なんかサルが不法入国して器用に犯罪はたらいてます
「コンビニ発見」
でも、どうせ防犯カメラが回っているだろう。ぽこざるはよくない頭で必死に考えた。
「そうだ、屋根に上って落書きしよっと」
ぽこざるはサルだ。簡単に屋根に上った。さっそく落書きを始める。
おさる王国のお城に絵……のつもりだったのに、砂で作った、ヘンテコなぼろ小屋になった。ふつうの人が見たら、お城だとはわからない。
でもぽこざるは満足したようすで、気持ち悪いほどニヤニヤして、
「さ、次、次!」
と、木造りの休憩所みたいなとこにやって来た。
タバコがたくさん捨ててある。空きカンも2、3個落ちている。ぽこざるはゴミ箱を押し倒した。タバコの灰皿もひっくり返した。
休憩所は、あっという間に、鼻のつーんとする臭いのゴミ屋敷になってしまった。
「うっわー、イタズラって楽しいなー!」
と、ぽこざる、ごきげん。
飛びはねながら川岸にやって来ると、足を滑らせた。川にどぼん。
水から顔を出したぽこざるは、ワカメやらコンブやらで、緑ザルになっていた。
「気持ち悪いよー」
と泣き出した。
海藻は涙に流されて、そばにあるボートに向かっていった。ぽこざる、その海藻をボートに貼りつけて、ゲラゲラ笑った。
もう夕方だ。
「そろそろ、ひこざるのとこに帰ろう」
歩いていたら、あっという間に太陽が沈んだ。もう真っ暗。
ぽこざるが心細くなってきたとき、ようやくひこざるのところに着いた。ひこざるは、いびきをかいて寝ている。
「ひこざる、起きてよひこざる!」
ひこざるのわきっ腹を、ようしゃなく押した。
「ん~あれ? もう夜だ。あ、ぽこざるくん」
「ねえひこざる、もっと街の中に行こうよ」
ひこざるも、その方がおもしろいと思った。
でも、どうやって行くか……そのとき、さっきのコンビニに、トラックが止まっているのが見えた。荷台に忍びこめば、トラックの行くところに一緒に行けるはずだ。
2匹はトラックに近よった。そしてトラックの下に隠れて、荷物が全部積み下ろされるのを待った。
運転手が最後の荷物を運び終わった。
「今だ!」
2匹は荷台に滑りこんで、棚の奥に隠れた。運転手が荷台の扉を閉めて、まもなくトラックが動き出した。
大成功。いきなりぽこざるが、
「やったね、ひこざる!」
と、ひこざるの肩を思いっきり叩いた。ひこざるはたまらない。思わず、
「か、肩の骨が、折れた~」
と言って、ひっくり返った。
「おおげさだなー」
と、ぽこざる。
荷台の中は真っ暗だ。よく見えないから、ぽこざるは、棚に頭をぶつけて気絶した。
それから数十分ぐらいしたとき。トラックが止まった。また信号か、とひこざるは思ったけど、ぜんぜん発車しない。どうやら着いたようだ。
ひこざるは扉を開けようとした…… でも、開かない。
「ひこざる、どーしたの?」
後ろから、ぽこざるがのんきに尋ねてきた。
「ぽこざるくん、扉が、扉が開かないよ」
ぽこざるが、なげき悲しんだ。ひこざは必死で考え、そしてひらめいた。
「ぽこざるくん、この棚を、扉につっこませてみよう!」
「さすがひこざる!」
ぽこざるは、うるうる目玉だ。
2匹は、棚ごと、扉に向かってつっこんだ。故障したラジオのような雑音が響いて、扉がはずれた。
大音に気がついたらしく、建物から人が出てきた。
見つかったらまずい。2匹は死に物狂いで逃げ出した。
近くのガソリンスタンドの屋根に上った。ぽこざるが、
「お腹すいたねー、ひこざるー」
と、お腹をぐ~と鳴らして言った。
「安心しすぎだよ、ぽこざるくん」
と言ったものの、ひこざるも腹ペコだ。2匹は
「明日は近くの食べ物屋に行って、食べ物ドロボーするからね、ひこざる」
「つまり、万引きってことだね」
などと話しているうちに眠くなってきた。ぽこざるが大いびきで寝てしまった。ひこざるも。
次の日。
2匹が目を覚ましたら、昨日と様子がまるで違う。たくさんの車が走ってにぎやかだ。
ひこざるが、昨日トラックを下りたところを見てみると、何やら、警察とかどっかのマスコミなどでごったがえしている。
するといきなり、
「ひこざる、なにボーっとしてるの? あの果物屋さんに行くよ」
「待って、ちゃんと見つからないようにしなきゃ」
「それなら、いいとこがあるよ」
ぽこざるは、道路のみぞを指さした。
2匹はそおっと屋根を下りて、みぞのふたを取った。と、先にみぞに入ったぽこざるは、大事なことに気がついた。
「ひこざる、みぞの中だったら、外の様子がわかんない」
それじゃあ意味がない。しかたないから、人に見つからないように、小道を選んで果物屋に向かう。
到着。さっと、一番近くにあった、ナシとリンゴを1個ずつ取った。
そのまま、果物屋のかげでむさぼった。また成功。見つかってない。
ぽこざるが、
「次はあの本屋さん止めてある自転車がターゲットだよ、ひこざる」
と、向かいの本屋を指さし、自転車をおそった。
「あ、マンガだ」
かってに人のマンガを立ち読み。『これで〇〇は恐怖のどん底に……』という言葉を覚えた。
そして、そのマンガをペダルの上に置いて、本屋のガラスの戸に、マジックで『悪のぽこざるのせいで、この本屋さんは恐怖のどん底に……』と、汚い字で書きこんだ。
ひこざるがやって来て、
「次はどこ?」
と聞いた。ぽこざるはえらぶって、となりのゴミ捨て場を指さした。
2匹はゴミ捨て場に捨ててある生ゴミを、全部ふくろから引っ張り出した。すごいにおい。鼻がもげそう。急いで立ち去った。
小道を歩いていると、向こうの大きな道に、自転車が大量に並べて止めてある。
「ドミノたおしみたいにできるかな?」
と、ワクワクして言ったぽこざるに、
「でも人だらけだよ、ぽこざるくん」
と、ひこざる。しかしぽこざるは、
「たまには見つかってもいいじゃん!」
と、道路に飛び出した。
たちまち辺りは大さわぎ。なにせ、都会の真ん中で、いきなり現れたサルが、自転車ドミノで遊んでいるのだから。
ぽこざるは、道路のみぞに逃げこんで、ひこざるのところにやって来た。ひこざるは人が変わったように、
「ぽこざるくん、すごいさわぎだよっ!」
しかしぽこざる、
「さ、次はあのレストランだよ、ひこざる」
ひこざるの話なんかまるで聞いてない。
「ぽこざるくん、ぼくここで待ってるよ」
「えー、ぼくまた一人? でも、行ってくるね!」
ひこざるは、さっきの食べ残しのナシを少しガブリ。
ぽこざるは、レストランにまっしぐら。途中で、泥だらけのみぞに落っこちた。ぽこざる、べたべた。それでもレストランへ。
窓が開いている。こっそり中をのぞく。どうやら調理室のよう。今のところ、だれもいない。チャンス!
ぽこざる、窓から忍びこんで、そばにある塩を手に取った。そして近くのハンバーグとカレーに、ようしゃなく、いっぱいふりかけた。
それから床にマジックで、『これでこのレストランは恐怖のどん底に……』と書きこんだとき。
ぽこざるは、おさる王国のお城で、クビになたことを思い出した。