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忘却

◆グリン視点


イエル「奴隷として捕まっていた人たちは全員、解放出来ました」


「よし、あとはお前、奴隷商人ヘイケル!これが元老院の主要貴族との取り引き帳簿に間違いないな?」


ヘイケル「な、なんの事か、わ、私にはわからん!」


奴隷商人の部下を無力化し無事、全ての奴隷を解放したぼくらは、本来の目的である奴隷商人の拘束を為し遂げた。


「しらをきっても無駄だ、お前の部下が数年前から取り引きしていた事を認めているぞ」


ヘイケル「知らん、わ、私は知らん!」


「リナシュ草!」


ザワッ、ザワッ、ザワッ、突然生えてきた草がヘイケルを締め上げる。


ヘイケル「な、なんだ!なんだこれは?!」


「その草は嘘をつくと締めつける特性があるんだ」


ヘイケル「?!」


「もう一度聞く、これが取り引きしていた貴族の帳簿だな?」


ヘイケル「し、知らん!」


ザワッザワッ、ギリッギリッギリッ


ヘイケル「があ、く、苦しい?!」


「嘘だね」


ヘイケル「こ、こんな事をして、私を」


「もう一度聞く、これは元老院の主要貴族の帳簿だね?」


ザワッ


ヘイケル「ひぃ、み、認める!そうだ、これまでの取り引き帳簿だ」


よし!これで元老院を押さえられる。


「貴重な証人だ、連れていけ!」


兵士達「は!」


兵士達に一通り指示し、グリンはイエルに向き直る。


「これで一段落だ、あとは合流するだけだね」


イエル「はい、兄上」


二人がこの場を後にしようと、出口に足を進めた時、後ろから声をかける者がいた。


「ランス王国第三王子グリン殿下とお見受けする」


足を止め、二人は振り返った。


「ぼくを知っている?あなたは」



「私はハン王国王太子ダンケと申します」



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



ぽろっ、ぽろっ、ぽろっ


涙が止まらない、何故?どうして?どこまでも酷い世界、ああ、なんて僕は無力なんだ。



あれからすぐ皆が帰ってきた。

赤髪、黒髪、船員男、マデリンさんがそれぞれ子供を抱いていた。

僕が駆けていくと僕の姿に皆、一瞬驚いていたけれどすぐに俯いてしまった。


そしてマデリンさんが抱いていた子がメディちゃんだとわかった時、僕は歓喜したんだけれどすぐにメディちゃんの異常に気づいた。


メディちゃんは僕の事どころか、全ての事に反応がない状態だった。

僕が何度も呼びかけたが空をただ、ただ、瞬きせずに見つめるだけの人形のような状態になっていた。


僕は泣き叫んで回復魔法を発動したけれど、メディちゃんに変化がなかった。

だから、何度も子供達に回復魔法をかけた。

皆が僕を止めようとしたけど、かまわず魔法を使い続けた。


そして血反吐を吐いて、意識を失った。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



ザーン、ザーン

波の音が聞こえる。


目だけで横を見ると椅子に座ったマリンちゃんがうつらうつらと眠っていた。


そろりと起き上がる。

窓の外には港が見えた。

僕が気絶してからどのくらいたったのか。


突然、後ろから抱きつかれた。


「!マリンちゃん?」


「ん、リンちゃん、いつも無茶ばかりして少しは私達を頼ってほしいわ」


「ご、ごめんなさい。その」


「三日も眠っていたのよ、いまは休んでいて、いい?」


抱きついているマリンちゃんの手に力がこもる、はぁ、いまは仕方ないか。


「あの、メディちゃ」


「ね!」


「………はい」


そうだ、もう僕に出来ることはない。

いままでが上手く行き過ぎだった。

どこかの勇者みたいにチートでなんでも出来るなんて、そんなことは現実にはあるわけない。

だってこの世界は現実で、あの世界と変わらないから。

科学で出来ることが魔法で出来ること、科学で出来ないことが魔法でも出来ないこと。

きっと何処かで折り合いをつけて、みんな生きていく。

あの時も、これからも。



トンッ、トンッ


ノックがして黒髪、いや仮面無しだからブラックさんとレッドさんが入ってきた。


僕はすぐ、二人にハグをした。


レッド「!」

ブラック「!………」


マリン「あらあら、あいかわらずタラシね、リンちゃん」


「?」


マリンちゃんが何か言ってたけど?聞き取れなかった。

僕の右手を、いたわるように持ったレッドさんが言う。


レッド「リン、よかった。目が覚めたんだな」


「いろいろとありがとう、ごめんね、いままで黙っていて。その」


レッド「あとでいい、いまは休んでくれ」


「んっ」


ブラックさんの手が、僕の頭をぐしゃぐしゃに撫でる。

大きくたくましい手、この仕草、すごく前世の兄貴の仕草に似てる。


ブラック「ふん、少しは背が伸びたか?」


「はは、そうかな?だとうれしいな」


レッドさんも、ブラックさんも、優しい眼差しでなんか恥ずかしい気持ちになる。

ああ、兄弟みたいでいい気持ちだな。

さっきまで気分はどん底だったのに。



マリン「さっき魔道レターで女神神殿の神殿長から連絡があったの。子供達を一度、神殿に連れてきてほしいそうよ。子供達をなんとか治す方法を探してみるって」


「本当に?!」


マリン「ただし、リンちゃんにも来て欲しいってことだけど、どうしようか?」




「まだ僕に出来ることがあるなら、何でもするよ」




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