死にたがりの冥府の王
『冥府界』
そこはでは力が全てを支配する‥
力こそ全て。力無きものは淘汰され、種として存続することを許されない。
そこはあらゆる世界からあぶれた者たちの終着点として存在が確認されている。
そこにはあらゆる種が送り込まれ、力という一点において進化していく。
次々にやってくる新しい種は、時に停滞を、またある時は闘争を運んでくる。
そんな、世界においてあらゆる生物が近寄らない場所が一点だけ存在する。
そこは、あらゆる生き物の死骸で山脈と化し、死が蔓延している。
その中心にはひときわ大きな山があり、山頂に一人の男が佇み永遠とも思える時間自らの死を待っている。
その男の腰にはふた振りの刀がぶら下がり、腰には手斧、背中には自身の身の丈ほどもあるハルバートを担いでいる。
今はひときわ大きな死骸の上に腰掛け、タバコをくゆらせている。
「ふー。また生きちまったな。」
そう一言呟くと自分の腰掛けている龍の死骸を一瞥し、周りにできあがった山々を眺めた。
この男こそ、冥府界の頂点に立ちあらゆる種を根絶やしにしてきた張本人である。
冥府界で長く生きるというのは何らかの力を持ったものだけ。よって、長く生きれば生きるほど強いものが多くなっていく。
それが単なる腕っ節の強さなのか、賢さなのか種によって様々である。
「主よ、此度の挑戦者は如何でしか?」
タバコをふかす男の後ろに突如現れた燕尾服姿の男が聞いた。
一見すると貴族やら王族やらの執事に見えるがその男の頭部には二本のツノが生えており、人間ではない事が分かる。
「うーん。悪くはなかったが真ん中程度だろうな。どこぞの龍王だったらしくて、驕りが凄すぎたよ。」
男は一瞥することもなくそう答えた。
「そうでございますか。真ん中となればそれなりの世界からやってきたのでしょうな。」
そういうと男は内ポケットから手帳を取り出しメモを取った。その姿はやはり一流の執事を彷彿とさせる。
「クロノスフィア。いつも取ってるそのメモは役に立つのか?死んだ奴のこと書き込んだって仕方ないだろ。」
そういうと龍の鱗でタバコの火を消すと振り返り続けて聞いた。
「それより、何か変わった事起きてないか?最近落ちてくる奴が多い気がするんだよ。」
「そうですね。落ちて来た人間に聞いたのですが、どうやら世界戦争が起きたようでして、それが関係しているのではないかと思われます。あと、私のことは親しみを込めてクロとお呼びくださいと何度も申しているではありませんか。そしてこのメモはただの趣味でございます。なにぶん皆娯楽に飢えていますので。」
クロがそういうと男は「ふーん。」と一言だけ答えると立ち上がった。
「じゃあそのメモの順位的には変動あったか?」
この世界は力がモノを言う。しかし、頂点に近づけば近づくほど力以外の娯楽に興味が出でくるものである。
そこで生まれたのが冥府界番付。
それを一手に管理、運営しているのがクロなのである。
「上位の顔ぶれに変化はございませんねぇ。ただ最近やって来た悪魔殺しを謳う男がやって参りましてなかなかに見所がありそうなのですが‥‥」
そこまで言うとクロは少しだけ言葉を濁らせた。
「何か問題でもあるのか?」
「いえ、本人に問題はないのですが冥府界に落ちて来て早々にアギノグランテのバカとやり合いまして、どうも奴に気に入られたようなので主様と戦うことは無くなりそうでございます。」
「あいつもまだ諦めてなかったのかよ。」
「なに分バカでございますので仕方がないかと存じます。「優秀な奴をカステルにむざむざ殺されてたまるか。」と言っていましたので鍛えるつもりなのでしょうな。」
クロが呆れ顔で答えた。
「アギーとボルはまだ喧嘩中なのか?」
「今回は1000年ほど喧嘩してますね。アギノグランテのバカはムキになっているようですが、ボルジャノンの方は、戦い自体を楽しんでいるだけのようでございます。」
「まぁ、好きなだけやれば良いさ。イルは何してんだ?」
「イルダンテはどうやら何処かの世界に召喚されたようで遊んでますね。奴を呼ぶとは運の無い輩もいたことです。」
クロは芝居掛かったように肩をすくめ、やれやれとばかりに首を振った。
「あいつはそう簡単に世界を壊したりしないだろうからまだマシだろ。ある意味運のいい奴らだ。」
いつもと変わらぬ友たちの日常を聞きながら立ち上がり男は一つ伸びをし、フーと息を大きく吐き出した。
「そろそろ俺も他の世界に遊びに行きたいな。クロ、俺たちも長い付き合いだし、そろそろ久しぶりの本気の殺し合いしようぜ。」
クロは一瞬大きく目を開け、驚きの顔をしたがすぐさま口元を三日月のように歪め喜びの表情に変わる。その顔はまさに悪魔のそれである。
「それはそれは、少しでも歯応えのある殺し合いをせねばいけませんね。」
そう言うとクロは目をつぶり、念話を飛ばす。その念話は冥府界にいる全てのモノを対象としていた。
『今からカステル様と私、クロノスフィアが殺り合う。冥王山に近いものは離れることをオススメする。これは私からの優しさだ。甘んじて受けなさい。そして、イルダンテ、ボルジャノン、バカは冥王山に来て下さい。カステル様は本気でやると仰せられています。』
