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石頭ジョージの小さな冒険と帰還  作者: ふくろう亭
4/14

4 捜索

 ジョージは船体後方の機関部に潜り込み点検を続けていた。船内気圧の低下のため頭が痛くなってきたので予圧服を着込んでいる。頭痛も寒けもこれで収まったが機関部での点検作業には向かないスタイルだ。

 とにかく電源の回復だ。これをなんとかしなければ命にかかわる。他にも今後の生命の維持について色々とやるべきことが多々あるが、ジョージは第一優先を電源回復にした。ソーラーパネルが吹っ飛ぼうと、フル充電のバッテリーがあればしばらく生き延びられる。最悪の可能性など想像しても仕方がない。

 バッテリーは重要だがほぼメンテナンスフリーのパーツだ。航海中の点検作業など考慮していなかったので周辺の整理から作業は始まっていた。

 幸い発掘できたバッテリーは無傷だった。充電状況はほぼ満タン。入力側が突然遮断されたため、それに伴い出力が自動的に停止されていた。こんなことは本来なら全てモニターで確認出来ることだ。メインコンピューターが破損していなければだが。そして予備のシステムに何故切り替わらなかったかだが「UPSが外れてるよ」思わずジョージは口に出していた。おかげで予圧ヘルメットの下部分が息で一瞬だけ曇ってしまった。

 その原因は自分にあったので無駄に歯ぎしりをする事になった。積み上げた機材が小さな何かとの衝突の際に動いたのだろう。ほんの1センチのことだが機材が順繰りに少しずつずれ、非常用電源の接続ケーブルを外してくれていた。

 船内の全てのシステムは電気で動いている。どこか壊れても二重三重の代替システムで守られている。だが大元のところがこれではな。

 ジョージは再接続しようとして伸ばしかけた手を止めた「大丈夫なのか」このまま接続しても。そもそも外部からの入力は途切れているのだ。いまや無駄に使って良い電力など1mWだって有りはしないのだ。

 「案外正解だったのかもしれんな」バッテリーの無駄な消耗を防げたのは。ジョージはゆっくりと回転する船体の壁によりかかり仄暗い中で少し考えることにした。

 「急がば回れだよな、おじいちゃん」

 その時船体を通信のための指向性ビームが横切っていたのだが、それに反応する機材は死んだままだった。

 第一優先ではない問題はいくらでもある。地球軌道より太陽に対して内側にいる以上、宇宙船の太陽側の高温部と反対側の低音部との温度差は200℃以上になる。本来は二重壁と、その中にある液状の薬剤を循環させることで温度差を克服させている。薬剤が壁の中を動き温度を平均化することで、艇内の温度環境を適切なものにしている。だが循環装置を動かすためのラインポンプは電気駆動だ、勝手に薬剤は動いてはくれない。

 徐々にだが確実に艇内の環境は悪化していった。温度差があっても対流は起こらない。またエアコンも動いていないため船内の空気も流動しない。ジョージの頭部周辺の空気は、予圧ヘルメットから吐き出される彼の呼気によって炭酸ガス濃度が増加していく。

 ジョージの4号艇は本来の軌道を外れていった。ゆっくりとだが確実に。そしてついにはビーコンが有っても探知不能な領域に入っていった。

 

 本部船では乗組員全員による捜索活動が展開されていた。ついには光学望遠鏡を手動で使い出す者まで現れたが成果は出なかった。そもそもが海岸で砂粒を探すようなものなのだ。それも地球で言えば太平洋の西から東の海岸のだ。

 すでに4号艇の消失したポイントを本部船は通過していた。ここで何が起こったのか、もちろん残留物などあるわけもないのだが、全員が自分の機材で周辺を見直した。地球の海でならここに留まり捜索活動を行うところだが、宇宙空間に置いては気分以外になんの意味もなかった。

 船長は決断を迫られる事になった。

 「通信用のポッドを四方向に打ち出せ」本部船を囲むように通信用の衛星を配置する。そして無指向の電波でどこかにいるだろう4号艇に信号を送り続けるのだ。この信号の中心に本部船はいるぞと。早く追いついてこいと。

 こうして捜索は事実上打ち切られた。誰も口には出さないがジョージとの再会はもう果たせないのだとの認識のもとに。


 

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