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俺の愛する幼馴染(負けヒロイン)  作者: 炎右ロイ
プロローグ
3/17

その名は「華凛(かりん)」

今更ながら俺はふと気が付く。よくよく考えたら、今の穂奈未の前に息を切らした俺が現れるのは不自然かもしれないと。また、さっきの出来事を俺が見ていたと知ったら穂奈未を傷つけてしまうのではないか、と。ネガティブな考えが俺の頭の中をグルグルと駆け巡る。いつもなら、この時点で俺は行動を起こすことを諦めてしまうところだが、今回ばかりはそうもいかない。


俺は丁度目の前にあった自動販売機でスポーツドリンクを買い、喉の奥に流しこんだ。汗だくであったためか、めちゃくちゃ美味しく感じる。勢いあまって少しむせてしまったが、なんとか息を整えることができた。さあ、次の角を曲がった先の公園が、「いつもの場所」だ。「いつも」といっても、最近はあまり来た記憶がないが...。


俺は出来る限り何食わぬ顔を作ってから公園に入っていく。そして、あたかも偶然見つけたかのように穂奈未に近づいていく。


穂奈未「凌雅くん?!」


穂奈未は涙で濡れた顔を少し上げて、俺の方を見た。

上目遣いの表情に俺は内心ドキドキしながらも、あくまでも偶然を装って話を始める。


凌雅「穂奈未、ぐ、偶然だなぁ...。」


我ながら下手くそな演技だと思った。どうやら、俺の「気持ちが顔に出る」癖はいつまで経っても治らないらしい。親や教師に叱られた時も、よく「なんだその目は!」と言われて余計に怒られたっけ。


穂奈未「・・・。」

凌雅「・・・。」


しばらく沈黙が続く。何でこんな時でも俺は言葉が出てこないんだよ!と自分を責めていると、やがて穂奈未は口を開いて、


穂奈未「ごめんなさい、凌雅くん...。」


と申し訳なさそうに言った。


凌雅「何で謝るんだ?」

穂奈未「私、優雅くんに告白できなかったんだ...。」


予感はしていたとはいえ、改めてその事実を本人から告げられて、俺は強くショックを受けた。


凌雅「そ、そうなんだ...。」


あくまでも始めて聞いたような感じに装うため、俺は再び下手くそな演技をした。

再び沈黙が始まる。きっとコミュ力が高い人はうまい返事ができるんだろうな、などと考えていると、


穂奈未「じゃあ、私帰るね...。」


と穂奈未はカバンを持ってゆっくりと立ち上がる。そしてゆっくりとその場を離れていく。


凌雅「あっ...。」


不自然なくらいに時間の流れが遅くなったように感じた。しかし、それでも俺は穂奈未を引き止める言葉を思い付くことができず、その後ろ姿を俺はただ後ろから眺めていることしかできなかった。


それからしばらく、俺は呆然と立ち尽くしていた。すると、聞き覚えのある女のやたらめったらデカイ声が静寂に包まれた公園に、けたたましく響き渡った。


「ホント、見てらんない!」

優雅「あ、華凛待て!」

華凛「優雅、アンタ今日はもう帰ってもいいわ。」

優雅「えぇ!?いや、そういうわけには...。」

華凛「なら黙って見てなさい。」

優雅「は、ハイ...。」


何であいつらこんなところにいるんだ?と驚く間も無く、突然その女「華凛」は口火を切った。


華凛「アンタさっきのこと、見てたんでしょ!?」

凌雅「・・・・・・。」


圧倒され言葉は出なかったが、俺は首を縦に振った。

咄嗟に嘘をつくということすら、その時の俺には思い付くことができなかったのである。


華凛「アンタのことは優雅から聞いているわ。ホントに情けない男ね!」

凌雅「・・・・・・。」


分かってる、分かってるさそんなことは!俺は情けない男だ。いつも俺を助けてくれて、優しくて可愛くて世界中の誰よりも大好きな女の子が苦しんでいるのに、何もすることができない情けない男だよ...。


華凛「黙ってないで、何か言ってみなさいよ!」


その言葉を聞いた途端、俺の中の恐怖心は怒りに変わっていき...、そして俺は咄嗟にこう切り返した。


凌雅「アンタが...、アンタが優雅にコクらなければ、穂奈未はぁ!」


口火を切るや否や、俺の頭の中に次々と苛烈な言葉が思い浮かんでくる。

そして、俺がありったけの文句を言い放とうとしたその刹那、


優雅「それは違うぞ!凌雅。」


と優雅は遮るように言ってこう続けた。


優雅「僕が華凛に告白したんだ。」

凌雅「え?」


予想外の発言に対して、さっきまでの勢いはなんだったのかと自分でも思うくらいに、俺は間の抜けた返事をしてしまった。そして、


優雅「華凛から事情は聞いたよ。穂奈未が僕を好いていてくれたこと、お前が穂奈未の恋を応援していたこと、そしてお前が穂奈未にフラれたこと...。」


と、優雅は落ち着いた口調で、かつ真剣な表情で話した。


華凛「アタシは知ってた...。穂奈未が優雅のことを好きだってことは。前に話してくれたのよ。」


華凛も落ち着いた口調で続ける。申し訳なさそうな表情をしながらも、瞳は真っ直ぐに俺の方を向いていた。


凌雅「なら、何で...。」


俺も自然と言葉が出てしまっていた。


華凛「穂奈未には悪いけど、アタシだって優雅が好きだった。だから、優雅を振り向かせようとアタシなりに努力もした。そして、結果アタシは優雅と付き合うことができた。こんな言い方をするのは良くないかもしれないけど、アタシは恋という勝負で勝って、穂奈未は負けた。これで納得してもらえないかしら...。」

凌雅「・・・。」


悔しいが反論の余地も無い正論だ、と俺は思った。流石の俺でも...いや誰であっても、コイツの気持ちまで否定する権利などありはしないんだ...。


優雅「凌雅。すまないけど、今の僕達では会いに行くだけでも穂奈未を傷つけてしまうと思う。だから」

凌雅「分かってる。というか最初からそのつもりだ。」


言うまでもない。今度は俺が、穂奈未に寄り添って元気づけるんだ。これはただの恩返しなんかじゃない。これは俺の使命であり、俺が心の底からやり遂げたいことなんだ!


華凛「今度は上手くやりなさいよ。」


と華凛が続ける。意外とイイやつなのかもしれないなと俺は思ったが、口に出すと今まではイヤなやつだと思っていたことがバレるので我慢した。


華凛「あ、それと。」


去り際に華凛は振り返って言う。


華凛「アタシは金剛華凛(こんごうかりん)。名前くらい覚えておきなさいよね。」


どうやら、俺が名前を覚えていないことはバレていたらしい。まあこれからは嫌でも会うことになるだろうし、覚える努力くらいはしてやるよ。覚えられるという保証はできないけどな。


空の色はすっかりオレンジ色、気付けばもう夕方になっていた。良い子はもう帰る時間だが、このまま帰ってしまったら穂奈未は誰にも相談できずに悲しい気持ちで一晩過ごさなければならなくなる...。そう思うと居ても立っても居られなかった。俺は再び走って穂奈未の家に向かうのだった。


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