6 修復
嘆いている暇はなかった。ソーラーパネルを回収し点検する。半分ぐらい残っているがどうだろう。接続部のケーブルが工作できるぐらいは残っていた。僥倖だ。これを船体側に、おい、どうやって繋ぐんだよ。ジョイント用のパーツなんかないぞ。
考えろよ。被覆を剥いて直接繋いじゃえばいいんだよ。道具箱を開けて導線を繋ぐプラグを取り出した。これって活線だよな。ソーラーパネル側にはスイッチが無い、つまり今現在も発電しているわけだ。直流100ボルト、電流は測定してみないとわからないが、負荷は切れているから大丈夫だろう。
とんでもない手間が掛かった。接続部は大きく膨らみ不格好極まりない。授業でこんなことしたらマイナスが幾つ着くことだろう。
さてソーラーパネルの固定はどうしよう。すでにマストはアンテナ群と一緒に消えている。そうだよアンテナだってどうすりゃいいんだ。月面上で地球の放送を見るような訳にはいかないだろうな。でも基本はそういうことだな。なけりゃ作るさ。ソーラーパネルのは艇の胴体にぐるりと巻き付けた。回転しているんだからこのほうが良いような気もする。
とにかく戻ろう。
中に入るのも全て手動だから結構な作業量になる。エアロックでの空気の再充填も圧力計をにらみながら行わなければならない。ようやく外部作業用のの宇宙服を脱ぎ船内用予圧服に着替える。この手袋は柔らかくて使いやすいのでホッとする。
さて、電源回復だ。
負荷側は一旦全部切っている。改めてバッテリーにソーラーパネルからの電流を繋ぎ、充電状況を見る。かなり低いが一応充電はしている。バッテリーの残量は80%ぐらいだ。コンピューターが正常なら電源復旧ボタンをタッチするだけで自動復旧なんだがな、生き返ったタッチパネルのブレーカーボタンを一つ一つ確認しながらタッチしていく。メインシステムは使わずサブシステムをタッチする。エラー音やランプも点かず作動したようだ。しかし数秒もしないうちにエラー音とランプの点滅が始まった。そりゃそうだ、こんな状態でエラーが出なかったらそのシステムのほうがおかしいよ。めげずに警報音だけ切る。
一応受信が無いか見てみよう。あるわけ無いかあの状況で。前方はどうだろう、こちらのトラブルに気がついた誰かが連絡してきているかもしれない。ないな、薄情者ばかりだ。やはり本部船に期待するしかなさそうだが、それにはビーコンが必要だ。でないとあいつら俺が目の前を横切っても気が付かないに違いない。
気がつくと壁にへばりついて眠っていた。どれくらい寝ていたのかは、寝落ちする前の時刻がわからないので計測できない。どこまでやったのか、とんでもない間違いをおかしていないか、とにかくチェックだ。
恐ろしいことに気がついた。ログが失われている。地球軌道を離脱して以来の全てがどこにもない。そして現在地、システムの現在地を示す位置には点滅するアスタリスクマークが並んでいるだけだ。どういうことだ。出発からの時間データは。生きている、たぶん。表示はしている。出発からの時間と現在の地球標準時は確実に増えていく。まあいい、正確な時間がわかれば軌道上のどこにいるのかは計算出来る。
しかし。
正面のモニターを見て冷や汗が吹き出た。ワキや首周りが汗で濡れていくのがわかった。与圧服の中はいつも乾燥させているが今は間に合わない。あまりの不快さにヘルメットを外した。吐き気がするがむりやり飲み込む。
なんてことだ。
太陽がずれている。
本来なら電源復旧直後に確認しておかねばならいのに。いや今更か、一体何時間進行方向がずれていたんだろう。
正面モニターは太陽方向に正対させてある。今の段階では太陽に向かってカーブを描きながら落ちていく軌道で無くてはならない。水星軌道に近づくまでは太陽を基準に見ることで軌道計算している。
つまりこの船は軌道から外れている。そして現在位置も計算出来ない。
さすがのジョージも茫然自失として言葉もなかった。