役者は揃い出す
カタンッ
「……行って来ます、父さん母さん。」
そう言って少年は大事そうに立てかけてある写真にそう言った。
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(そういえば変な夢見たんだよなぁ。アイツは結局のところ何だったんだろ?)
………ク ル……ク
ンン?誰だよ、今考え事してるのに。(ハァ
「……ルーク!」
「ウワッ⁉ …何だ、シロアかぁ…。驚かすなよ……。」
「…ウワッて何 …酷くない?今日は入学式だから迎えに来てくれって言ったの誰かな?」
そう言って俺にデコピンしたのは幼馴染のシロア・ジェミニ。
雪みたいに真っ白い髪に深紅の目をした少女。いつも気怠げで眠そうにしている。
五つの時から一緒で、ある日ボロボロのシロアを爺さんが連れて来た。
それが出会いだ。
それより前?知らないよ、シロアから聞いてるのは奴隷商人に運ばれている所を爺さんが助けたとしか聞いてないからな。
「ッ!イッッタイ!おいシロア、お前容赦しなさすぎだろ⁉そのデコピンは兵器だって何回も言ってる……」
「ん?」(ニッコリ
シロアが笑顔で二発目の構えていたから黙った。
「生意気言ってごめんなさい。」
即座に謝る。
二発目を回避するにはこれしかないだろう。
「よろしい。許してあげる。」
(ホッ 危ないところだった…… まさにあのデコピンは兵器。あれを一発くらっただけで頭蓋骨が粉々になる感覚がする。下手すると走馬灯とか三途の川の向こうにいるおばあちゃんが手を振っているのが見えるとか言っていたな。(デコピン被害者の会の会員より))
「ルーク、準備出来た?もたもたしてると初日早々遅刻するよ?」
いつの間にかシロアが玄関に行っていた。お前のせいで俺は初日から休むことになりそうだった。
「今行くから待ってろって。」
いまさら感が半端ないが俺の名前はルークバルド・レドナー、12歳だ。
現役で活躍中のアルバ王国第一騎士団の団長、アルフレッド・レドナーは祖父にあたる。
両親はイモータル戦争で亡くなり。無残にも体の一部が引きちぎられていたらしい。俺は詳しくは知らない。
兄弟は一人いる。三つ上の兄だ。いつも笑っていて何を考えているのか全く分からないのだがたくさんの人からの羨望や尊敬などを一身に受け、皆の憧れだ。だから俺は兄とよく比べられる。
でもまあ当たり前か。元々俺は出来損ないなんだし、仕方ない。
さて、皆さんの中には入学式?と思う人もいるだろう。
説明するとこの国には学園都市エシュヴァルと言って、12歳になると必ず入学しなければいけない全寮制の学校だ。
ここでは少なくとも15歳までこの学校に通わなければならない。ざっくりいうと義務だ。この学校は身分関係なく入学出来る。貴族の一部には若干の選民思想があるが基本的には問題無い。だが中身が腐っている奴が必ずいるのはどこも同じだからな。
気を付けないと。ハァ 俺は少し別だから何か言われんだろうなぁ。めんどくさいのはごめんだぞ…。
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おい あれってもしかしてギオルデ様の弟君か?全然そう見えないんだけど。
クスクス 駄目よそんなこと言っちゃ 仮にも弟君なんだから。まあ彼にもご自覚があるはずよ。
だって”出来損ないなんだから”
「ッ!」
「気にしたら駄目だからね、ルーク。」
「分かってる。でも思った以上にキツイな…。」
覚悟はしてたんだがな… 結構精神的にクる。少なくとも三年、それまで持つか?
