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心の病

作者: 大統領

彼はうつ病だった


そんな話を数年ぶりに会った友人Aと来たラーメン屋で聞いた


「ふーん、でもだったってことなら、今は平気なんでしょ」

話題も特に無かったし何となく告げたのだろう

「まぁね、昔ほどじゃないけど平気だよ」

「じゃあいいじゃん、草だわ草、気にすんな」


そう言いながら目の前のご馳走を啜った

この店の塩ラーメンはどんな時でも美味い、メンマとチャーシューが分厚いのだ


「なんか理由でもあったんか、お前元気そうだったじゃん」

事実、相手がそういった状況だったとは露とも知らなかった

連絡はないし、してもなかった

「当たり前じゃん、隠してたんだから、恥ずべきことと思ってたし」

「へー死んでなくて良かったわ」

思ったことをそのまま言った


「今は恥ずべき事だとも思ってない、心療内科や精神科に行くと、バリバリの美人OLとか、役員やってそうなおっさんもいたからな、面白いもんだよ」

「へー、やっぱみんな苦労してるんだな」

「そうだね」


自分の知らない世界だが、きっとそういうものなんだろう

彼の言葉を疑う理由もない


「まじすごいよ、予約いっぱいで取れないとかザラじゃないからね、平日なのに」

「やば」


店内のBGMで良く知らない邦ロックが流れている

自分には大体似たようなものにしか感じない、これも良く知らない世界だ


「理由はなー、なんだろな、ほんと色んな事がたまたま重なったとしか言えないな」

「ほーん、失恋とか」

「それも確実に入ってる」

笑いながら彼は答えた


彼が言うには様々な理由が重なったらしい

「重なったと言うより、乗り越えたつもりだったことが、まだ胸に穴が空いてたって感じかな」

「一つ、もしくは二つぐらいだったら平気だったんじゃないかな」

朗らかに笑いながらそう話した


「美味いねこの店、最高だ、メンマとチャーシューがおいしい」

「だろ、一生通ってる、ネタものもあるしから飽きないし」

この店はいつだって美味い、それは彼にでもそうなる事を祈る


「でもよく言うじゃん、精神系って、治ったと思ったらまだどっか残ってるって、気をつけろよーお前も」

「今でも偶にあるんだよ、ダークに入るのが、ダークに入るってのが面白くてこう言ってるんだけどね」

そのダークに入るがどの程度の重みなのかは知らないし、知り得ない

だから茶化して会話を楽しむだけだ


「インザダークネスじゃん、草だわ草」

「相変わらず厨二的なの残ってるんだな」


そういって笑ってる姿は、もう自分には普通にしか見えない

きっとこうなるまでに長い、長い道のりがあったのだろう



「うまかった」

「また来るべ」

「ああ」


そう言ってスープの一滴まで飲み干した

気づけばBGMは全く縁のないアイドルものの黄色い歌声が聞こえている


「んじゃ回復祝いに今日はおごってやるよ」

「本当に?ラッキーサンキュー」


思いは本物だ

彼が”だった”と表現できるくらいなのだから、そう言ってもいいのだろう


「その代わり次の飯なんかおごれよ」

「わかったよ、高くなければな」



財布を開き会計に行く、2人分なのに2000円も払えばお釣りも来る

最高の食事だ、今日も良い1日だった、そう思った


「んじゃまたな、またその話の続きでも聞かしてくれよな」

「重いぞーいいのか?俺は全然良いけど」

「知らない世界の話題だ、知的好奇心は止まらない」

「わかったよ、んじゃ次の飯の時に話してやろう」


そういって彼はふんぞり返ってさも尊大に言った

元気そうじゃん、そう思った


「んじゃ、またな」

「ん、じゃあな」


そういって帰った、男はこんぐらいで良いのだ

次の飯もきっと重たいストーリーが聞けることを、失礼ながら楽しみにして







最初はめまいからだった


好きだったはずの趣味をすると、めまいが起こるようになった

なんかの病気かもと思って、耳鼻科に行っても脳外科に行っても言われるのは健康そのもの

体調でも悪かったのだと、その時は思っていた


次は体調不良だった

会社に行く途中、突然足が動かなくなった、体調も悪くなって貧血みたいな症状が起きた

めまいも止まらなかった


その日は会社を休み、その次の日も休んだ、その次の日も休んで土日がきた



休んでる時、どっかの雑誌でみたうつ病が似た症状だったなと何となく思い出し

初めてうつ病、精神的なものを考えた


最初に行ったのはネットに落ちてるうつ病診断チャート

やってみると驚くことに、ほぼ全てがYESでうまる

それが当たり前のことじゃないのと感じながら丸をつけていった


どの種類でも、どのサイトの診断でもほぼ確実にうつ とのこと

いつのまにか自分は疲れてたのか、とどこか人ごとのように思いながら

その日も眠った



めまいと体調不良は続いていた


辛い身体に鞭打ち、仕事終わりに心療内科に初めて行った

もちろん怖かったし、不安だった、自分は正常だ、正常なのか?