そう言うと念話を切った。
するとすぐさま一つの黒い塊が飛んできた。
黒い塊はクロに衝突するかと思われたが、ひょいと避けられ地面に衝突した。
クロは軽々と交わしていたが、その突撃は山を二つ分貫きようやく止まる程のものである。
「バカとは誰のことだ!誰の!バカって言う方がバカなんだぞ!」
黒い塊は一人の悪魔に姿を変えすぐさまクロに詰め寄った。
「はぁ、その言動が物語っていると言うのに。それに名前を挙げていないのにやって来たのはじぶんで認めているからではありませんか?バカを通り過ぎて無能でございますね。バカに失礼でございました。ここで謝罪しておきます。」
すぐさま言葉が出てこないのか、アギーは顔を真っ赤にして、「アホー。バーカ。」などと幼稚な悪口を叫んでいる。
続いて大柄の悪魔が飛んできた。そして、体に似合わず優雅に着地するとカステルの元に歩み寄った。
「カステル久しぶりだのう。何か心変わりでもあったか?儂は久しぶりの事で血湧き肉躍っておるのじゃが、ここに来て無しにはさせぬぞ?」
そう言うとボルは筋肉をピクピクと動かしポージングし始めた。
「ボル久しぶり。心変わりってほどでも無いんだが、ただそう言う気分になっただけだよ。」
「それなら良いんじゃ。」と一言言うとクロとアギーにも挨拶している。アギーとは喧嘩してたはずだがアギーの怒りの矛先はすでにクロに向いているので問題なさそうだ。
そうしているうちに、空に冥府界の門が開き一人の男が落ちて来た。
クロと瓜二つの外見をしているがツノだけが違った。
クロのツノは真っ黒だがその男のツノは真っ赤で天を貫かんと真っ直ぐに伸びている。
「いい暇つぶしだったがこっちの方が面白そうだから来た。」
外見に似合わず幼さの残る話し方でそう一言だけいいクロたちの方に歩いて行った。
「揃ったな。これで何回めだ?そろそろ俺を殺してくれるか?」
四人が揃ったところでカステルはそう煽ると自身の力の一端を解放する。それは衝撃を伴い、四人にぶつかる。
それを受け、じゃれあっていた四人も顔つきを変えカステルに向き合った。
その顔つきはまさに悪魔の笑み。ひと睨みで大抵のモノたちは畏怖するであろう顔。
クロノスフィアの顔は醜悪に、
アギノグランテの顔は無邪気に、
ボルジャノンの顔は豪快に、
イルダンテの顔は冷徹に、
それぞれの顔には笑みがこぼれていた。
「ではカステル様。取り敢えず100年ほどはお付き合い頂きます。」
クロがそう言うとそれぞれが各々の武器を取り出す。
クロは鎌。アギーは双剣。ボルはハンマー。イルは銃。
それぞれが熟練者を超え卓越した使い手であることがわかる。
「じゃあ。こい。」
そうして、冥府界において何千何万回目の頂上決戦が始まった。
男たちの殺し合いは普通では無い。ガードは一切しない。隙を作るために攻撃をいなしたり弾くことはあっても被弾しないと言う考えがないのだ。
それは圧倒的強者の奢りでもなんでもなく、ただ不死者と言う特性を生かした戦い方だった。
カステルは死ねない。
悪魔達は死なない。
一度武器を振るえば山は裂け、砕け、消滅する。
攻撃がぶつかり合えば世界が歪む。
この戦いの間、冥府界で他に戦いは起きなかった。全てのモノたちが怯え、畏怖し、自分たちの矮小さを再確認したからだった。
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「クロ、お前で最後だ。」
「今回も負けてしまいましたか。」
最後の一合でクロの首を飛ばした。
どれほどの時が経っただろうか。悪魔たちは消滅し、カステルの勝ちが決まった。
「やっぱりお前たちと殺り合うのは骨が折れる。」
カステルはその場に仰向けに寝転がり亜空間からタバコを取り出し火をつけた。
左腕が消し飛び、右足が半分ちぎれ、全身には焼け焦げた跡が目立った。
まさに満身創痍を体現した出で立ちだった。
しかしすでに再生が始まっており、ゆっくりとではあるが足は引っ付きかけていた。
「痛みはやっぱりいつまで経っても慣れねぇなぁ。痛いもんはいてぇ。」
誰が聞いているわけでもなく、カステルは叫んだ。
ジリジリと燃えるタバコの先端を見ながらタバコを味わう。
フィルターギリギリまで吸うとタバコを握りつぶし亜空間に捨てた。
その頃には左腕も生え、あとは少しの火傷ぐらいである。
「今回も殺して差し上げることは出来ませんでしたね。」
体の再構築が済んだクロが現れカステルの隣に立っていた。
「それでもお前らとの殺し合いは命の危機を感じれるからいいな。」
カステルは満足そうな笑みを浮かべ体を起こした。
そして続けて言う。
「他の奴らは?もう再構築は済んでるだろ?」
「ええ。ですが皆さん満足されたようで、今は殺し合いの余韻に浸って惚けております。」
「そうか。」と一言だけ言うともう一本タバコを取り出し火をつけた。
「クロは余韻に浸らなくていいのか?あれは悪魔の習性みたいなもんだろ?」
「いえ、私は執事ですので主から離れるわけにはいきません。あくまで執事で「それ以上は言うな。」」
最後の決め台詞をカステルが遮る。そして、二人で向き合って笑いあった。