「あいつら面と向かって言えばいいのに。ああやって陰でこそこそしてるからたちが悪い。」
少しイラついた顔をしてシロアは言った。
えー 朝からシロアさんご立腹?機嫌直すの大変なんだからやめてくれよ…
「…ここが1-Cの教室かな?地味に豪華だ。」
「当たり前だろ。ここには貴族も通うし、ある程度の高級品とかあったりするんじゃないか?」
貴族からの寄付金もあるし、それで一部の物は貴族の娯楽品でも買っているのだろう。
疑問が解決したシロアはそのまま扉を開けて…
ゴンッ
「ゴン?」
音の鳴った方を見ると…
「シロア⁉」
シロアが倒れていた。
学校で配布された教材がシロアの額に直撃したのだ。幻覚だろうか煙が出てる。
バンッ
「ごめん⁉もしかして今投げた教科書当たっちゃった⁉うわっ直撃だ!血出てるっ、保健室!保健室は何処だっけ⁉そこの君っ、保健室がどこにあるか知らない⁉」
「あ、いえ。大丈夫ですよ。そいつほっとけば復活するので。」
突如現れた相手の勢いに押されてつい敬語になってしまった。だけどシロアに関しては噓は言ってはいない、はずだ。
ほっとけば復活するのは本当だ。だけど大丈夫かは…
もう一度シロアの様子を見てみる。先程と同じ様に額から煙が出ているのだった。
明らかに大丈夫じゃないだろう。でも朝の仕返しとでも思えばいいか…。
「それにしてもどうしたんだ?随分と殺気の籠められた一撃だったけど。」
見れば一目瞭然だ。あんなに殺気の籠った攻撃はまるで爺さんにおやつのプリンが食べられてしまってキレたシロアみたいだった…。シロアの場合、周りの物も破壊しだすから被害が甚大だが。
「ああ、あいつに喧嘩売られたのよ。だから買ってやった。」
そう言って彼女が指を差した方を見てみると…
「喧嘩を売ったとは失礼だな、僕は本当のことを言ったまでだ。君はまるで山猿のようだ。」
そういったのはThe堅物といっても過言ではないような恰好をした少年だった。
メガネが反射して光ってる…
知り合いのおっさんの頭みたいだ…
目の前で起きる喧嘩をそっちのけてそんなことを考えていた。
どうやら他のクラスメイトは巻き込まれるのを回避するために教室の隅に退避していたようだ。
こいつらは見ているだけで止めようとは思わないのだろうか…。
「ねぇ君たち!一旦喧嘩止めてくれない?こっちに被害来そうだから。」
クラスメイトの怯え様を見かねて言った。
放っておくと教室が軽く半壊しそうな勢いだ。
現に二人の戦いが激しすぎて俺の真横に何かが吹っ飛んで来た。
「ふむ。そうか、済まなかったな。」
「あ、ごっめーん。つい!」
あぁ 何か凄いめんどくさそうなクラスだ。
何たって初日の朝から些細な事から大争乱が起きているクラスだ。ぁ…
「そう言えば自己紹介していなかったな。俺はルークバルド・レドナー、よろしく。」
「僕はベイゼル・オルソンだ。これからよろしく頼む。」
「私はイザベラ・ブロンザルト!よろしくねー。」
「……ん…。」
シロア、やっと起きたか。
さっきの騒ぎを前にしても起きないんだなんて相変わらずだな。
いや、さっきの強烈な一撃のせいなのだろうか?
…やっぱり考えるのやめよう。自分の額が痛くなってきた、気がする…。
「あれ?シロア起きた?ちょうど良かった、今自己紹介してたところなんだ。ほら…」
あー 目をこするな。赤くなるぞ…
「シロア・ジェミニ。」
それだけ?もうちょっと何かあるだろう。
よろしくねぐらいの一言があってもいいんじゃないだろうか。
そんなことを考えていると、顔に出ていたのかまた強烈なデコピンを受けた。
そして容赦ない一撃。
彼らは知らない、これから何が起きるかを。
そう、まだ知らないのだ。
これから起きるのは喜劇か、それとも悲劇か。
「さあ、遂に動き出した。役者は揃い出し、動き出した運命はもうだれにも止められない。でも、変える事ならできる。君はこの悲劇の、いいや、最悪の結末を変えることができるかい? ねぇ、少年?」