そんな思いだった


最初の診察は大変だった、一言いうのに苦労した

「最近ツラいです」

それを人に、自分が辛いと感じていることをいうのが初めてだって

そこで気づいた


きっと今まで変なプライドみたいなものがあったのだろう

一言いった後は、淡々に最近感じた、起こったことを伝えられた


医者はうんうんと、優しげに聞いてくれていた


診察後、とりあえず落ち着く薬を飲んで見なさいと、渡されたのは短期的な精神安定剤

治る人はこれで治るし、治らなければ次の治療に行くとのことだ



短期的には治った、と言えるかもしれない

けど、薬の効果が切れればまた、めまいに襲われた



そこで何回か通って言われたのは

「あなたには休養が必要だから、すこし休みなさい、大丈夫なのよ」

と優しく諭された

大丈夫なのよは、きっと休んでも平気、だれも怒らないよ、そういった意味だった


肩の荷が、降りた気がした






それからは時間は瞬く間に過ぎた

勤めていた会社は辞め、家の近くにある心療内科に変え、薬も短期的なものから長期的なものに変更した

幸いにも、家族の理解は得られた

何年でも良いからゆっくりして、死ななければ、またきっと笑えるから

そう言われて、心に沁みたのを今でも覚えている


ゆっくりでいい、ゆっくりでいいと

何しても良い、何もしなくても良い


そう考え生きてみた







「へーそんなんだったのか」

「おもしろいだろ」


今度は一ヶ月ぶりぐらいの再開で彼から聞いたのは思ってた以上に淡々としていて、シンプルだった


「おもしろい」


今日は中華料理屋だ

どこにでもあるチェーン店のボックス席で、またなんて事ない話をしていた

人のストーリーは聞いていて面白い


「けどなんかもっと壮大な事が起きてやられたのかと思ってたわ」

「意外と平凡なもんだよ、当たり前のストレスでも、その人にとってはとんでもないストレスだっただけの話だからね」

「なるほどねー」


多くの人に乗り越えれたならみんな乗り越えれるはず

そんな思考がどこかにあったのだろう



「でもなんか前言ってたじゃん、なんか乗り越えてなかっただのなんだの」

「あーそれね」


「まぁ具体的な話は恥ずかしいから内緒にしておく」

「なんだそれ今更だな」

笑いながらツッこんだ


「良くある話だよ、仕事が辛いとか、振られたとか、ペットが死んだとか」

「あー…」

ペットは辛い、あれはやばい

それは自分も良く知っていたので急に自分の中でリアルになった


「なに、それらが一辺にきたのか」

「いっぺんとういうより、それがさっきの乗り越えてなかった事変に繋がるわけだ」

「繋がったな」


中華で一番好きなチャーハンと餃子を食べながら、点と点が繋がったとか少しボケた会話だった

乗り越えたつもりだったのが超えてなかった

穴が塞がってたがまた開いてしまった

色々パターンはあるだろうけどそういう事なんだろう


「だいたいこんなもんだよ、あとは特にないかな」

「ほーん」


なんて事ない会話が終わった

どこにでもある誰かの病気の話

重いようで笑える、そんなどこにでもある会話


近くで見れば悲劇、遠くで見れば喜劇、そんな話の一つだった





生きていればなんとかなる、死ななければどこかで笑える

母から聞いた言葉だ


そこらへんの本を開けばすぐにでも似たような言葉が見つかりそうな薄っぺらいセリフは

母の言葉を通して初めて意味のある言葉に変わった


いままで幾度となく死ぬことを考えた

突然首がつられて死ねないか

突然トラックが突っ込んでこないか

突然後ろから押されて電車の前に出ないか

突然死しないか


どれもこれも自分で死ぬ勇気のない思いだったが、確実に死を望んでいたのは事実だ

そんな事を毎日考えてればきっと顔にも出ていたのだろう


それを話された時から、不思議と自殺は考えなくなった

意味のある言葉は、意味のある人に言ってもらえなければ意味がない

そう言うことなんだろうきっと




同時に死にひたすら恐怖もしていた

死にたいのに死の不安に押しつぶされる、どんなバカだと思うだろうがそんな症状だった



うつ病、バニック障害、不安障害



それらが今思う、当時の症状だ


うつ病ってのは怖いもので、自分で不安をコントロールできない

気づけば布団の上で自分を責め、死んでしまおうと思ったり

自分が無価値と感じ、絶望に陥ってその思考が止まらなかったり


パニック障害とは怖いもので、なんてことない切っ掛け、あるいは何も無しに、動悸息切れ、めまい頭痛

に襲われる

歩いてて、寝てて、風呂に入って、外に出て、コンビニに行って、人に見られて、車が通って、自転車が通って、起きて


不安障害とは怖いものでなんでもないことが不安に感じてなにもできなくなる

例えば風邪を引けば死ぬかもしれないと常に携帯を片手に救急車を呼べるようにしといたり

風呂で発作起こすかもしれないから携帯を風呂に持ち込んだり

街に出れば自分が変に見られてると不安に襲われたり

めまいを起こせば脳梗塞かと思いCTスキャンを無理やり撮ってもらったり



良く生きてたな、今はそんなことをちょっと可笑しく思いながら考える

そう、考えれる


あの頃は辛かった、そんな風に思えるだけ回復した

今ではほとんどそんな症状は出なくなった


たまに気分が落ち込んだり、ダークになることもあるけど、それは普通の人もそうじゃないかと思う



だから何となく友人に連絡を取った

あいつは元気にしてるだろうか、他にこんな辛い思いしてるやつはいないだろうか




自分は完治なのかわからないけど


けど回復できた、君もいつか、きっと長いトンネルを抜け出せる、焦らずにね


ただそれを伝えたい






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