第一部序章 星の巫女と星の力 (レッド視点)
二年前
◇星光暦 二千十九年 七の刻◇
オリポス神殿に神託が下った事が宣言され、その内容が全大陸中に示された。
のちに❪オリポス盟約❫とされた神託は以下の通り。
一 ◆ 世界に破滅の危機が迫っている、防ぐ事ができるのは選ばれし五人の英雄達、ファイブスターブレイカーズの❪星の力❫だけ。
二 ◆ 五人は神殿より召喚され、神殿にて❪星の巫女❫より❪星の力❫の発現の神事を受け取る。
これにより、胸に星の形のアザが顕現、星魔法という星の力のある独自魔法が使える様になる。
三 ◆ 世界危機が去るまでエンペリア大陸上でのいかなる国家間の紛争は禁じられる。
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護衛騎士に守られた一台の馬車がオリポス神殿前に停車し、三人の男達が下車した。
「五歳の祝福以来か、久しぶりに来れば何か、感慨深くなると思ったがそうでもないな」
(星光の祝福▪満五歳になると神殿や教会にて行われる祭事、本来の目的は魔法能力の確認とその登録)
グリン「まあ、魔法適性確認が主体だっただけだからね。しかしまさか、ランス王国から三人も選ばれるとは思わなかったよ」
イエル「でも兄上達といっしょでよかった」
まもなく、神官に案内され三人が神殿中央の祭殿のある広間に着くと、すでに二人が待っている。
マリン「これは、お久し振りね、あら?三人、ランス王国は豪勢ね」
ブラック「フンッ世界の危機に豪勢も何もあるか」
「全員王族か?平民問わずの選定では?」
ブラック「魔法適性者が王族や貴族に多い、当たり前の帰結だろう」
この二人はそれぞれ隣国の皇子と王女、幼少の頃からの交流があり既知の間柄だ。
グリン「これで五人、揃った事になるけど」
ブラック「あとは星の巫女とやらに逢えばいいのか?俺は忙しいんだが」
マリン「ちょっと、世界の危機に片手間で来たような事、言わないの!」
我々が話していると祭殿横の扉から青色服の中級神官が数名現れ、我々を祭壇中央の祈りの間に誘導した。
祭壇前に白服神官と神殿長が立ち、話し出す。
「これより神託に従い星の力の発現の為、祭事を執り行う。召喚されし五人の英雄候補者は前に」
我々が前に立ち、神官が神言を詠みあげる。
ブラック「まだ、巫女は出て来ないな。いないのか?」
マリン「しっ、祭事の最中よ」
たしかに気になるな、あの神託前まで神殿に巫女がいるなど聞いた事がない。
イエル「グリン兄上!あれ」
グリン「?!」
ブラック「なんだと?!」
マリン「どうしたの?」
なんだ?右手の祭壇横の扉か?左側にいる俺とマリンから見えないが。
神殿長「それでは、これより巫女から発現の神事を執り行う。星の巫女よ、此に」
「はい」
ヒョコッ、カタン
息が一瞬止まる、小さい、子供だ。だがなんだ?まるで造り物のように綺麗な顔立ち、ぶかぶかの身体に合ってない白い神官服、だが、それより驚く事は!俺はブラックを見る、目を見開いて驚いている?!グリン、イエル、マリンもだ。
マリン「ねぇブラック、あの娘、ブラック?」
ブラック「……………!、知らん」
皆が驚くのは無理もない、巫女は黒髪なのだ。この大陸で黒髪はギガール帝国の皇族だけ。
だが、皇子であるブラックが知らないのはどういうことだ?
神殿長「では、巫女よ、神事を」
巫女「はい、では皆さま、これより神事を執り行います。そのままその場で祈りを捧げて下さい」
我々が祈りの体制をとると、巫女が両手を拡げた。
巫女「大いなるオリポス神よ、神託の子らはここに集った。今こそ約束の時、五英雄よ、世界の厄災を打ち払え、ホーリースター!」
巫女が虹色に輝き、光が五人を包む。
「?!」
マリン「あ!」
ブラック「ぐっ!」
グリン「は?!」
イエル「!」
胸に小さな痛みが一瞬あった?!
巫女「皆さんの星の力は解放されま、した。胸に、その証が、授けられ、てい……」
いけない、巫女が倒れこんでくる!俺はあわてて巫女を抱き抱えた。
巫女は気を失っている。
軽い、柔らかい、なんだ?、よい匂いが。
ブラック「これは?なんだ」
マリン「………………!」
グリン「星形の痣だね」
イエル「…本当に?!」
神殿長「巫女!助けて頂きありがとうございます。巫女をこちらに」
…離したくない気持ちがある。こんな気分は初めてだ。
「いや、俺が運ぼう。部屋に案内せよ」
神殿長「いや、しかし」
「二度は言わない」
神殿長「!わかりました。おい」
神官「はい、では、こちらに」
ブラック「レッド!」
ブラックに呼ばれ、俺は振り向く。
ブラック「あとでな」
「………」
◇◇◇
ガチャッ
神官「巫女をこちらに」
部屋に案内され備え付けのベッドに巫女を寝かせる。
神官「ありがとうございました。後は我らにお任せを」
「…………」
離れ難いがこれ以上は理由付けが出来ない。
俺は少しでも彼女の事が知りたくて、神官に話を聞いた。
彼女は三年前から巫女として神殿に入っていた。
神殿長の友人の孫らしく、その人物の口利きで神殿入りしたようだ。
物理作用な魔法能力はない様子だが、未来予知と虹色の光を出し他人の能力を増幅させる効果があるらしい。
どちらも極めて稀な能力で有ることは誰でも判る。
神殿長「それでは英雄の皆様、今後は各々それぞれの地で研鑽に務め、来るべき世界の危機に備えてください。その時、新たな神託が降るでしょう」
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その後、神官に聞いた巫女の話をブラックに伝えたが、巫女の生立ちを知る事は出来なかった。
こうして我々は神殿を離れ、帰還の途に就いた。
俺はもう一度、彼女に逢いたくて神殿に巫女との謁見を求めたがついにかなわなかった。
だがそれから二年後、彼女とはまったく違うところで再会することになる。




