思い合い、すれ違い
優雅「・・・。」
穂奈未「・・・。」
華凛「・・・。」
凌雅「えっと...ま、待った?」
現在、午前9時50分。待ち合わせ場所に着いた俺は定番であろうセリフで3人に声を掛ける。
優雅・華凛「遅い。」穂奈未「えっと、今来たところ...。」
気まずい。いや、ここは気まずそうだと言うべきか。
優雅「行こうか。」
華凛「ええ。」
優雅が先頭を歩き、その後ろに華凛、穂奈未と続く形で歩き始める。そして俺はそのさらに後ろへ続く。全体としては4人縦に一列で並んで歩いている形だ。これではまるでゲームの勇者御一行様だな。とても友達関係の人間の歩き方とは思えない。
穂奈未「凌雅君。あの、ひゃっ?!」
凌雅「っと、大丈夫か?」
穂奈未「うん。ありがとう。」
後ろに気を配りながら歩いていた穂奈未が転びそうになった。やはりこの歩き方は危ないな。
凌雅「俺が前に出るよ。さっきまで気遣ってくれてありがとな。」
俺は穂奈未の左前側に移動する。すると前に来るのは華凛のはずなのだが、姿が見えない。どうやら見失ってしまったようだ。
穂奈未「はぐれちゃったね...。」
俺達が縦一列に並んでしまった理由はもう一つ、ここが人混みの中だったからというのもあった。
凌雅「とりあえず、迷子センターにでも行くか?ハハハッ。」
穂奈未「!! 凌雅君、ちょっと待ってて。」
凌雅「あ、そっちはトイレじゃない」
穂奈未「どうしたの。お母さんかお父さんは?」
穂奈未は座り込んで泣いている男の子に声をかけていた。様子を察するにどうやら迷子のようだ。
男の子「手ぇ繋いでいたのが離れちゃって、お母さんは人に押されて向こうに行っちゃって...。」
全ての人が同じ場所を目指してこの道を通っているわけではない。例えるなら川の流れが外側に行くに連れて流れが速くなるように、人混みもその中の位置によって速さが違うのだ。ましてや手を繋いでいたのであれば、この子とお母さんは横向きに並んで歩いていた可能性が高い。つまりはその人混みの流れの速さの違いが原因で手が離れてしまったのだろう。
穂奈未「それじゃあ、お姉さんと一緒にお母さんを探しに行こうか。」
男の子「でも、お母さんが知らない人にはついて行っちゃいけないって。」
穂奈未「うーん。」
穂奈未が困っている。けれども、男の子の言うことも最もなことだ。まぁ、連れて行こうとしている人に対して言うべきことでは無いのかもしれないが。
凌雅「穂奈未、ここでこの子と一緒にお母さんが来るのを待つんだ。」
穂奈未「凌雅君?」
凌雅「ここで待っていればお母さんが戻って来る可能性が高い。手が離れてしまったことはお母さんも気が付いているはずだろう。」
穂奈未「あっ、そうか...。」
昔から穂奈未は「困っている人がいたら迷わず助ける」人間だった。実際、俺もその助けられた人間の1人だ。しかし、その「助けたい」という気持ちに囚われてしまうと見えないものもある。だったら、俺はその「助けたい」という気持ちを持つ人を助けてやる。
凌雅「俺がお母さんを探しに行く。2人はここで待っているんだ。」
穂奈未「分かった。気を付けてね。」
男の子「あ、ありがとう。お兄ちゃん、お姉ちゃん。」
凌雅「俺はともかく、このお姉ちゃんは優しいからな。安心して待ってな。」
頭の中が冴え渡っていく。今度こそ穂奈未の役に立ってみせる。俺は自分の細い体を生かして人混みの中をすり抜けるように先を目指した。
人の流れを辿っていくと、大きな広間に出た。どうやらここから道が分かれているようだ。
凌雅「くっ、どの道へ行くべきか...。」
行き先だけでも聞いておくべきだったか?でも大見栄切っていったのに成果無しで戻るのもカッコ悪いよな。
華凛「あ、アンタ穂奈未はどうしたのよ!」
凌雅「か、華凛!?」
って、驚いている場合じゃなかった。あっ、男の子の名前を聞いておくべきだったな。こんな初歩的なミスをするとは、へへっやっぱ俺って。
華凛「まさか、はぐれたわけじゃないわよね?あの子に何かあったらと思うとアタシは...。」
華凛の言葉を聞いて、俺は少し安心した。やはり、華凛にとっても穂奈未は大切な存在なんだな。さて、今度はこいつも安心させてやらないとな。
凌雅「穂奈未は向こうにいる。迷子の子がいてな、お母さんが迎えに来るのを一緒に待っているんだ。」
華凛「ほっ。なんと言うか、あの子らしいわね。やっぱりアンタにはもったいないわ。」
凌雅「うぐっ!でも、否定はしねぇよ。ところで優雅は?」
華凛「クレープ屋に並んでるわよ。それでアタシがアンタ達を探しに来たってわけ。」
凌雅「でもさ、割引き券って1人じゃ一枚しか使えないんじゃ...。」
華凛「あ...、まぁいいでしょ。大事なのはこうやって出掛けるキッカケを作ることなんだから。」
凌雅「まぁ、そうだな。」
ふと華凛の横に目をやると、何かを聞いて回っている女性の姿があった。もしかして、と俺が思うや否や、華凛はその女性に声を掛けていた。
華凛「何かお探しですか?」
お母さん「息子とはぐれてしまいまして...。8歳の男の子です!手を繋いでいたんですが離れてしまって...。」
凌雅「!! もしかして、向こうではぐれたんですか?」
お母さん「はい!知ってるんですか!」
華凛「今すぐ案内しなさい!」
凌雅「ああ、こっちだ!」
くっ、人が多くて進めない...。と俺がもたついていると華凛は先頭に立って俺達の手を引いて歩き始めた。
華凛「もう、まどろっこしいわね!すみませーん!ここ通りまーす!!」
ハハハッ、本当にこいつはすげえな。俺にもその気の強さを分けて欲しいぜ。
男の子「お母さん...。お母さん?お母さん!」
お母さん「きょうちゃん?きょうちゃん!」
凌雅・華凛「!!」
声がしたかと思ったら、目の前には既に再会を果たした親子の姿があった。
凌雅「な、なぁ今見えたか?」
華凛「全然よ。親子って凄いわね...。」
老若男女問わず多くの人が歩いているこの人混みの中で、声だけで8歳の男の子を発見するだなんて。いや、もはや声で判断したのかすら断定できそうにないな。
穂奈未「あ、凌雅君。お母さん見つかったみたいだね。良かったぁ...。」
凌雅「ああ、そうみたいだな。華凛も手伝ってくれたし。」
穂奈未「あ、華凛ちゃん見つかったの?」
凌雅「ああ。ってあれ?さっきまで一緒にいたのに。」
穂奈未「?」
このタイミングでいなくなるとか。さては華凛のヤツ...。まあいい、あいつにも心の準備というものがあるのだろう。
凌雅「んじゃ、行くか。華凛の話によると、優雅は例のクレープ屋にいるらしいしな。」
穂奈未「・・・。」
凌雅「穂奈未?」
穂奈未は胸に手を当て、一呼吸すると力強く頷いてこちらを見た。
穂奈未「行こう。」
きょうちゃん「ありがとー、穂奈未お姉ちゃん。あとお、お兄ちゃん。」
穂奈未はお辞儀をする母親と笑顔で手を振るきょうちゃんに軽く会釈をすると、いつになく凛々しい表情で歩き始めた。
それと、俺も名乗っておけば良かったな...。




