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石頭ジョージの小さな冒険と帰還  作者: ふくろう亭
1/14

1 事故発生

チートもなければ魔法もない、宇宙人も能力者もいない、こんな話のどこが面白いんだ。と問い詰められるとあやまるしかないんですが、20世紀のジュブナイル小説みたいなものが書けないかなと思ったんです、SF好きの方々どうもすいません。

 ジョージは何が起こったのか理解できないまま、狭い宇宙船の壁にへばりついていた。ついさっきまで、突然の衝撃が船体を揺さぶるまでは、順調に航行する船内で気持ちよく古い音楽を聞いていたのに。

 まずいぞまずいぞまずいぞ何が起こったんだおちつけおちつけおちつけ。

 船内には薄く白い煙が充満していた。これは気圧の急激な低下による結露現象か?気温が下がっているのか?

 なんかうるさい音が聞こえる。耳に手を当てるとイヤホンが入ったままだった。かつてロックと呼ばれていた昔の音楽だ、爺さんから音源をもらって…いやそれはどうでも良いことだ、イヤホンを外すと聞き慣れないノイズが聞こえてきた。

 これは…エア漏れの音だ。

 この船の外殻を作り、初めて真空曝露検査を行った時に聞こえた懐かしい音だ。教官にしこたま怒られたあげくそのまま船体内に閉じ込められて、エア漏れ箇所の発見と応急処置の実地訓練をさせられた。あの時は何気圧まで下がったんだっけ。そんなことはいいんだ、問題はエア漏れだ。

 この船は二重外殼で作られている。自分で組み上げたんだから間違いはない。殼の間には専用の流動するする液体が充填されている。宇宙線を防ぎ防音・保温・補強そして気密を守る特殊素材だ。たとえ船体に穴が開いてもすぐに硬化して船体と気密を守るはずだ。エア漏れの音からして穴は大きくはないと思う、試験の時はもっと大きな音がした。とにかく音の出どころを探す。ようやく探し当てた音源は、メインコンピューターの裏からだった。じっとコンピューターを観察する。対象をよく観察しなさい、答えはその中にあります。授業でよく言われたな、たしかにその通りだよ。入力装置の一部に小さな破損が有った。機器をそっと外す。ケーブル類に損傷はないようだ、が、細かい粉のようなものが見える。何かが粉々になってしまったのか。

 徐々にエア漏れの音が小さくなってきた。やれやれ自動修復が効いてきたようだ。いつの間にか充満していた白煙もなくなっている。反対側の壁を見ることにした、こちらには自動修復の跡がすぐに見つかる。この方が小さいな。つまり何かがここから入りメインコンピューターをぶち抜き出ていったわけだ。被害は?下がった気圧、暗くなった照明、傷ついた船殻、そしてメインコンピューター。

 何か違和感を感じて観測窓を覗く。モニター越しではなく、直接外を見ることが出来るように120度間隔で船体の胴体部分に取り付けたガラス窓だ。

 強度の都合で直径は20センチほどだが、あえて俺は取り付けた。生の景色を見るんだ、と言ったら同級の奴らに笑われた。モニターの方が画角が広く解像度が高いから鮮明に観察ができるのに無駄な設備だと。教官は設計図を見て首を傾げていたが、強度と費用で折り合いがつくならと許可を出してくれた。

 すぐに違和感の原因が分かった。星が動いていたのだ。窓から動く星々を見ていると、わずかだが身体が壁に押し付けられる感じもする。船体が回転しているのだ、これは。

 とりあえず操縦席に座り身体を固定する。最初に気がついたことはモニターの明かりが消えていたことだ。モニターは二つあり、通常はどちらも稼働させている。運行中は船内外の情報をデータと映像で見せてくれているモニターが、今はどちらも沈黙している。

 本来は不要の電源スイッチをタッチしてみる。が、何も反応がなかった。ノイズ一つなくモニターは死んだままだ。

 マズイマズイマズイ。

 冷や汗をかく感覚に気づく。冷や汗?そうだ寒い。いつも着込んでいるオーバーオールのスーツで充分快適なはずの船内温度が低下しているのだ。モニターには数字も出ない、だが身体は寒さを感じている。一体何度まで下がっているんだろう。非常用照明が船内をかろうじて見えるようにしてくれているが、これのバッテリーでは暖房などは不可能だ。しかしソーラーパネルでかき集めた太陽のエネルギーは充分にバッテリーに貯められていたはずだ。それはどこに行ったのだ。

 もう一度耳をすませて電源スイッチを入れてみる。リレーの音もしない。操縦席を離れ電源盤を確認する。

 過電流ブレーカーは働いた様子がない、メインブレーカーもオンのままだ。ハンディテスターを持ち出し点検を行う。デジタル表示には0が並んだ。つまり末端の機器に異常があったのではなく、上流側つまりは電力源そのものに問題があることになる。先程船体を横断した何かが配線もぶち切ってくれたのか、いやあの辺りに電源側の配線は通してはいない。ならばバッテリー本体の異常か、窓に顔をつけ外を見る、流れるように動く星々が見える。え、星しか見えない。ソーラーパネルが見えない。宇宙空間を飛翔する翼がなくなっているのだ。


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