あれ? さらば故郷よ! とか言うひまもなく流されちゃったよ?
「二ヒヒ、王様のお食事にイタズラしてやるのだ」
そう言って、ぽこざるは王様の食事に塩をたくさんふりかけた。そばにいた料理長にまる見えだったのに。料理長は、
「こらあーぽこざる、何てことしてるんだ!」
と、鼓膜が破れるほどの大声で叫んだ。
ぽこざる、飛び上がってずっこけて、持っていた王様の食事をほん投げてしまった。料理長の顔に命中した。料理長は頭から湯気を出して言った。
「ぽこざる、お前はクビだー!」
あんまり大きな声だったから、調理室の壁ごとぽこざるはふっ飛んでしまった。
ここは「おさる王国」。実は日本のすぐ近くの島。住民はみんなさる。その一人のぽこざるは、王様のお城で皿運びのバイトをしていたけど、イタズラ好きな性格のせいで、クビになってしまった。ぽぽこざるはべそをかきながら、しぶしぶお城を出ていった。
「うわーん、なんでクビなんだよう」
とうとう大声で泣き出した。そのまま夜になって、また朝になって夜になって、これを三回ほど続けたとき、とうとう涙の川ができて、流された。
それを友達のひこざるが見つけた。
「ぽ、ぽこざるく~ん、どこ行くんだよ~う!」
「わーんひこざる、助けてー!」
でもひこざるは泳げない。助けようとしたけど、ひこざるまで流された。そしてそのまま海に出て……。
「ひこざる、マジック拾ったよ」
「ぽこざるく~ん、今そんなことどうでもいいよ~」
「ひこざる、いっぱい木が浮いてるね」
「え、木が浮いてる?」
そしてひこざる、ひらめいた。浮いてる木を集めて、ぐうぜん持っていた釣り糸を使って、いかだを作ってしまった。実は魚釣りに行くつもりだった、ひこざるだった。
「うっひょー、ひこざる天才だね」
と、ぽこざる。それから、いかだに『ひこざる天才』と、拾ったマジックで書きこんだ。てれ屋のひこざるは顔を真っ赤にして、
「そ、そんなことないよ。それより、何かかびくさくない?」
「言われてみればかびくさいかも」
そう言ったぽこざるは、乗っているものが何か変なことに気がついた。べたべたしている。気持ち悪い。おそるおそる木を見てみると、木がくさっている。とてもじゃないけど乗ってられない。
2匹は海に飛びこんだ。そのとたん、目の前の水面がもり上がって、黒い大きなものがバッと口を開いた。
「ぎゃああ、サ、サササ、サメだー!」
ひこざるは大あわてで、いかだをサメの口に投げこんだ。サメのキバで釣り糸が切れて、いかだはバラバラだ。サメは海に沈んでいって、なんとか助かった。
「あっという間だったね、ぽこざるくん」
「ぼく、一瞬心臓が止まっちゃったよ」
「でもこれからどうするの、ぽこざるくん?」
「ひこざる、いちいち『くん』付けなくてもいいよ?」
「ぽこざるく~ん、話がとびすぎじゃないかな?」
「それにしてもさっきのひこざる、かっこよかったよ!」
「聞いてるの、ぽこざるく~ん!」
そこまで言ったとき、エレベーターで上がるときみたいに、水が2匹もろとも、もち上がった。
「うわ、今度はなんだ⁉」
さっきのサメの何倍も大きい……クジラだ。まるで豪華客船のようだ。クジラが、
「わしゃあ、クジラのおじじじゃ。ひまだし、あんたらを行きたいとこまで乗せてってやるぞい」
「うひょひょ、ラッキー! じゃ、一番近い陸地まで連れてって?」
とぽこざる。というわけで、2匹はクジラのおじいさんに陸まで連れてってもらうこといした。
ぽこざるとひこざるはそのまま寝てしまって、その後、また海に放り出されるまでのことは知らない。
放り出されて、2匹は飛び起きた。
「わしゃ、ここから先はちょいときついんじゃ。もう砂浜も見えとるから、後は泳いできな」
なるほど、クジラは砂浜までは行けない。2匹はじいさんに真心いっぱいのお礼を言って、上陸した。
砂浜には誰もいないけど、どうやら海水浴場のようだ。いきなりぽこざるが、
「よーし、イタズラ開始だー!」
と、こぶしをつき出した。ひこざる後ろからくらって砂に頭をつっこんで言った。
「ぽ、ぽこざるくん、ひどいよ~う」
ぽこざるはふざけて、
「めんごなさ~い」
と言った。反省の様子はまったくない。ひこざるは短気じゃない。だから許してはくれた。
「さっそく、あのいっぱいあるお日さまに落書きだ!」
と、ぽこざる。ひこざるは意味がわからない。そして、『いっぱいあるお日さま』が、海を泳いでいいとことダメなとこに分ける、丸い浮きのことだと気がついた。
「ぽこざるくん、あれ、お日さまじゃないよ」
とあきれて言った。ぽこざるは、細かいことは気にしない。そのまま浮きに落書きした。
へのへのもへじを4つ、変なまぬけ顔を3つ、もう一つには『悪のぽこざる!』と汚い字で書きこんだ。
次に浮き輪とかが置いてある海の家に行って、
「ぽこざる探検隊、最初のでっかいイタズラ開始なのだ!」
と、窓が割れるぐらいの大声で叫んだ。そのせいで、小屋の中はべちゃくちゃ。ひこざるは、口をあんぐり。ぽこざるは、
「イタズラする前にめちゃくちゃだ」
とがっかりしている。するとひこざるが、
「ぽこざるくん、てきとうに棚に乗せれば、イタズラにもなるんじゃないかな」
と助言した。ひこざるも、イタズラをやる気になってきたようだ。
しょぼくれていたぽこざるが、いきなりスットンキョウな声をあげた。
「そ、そうだよね! それもイタズラだよね!」
まるで人が変わったみたい。さっそく、日傘の入っていたところに、そこらへんに散らばっている物を詰めこんだときだ。
ひこざるが、何やら驚いたようすで、
「ぽこざるくん、静かに!」
と言って、小屋の入り口にかけよった。ぽこざるも入り口に向かう。
まずい! 海の家の店員らしい人が、急ぎ足で近よってくる。ぽこざるは顔が真っ青。ひこざるは頭をフル回転させて、
「そうだ、窓から逃げよう」
店員の来る方向の逆側に窓があった。店員はすぐ近くまでせまっている。
ひこざるは窓を開けて出ようとした。でも、あわてんぼのぽこざるが、ひこざるの頭をふんずけて先に出た。ひこざるは頭をかかえて、後を追う。
なんとか間にあったようだ。店員に見つからずにすんだ。
ぽこざる、すごく安心したようすで、
「た、助かったあ」
とため息をついたが、それを店員のさけび声がさえぎった。すごい声。ぽこざるをクビにした料理長なみだ。
ぽこざるは、ひこざるの耳をつかんで逃げだした。そのまま走り続けて、道路に出たらやっと立ち止まった。ひこざるの耳は真っ赤ちんちん。
「ぽこざるくん、ぼくもうボロボロだよ……」
「危なかったねひこざる。さあ次のイタズラいくよ!」
ぽこざるは、ひこざるの話なんでまるで聞いてない。それに、ひこざるは、もう、ボっロボロ。
「ぽこざるくん、ぼく、しばらく休んでるからね」
「じゃぼく、一人でイタズラしてくるよ!」
ぽこざるは意外に、いさぎよく出かけていった。