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記憶

 

 聖女様、よく聞いてください。このままだと、貴女は1年と経たないまま、その身を崩壊させるでしょう――


 少女は、重々しく切り出された薬師のそんな言葉を、ぼんやりと思い出していた。


 つまりはこのままいくと余命1年、と宣告されたわけではあるが、それを聞いた彼女の心情は驚くでも悲しむでもなく、ああ、そうだろうなあ、という、妙な納得のみだった。

 むしろ思った以上に長い時間が残されていたことに驚いたくらいである。


 もとより聖女という特殊な身の上、その力の性質上、自分のことは誰よりもよく分かっている。

 最近の様子に異変を覚えた侍女に無理矢理薬師のもとへと引きずられる前から、彼女は自分の身が段々と崩壊していっていることに気付いていた。


 彼女は、聖女だ。

 聖女には人を癒す力がある。

 

 彼女は数人いる聖女たちの誰よりも、いやひょっとすると歴代の聖女の中でも一、二を争う程の強大な力を持っていた。

 ただ大きな力には犠牲がつきもので、それが彼女の場合、自分の命や肉体だったというだけのこと。


 彼女はそれが悲しいこととは思わない。

 だって、この力があったおかげで、大神官様が孤児だった自分を見つけてくれたのだから。

 養父になってくれた大神官様は優しかったし、侍女の皆も本当に良くしてくれた。

 

 それに、彼女が傷を癒した患者が見せてくれる笑顔は本当に眩しくて、こちらまで幸せな気持ちになった。 

 人々からの感謝の念、その温かな気持ちは、彼女が自分の身を犠牲にする理由には十分だった。


 ああ、それに、何よりも。

 もうぼんやりとしか働かない頭で、彼女は目の前の愛しい青年の顔を見つめる。


 分不相応に、彼女には婚約者までいた。それもとても立派な、王太子という立場の。

 彼はその立場に誰よりも相応しい人だった。自分にも他人にも厳しい、誰よりも国民のことを考えている、そんな人。

 

 彼女はそんな素敵な人に相応しい自分でありたいと願った。どうすれば良いか一生懸命に考えても、彼女は彼の様に頭が良い訳ではないから、聖女の役目に誰よりも真摯に取り組むということ以外に思いつかなかった。

 たとえそれが、自分の身を滅ぼすという結果に突き進むことになったとしても。


 ……それでも。やっぱり自分は、後悔などしていないのだ。


 この力が自分の身を犠牲にするものであったとしても。

 あんなに隣にいたいと願った貴方と、もう二度と会えなくなったとしても。


 この力で、最後に貴方を救えたのだから。


 ああ、それは、何も持たず、ただ野垂れ死ぬのを待つばかりだった孤児にはなんと不相応な、幸せな結末だろう。


 私は幸せ者だったのだ。

 ……だからそんな、泣きそうな顔なんてしなくても良いのですよ、レグルス様――




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