をまって必ず家族の元に帰すから」


「ん、わかった。じゃあ、この子達とはここでお別れだね」


僕は一人、一人にハグをしていく。

短い間だったけど僕は本当の家族の様な気がしていた。

子供達はわけが分からず、なすがままだけど。


明るい茶髪の女の子、灰色髪の女の子、緑髪の女の子、本当は名前を聞いておきたかった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



その頃、別室でブラックは側近のベクターからサハラ島での事後報告を受けていた。


ベクター「はい、サハラ島を脱出した研究員は直接、本国の港から帝都に向かっているようです」


ブラック「そこに残りの子供達がいるのだな」


ベクター「エルヌナ港から馬車六台で出たようです」


ブラック「帝都に着く前に押さえられるか」


ブラックに一瞬、睨まれたベクターはため息をついてから言った。


ベクター「………ぎりぎりです、が、最善を尽くします」


ガチャッ、そこにノック無しでマリンが入ってくる。


ブラック、ベクター「!」


マリン「その話、あまりこの場でしないで。あの子に聞かせたら助けに行くって言い出すわ」


ブラック「ああ、もう終わった」


ブラックに目で合図を受けたベクターが、頷いて部屋を出ていく。

それを見ながらマリンが言う。


マリン「私は女神神殿からの連絡をここで待たないといけないの。残る子供達の護衛もね。だからリンちゃんについて行けない。ただ、あの子の精神はかなり疲れているわ。これ以上、負担をかけられない」


ブラック「ああ、分かっている。リンに同行するつもりだ。本国に戻るのだからな」


マリン「本当は私がついて行きたいのよ、でもそれが出来ないから貴方に頼むの。レッドのことはシンに頼んであるけど、あれは情緒不安定だから、何かあれば暴走しかねない。それを止められるのは貴方だけだわ」


ブラック「ああ」



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



数時間後、僕らはメディちゃんを送り届ける為、王太子領中央都市ハルージャを経由してギガール帝国レブン領ヤナ町を目指す。

それで馬車を手配して今、乗り込もうとしたらなんかレッドさんとブラックさん、シンさんがついて行くっていうし、なんだか大人数なんだけど。


リム「はぁ?メイサとミンがハルージャにいない?どういうことだよ!」


カル「なに?」


タン「いろいろあって、王都にいるって」


「どうしたの?」


リム「リン、ミンとメイサが王都にいるんだ」


「そうなんだ、安全なところ?」


タン「うん、大丈夫」


「ならいい、僕らはメディちゃんを送り届ける」


僕はくるっと後ろを向くと、御者に道中の見込み日程を聞きにいく。


リム「なんだよ、理由とか聞かないのかよ」


リムが何か言ったけど、今の僕はメディちゃんを無事にケプラ男爵とカリスさんに送り届ける、それが僕がやるべき事。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



港湾都市シアラのエンポリア公国領事館、そこからやや離れた路地に四頭だての大型の幌馬車が止まっている。

そこに一人の男が駆け込んだ。


盗賊A「お(かしら)、やつら、動きだしましたぜ!」


「こら!お(かしら)いうな!」


盗賊A「へぇ、んじゃリーダーで?」


「武官ハベル様だ、間違えるな!」


盗賊A「へい、んでどうするんで?」


「奴等が街を出たら仕掛ける、それまで待機だ」


ハベルはニヤリとしたあと、後ろを振り返る。


「くく、待たせたな、そろそろ出番だぜ」


そこには大型のオリがあり、なかに茶色の毛に覆われた大きな獣がいた。


「ガウウッ」



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



ここはランス王国王宮会議室、今、元老院会議が開かれる予定であった。


ベンセン侯爵「緊急招集との事だが、議題の事前開示がないのはどういう事ですかな?」


フォルト侯爵「私は何も聞いておりません。聞かれても困りますぞ、キリング殿、あなたは何かご存じでは?」


キリング宰相「いやいや私も今朝、陛下から話があった次第で」


ふと、ベンセンは回りの座席がいつまでも空席であることに気がついた。


ベンセン「はて?ほかの者はまだですかな」


フォルト「おお、そうだ、なぜにいまだ我らだけなのだ?」


ガチャッ


その時、会議室のドアが開かれエバンス王と数人の近衛兵が入室してきた。


「「「!陛下?!」」」


「そのままでよい」


「「「はっ」」」


エバンス王は三人を見回した。


「本日の議題だが、本来は正規の手続きを取って議会を招集し、討議するつもりでいたがそれがかなわない事となった。このような事態に至るまで気づかなかったとは、全ては我の責任よ」


「「「?」」」


この言葉に三人は顔を見合わせた。


キリング「陛下?いったい何をおっしゃっておいでか、私どもにはわからないのですが?」


ベンセン「それにこの近衛兵はなんですかな?」


ばさっ、三人の前に数冊の書類が置かれた。


「まさかな、元老院議員八名が全員、違法な人身売買に関わっていようとは、全くもって情けない」


「「「?!陛下」」」


「分かっておる、お前達が国交をもたない獣人国から鉱山の安い労働力として数年前からルケルを通じて購入していた事、その見返りとしてルケルを王太子に推挙した事も」


キリング「お待ちください!我らにはなんの事だか!」


ベンセン「まったくの濡れ衣ですぞ」


フォルト「わ、私は関係無い!私が扱っていたのは荷車用の獣だ!」


「証人をこれに」


ガチャッ、ドアから一人の獣人が入ってきた。


「「「?!」」」




「王太子領の奴隷収容施設に拘束されておりました、ハン国王太子、ダンケと申します」



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