11 帰還
学生たちの長い旅程も、地球軌道まで残すところ後数日となった。
ここまで来ると流石に本部船内は緊張も薄れ、お祝いムードも出始める。
予期せぬ事故はあったにせよ、当初の課題は全てこなすことが出来たのだし。
「データにない小惑星らしきものが発見されました」
月面の超長距離レーダーと光学観測装置が自動検出して来たものだった。
こんな地球近傍で、と観測担当は驚いたがサイズからすればありえない話ではない。たとえ地球に落下したところで途中で燃え尽きてしまう程度の大きさだ。
だが自分たちの軌道に近いのなら大変な脅威になる。
それは惑星軌道面へ天頂方向から斜めに突っ込んでくるように接近しているようだった。ちょうど地球の衛星軌道に乗る手前のタイミングとは困りものだ。長い列を構成している船隊のどこかに引っかかったら目も当てられないことになる。
本部船の観測係は小惑星の軌道分析にかかりきりになった。彗星などではたまに途中で分裂することもある。そうなったら軌道予測も当てにならなくなる。とにかくすれ違うまでこまめに観測するしかなかった。
「おい大変だ、軌道が変化しているぞ」
小惑星の軌道を観測している学生が驚きの声をあげた。
動いている、あれは小惑星じゃあないぞ。
速度が変化している。
地球から30万km程度離れて通過する軌道だったものが、減速して月よりも近い軌道に変化してきている。このままじゃ地球をかすめるんじゃないか。
通常の天体なら被害の出るサイズではない。しかし軌道が変わるということは人工物の可能性がある。登録されている惑星探査などに該当するものはなかった。
こうなると最悪航宙ミサイル等による攻撃・テロということも考えられた。
ドラマならここで迎撃体勢が用意されるところなのだが、現実にはそんな物は地球の衛星軌道上には存在しない。全天をカバーする兵器などを即応体勢で用意しているわけもない。
とにかくその正体を特定せよ、現状一番近い位置にいた学生船隊にも要請が来た。光学式の観測装置でも確認出来そうな距離なのだ。
「見えたぞ!」
先頭にいたシングル艇が捉えた映像を送信してきた。
「なんか凸凹した形だな、やっぱり小惑星なのか」
表面が滑らかではないのだろう、太陽に照らされているがその明るさが微妙に変化している。他の艇や本部船の観測も加わりデータが統合されると鮮明な画像が出来ていく。
「これは!」
外見は変わってはいるが基本はシングル挺に間違いない。側面に描かれた記号も読み取れる。
「ジョージだ!」
「ジョージが帰って来たぞ!」
艦隊は騒然となった。
通信を試みるがやはり返答はなかった。外見の観測が進むと船体外部の損傷が観測出来た。ソーラーパネルは巻き付けられ、アンテナ類の突起物が失われている。あれでは通信や電波観測はできそうもないだろうと思われた。
本部船の船長が指示を出した。光学信号を送れ、と。
作業用のライトを使って点滅信号を照射することになった。一旦艦隊の各挺は照明を落とし、固唾をのんでその様子を見守ることになった。
一度軌道変更を行っているからには乗員が生きているに違いない。なんとかして艦隊に収容したいが、どこまでの動きが可能なのか。対策チームが編成されたが、ジョージからの返事がなければ動きようもなかった。
信号がおくられてから十数分後になって、ついに返信があった。弱々しい光ではあったが明らかに意思を感じられる点滅する光である。船体の回りの識別用の照明が点滅したのだ。
本部船内では一斉に歓声が上がった。
観測手は一人冷静にジョージ挺の様子をうかがっていた。そして確信が持てたところで報告を行った。
「怒ってますよ、彼」
「なんだって」
「ですから怒ってます。眩しいからなんとかしてくれって」