魔獣兵器(マリン視点) [挿絵アリ]
ここは港湾都市シアラのエンポリア公国領事館、下船した私達はここに一時滞在する事にした。
理由は子供達とリンちゃんの疲弊が思いの外、大きく今の移動は適切でないとの判断からだ。
リンレイ「ほら、美味しいスープだよ。メディちゃん、はい、食べて」
メディ「………………」
リンレイ「ほら、ね?、お願いだから一口、食べて?」
この子達、助けだしてからずっと反応が薄い、ただ、一日、壁を見つめて椅子に座って瞬きもしない。
一人は眠ったままだし食事もほとんど取れない。
だめね、目に光がない、表情が固まったままだわ。
本当に人形のよう、いったいこの子達は何をされたというの?
ポロッ
「リンちゃん?!」
リンレイ「なんで、なんでこんな、保育園の年長さんくらいの子が、なんでこんな目に!うう、あんまりだ、残酷すぎる」
「…………リンちゃん」
保育園?はわからないけど、リンちゃんの気持ち、よくわかるわ。
はぁ、はぁ、はぁ
!不味いわね、眠った子の息が荒い。
他の子も食事が満足に取れてない。
子どもの体力ではそろそろ限界が近い、このままでは神殿までもたないし、仮に神殿に着いたとしてもまだ直せる見込みがあるわけじゃない。
リンレイ「お願い、あとは僕が子供たちの様子を見てるから、ね、ちょっとだけ僕と子供たちだけにさせて、マリンちゃん」
「もう、わかったわ。何かあったら直ぐよぶのよ」
リンレイ「ん、ありがとう」
ガチャッ、バタン
ドアを閉めた私は、こっそりとドアのすき間からリンちゃんの様子を伺う。
リンレイ「大いなる星霊の力を今ここに、スターヒール!」
パアァッ、虹色の輝きが子供達を包む。
すぅ、すぅ、すぅ
子どもの息が普通に戻った?!
グフッ、
血反吐を吐いたリンちゃんが膝をつく。
「!」、バタンッ、「リンちゃん!!」
リンレイ「マ、リンちゃん?、はあ、はあ」
「もう見てられない、これ以上は回復魔法は使わないで!貴女はもう限界よ!」
あれから、リンは衰弱する子ども達に毎日、回復魔法をかけている。
そのお陰で子ども達はなんとか生を繋いでこれた。
ただ、直近でリンは魔法を使うたびに吐血するようになった。
リンはニコッと笑って首を振る。
リンレイ「大丈夫、僕しか出来ない事だから」
「!………リンちゃん」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「このままだと子ども達より先にリンちゃんが危ないわ」
レッド「どういう事だ?!」
タン、カル、リム、シン、マデリン「?!」
ブラック「回復魔法は命を削る魔法だからだ」
レッド「!?何!」
「さすが、❪異世界の聖女❫の子孫、よく知っているわ」
ブラック「ふん、我がギガールはかつてある大国に侵略戦争を仕掛けられていた。多くの兵士が戦場で傷つき、倒れた。その時、その兵士達を救ったのが異世界から召喚され側妃となっていた[リンコ▪サトウ]だ。彼女の回復魔法は沢山の兵士の命を救い、ギガールを勝利に導いた。だが………」
「戦場で力尽きた」
ブラック「ああ、彼女が最後に魔法を使った時、彼女の髪は一瞬で白髪になり倒れそのまま還らぬ人となった」
ガタッ、ガタッ
レッドとタン、カルが立ち上がる。
「貴方達、何をするつもり?」
レッド「リンを止める!」
タン、カルが頷く。
「彼女が回復魔法をかけなければ、子ども達は死ぬ」
レッド「だが!」
「ばかね、彼女を止められるなら王都の時にも出来たでしょ、監禁でもするつもり?彼女の心が死ぬわよ」
レッドは唇を噛んで拳を握りしめる。
タン「だけど、このままだとお姉さんが死んじゃう!」
カル「なにか、他に方法はないのか?!」
「その方法を探す為に、神殿に向かおうとしたんだけど」
私は爪を噛んで考えたが、良い案が浮かばない。
「そもそも、あの子達があんな廃人同様になった理由を知らなければならないわ」
私はそう言いながらたぶん、まだ隠し事をしているブラックを睨む。
はぁ、ため息をつきながらブラックがこちらに向き直る。
ブラック「まだ未確認な事が多いが、いいか?」
「いまは、僅かな情報でも欲しいわ」
レッド「頼む!」
ブラックは腕組みをし、皆を見回して話し始めた。
ブラック「宝玉という宝石を知っているか?」
「たしか、聖地エトナ山でのみ産出される丸い石よね、百年に一度の❪星振りの夜❫の後しか見つけられない?貴重なものよ」
ブラック「ああ、そうだ。まさかその貴重な宝石を兵器の材料にするとは、思いもよらない事だ」
「「「「「「「?!」」」」」」」
ブラック「我々や魔獣は、みな僅かな魔力を持っている。これは大気中の魔素を呼吸により一時的に取り込んでいるに過ぎない」
リム「魔素?ってなんだ?」
マデリン「魔力の元になるものです」
ブラック「通常は呼吸により大気に戻るが、一部の人間や魔獣はこれを蓄える器官を持つ者がいる」
「それが私達、魔法使い」
ブラック「そうだ、その器官は魔臓と呼ぶ。ここで話しは戻るが、宝玉にある特性が発見された」
ブラックは改めて皆をゆっくりと見回す。
ブラック「ここからは他言無用だ、いいか?」
皆が頷く。
ブラック「魔素を蓄え、魔力に変換する特性がある事が分かったのだ」
「まさか?!」
レッド、カル、タン「!」
シン、マデリン、リム「?!」
ブラック「やつらはあの島で魔法を使う魔獣、❪魔獣兵器❫の研究開発をしていた」




