リアルラブコメの結末
俺の読み通りだった。どうやら穂奈未はこの場所、校舎裏で告白するつもりのようだ。
俺は見つからないように校舎の陰からそっと穂奈未の様子を伺う。なんだかストーカーっぽくて少し気が引けたが、俺にだって穂奈未の恋の行方を知る権利くらいはあるはずだと理屈をつけて、自分をなんとか納得させた。耳を澄ましてみると、微かに話し声が聞こえる。人数は二人で、一人は優雅の声で間違いなさそうだ。もう一人は、女の子か。何を言っているかまではよく聞き取れないけれど、何だか気の強そうなとてもハリのある声だ。
それにしても、穂奈未が動く様子が見られない。まあ、人生で一度あるかないかの大一番だし、なかなか踏み出す勇気が出ないのかもな。しかし、その後5分くらい経った頃だろうか、突然穂奈未は泣きながら何処かへ走り去ってしまった。俺は思わず追いかけてしまいそうになるが、自分が今隠れている最中であることを思い出し、グッと堪えた。
それから間もなくして、優雅がこちらに向かって歩いてきた。1人の女の子を連れて...。整った顔立ちにキリッとしたツリ目、髪の色はまさにメインヒロインといった感じの濃いピンク色...。ん、あいつは確かどこかで見たことがあるような、ないような。
優雅「そんなとこで、何やってんだ?」
俺を見つけるや否や、優雅は何食わぬ顔で俺に話しかけてきた。
凌雅「読書だよ。」
俺は咄嗟に思いついた言葉を返した。しかし、言った直後に俺は思い出す。よく考えたら俺、今は本なんて持ってないじゃん。
優雅「こんな日にか?まあ、いいや。僕は今日、少し帰るの遅くなるから母さんに言っておいてくれ。」
凌雅「分かった。」
幸い、校舎裏での読書は中学生の頃から日常的にしていることなので、それほど不審には思われなかったようだ。
「優雅。早く行くわよ。」
と優雅の連れの女が言う。そうだ確か、優雅の取り巻きの中で一番目立っていた女だ。クラスは俺とは別だったので、名前は知らない。2年の時に来た転校生だったような...。話したことはないけれど、何だか気の強そうな女だったなぁ...。と、俺がそんなことを考えている内に、優雅達は何処かへ行ったようだ。隠れる理由も特になくなった俺は、ゆっくりと立ち上がる。
とりあえず、電話で優雅の帰りが遅くなる旨を母さんに伝えた。だが、今俺の脳内会議では更に重要な議題がある。言うまでもないと思うが、穂奈未のことだ。また、なぜ穂奈未が泣いていたかなんて、考えるまでも無く分かることだ。
要するに、穂奈未が告白する前に、さっきの女と優雅が付き合うことになったのだろう。穂奈未より可愛い女の子なんて、少なくともこの世界には一人もいやしないっていうのに、優雅のヤツ一体全体、何を考えていやがるんだ。って、今は優雅のことなんてどうでもいい。穂奈未はきっと今もどこかで、一人で、泣いているんだ。だったら、今俺が為すべきことは一つしかないだろうが!
穂奈未を追わなければという考えが俺の頭を一瞬で支配し、校門で最後の挨拶をしている先生達の前を素通りして俺は一目散に走っていく。本当は何人か挨拶をしておきたい先生もいた気もするが、今はそれどころじゃないんだ!
凌雅「穂奈未、待ってろよ...!」
いつもは何事も鈍臭く「早くしろよ」と言われるのは日常茶飯事である俺だが、今回ばかりは自分でも信じられないくらいに体が早く反応していた。
また理由が特にあるわけでも無いのに、何故か俺は穂奈未が「いつもの場所」にいると確信していた。
先に校門を出ていたはずの優雅達すらも追い越し、ランニングをしている近所のおっさんよりも遥かに速いスピードで俺は「いつもの場所」へと走っていった。