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俺の愛する幼馴染(負けヒロイン)  作者: 炎右ロイ
第2章
13/17

とある雨の日

俺は今、リビングのテレビの前にいる。そして、そのテレビには小学生の頃から使っているカセット式のゲーム機が接続されている。刺さっているソフトは、もはや俺達の世代では知らない人はいないと言ってしまっても過言ではない超名作ゲームだ。流石にもう古いのでたまにセーブデータが消えたりすることもあるが、2人で対戦をする分には、まったくもって問題は無いのである。


優雅「・・・・・・。」

凌雅「・・・・・・。」


カチカチッと、コントローラーのボタン音だけが聞こえる。

俺達には、もはや言葉など必要無かった。

このゲームは幼い頃から幾度も遊んできたからな。


華凛「ちょっと!」

優雅・凌雅「ん?」


タイミングがタイミングなだけに、俺達は驚異的なシンクロ率で同時に返事をする。なんだ華凛か、また怠惰な日常を楽しむ俺に文句でも言いに来たのか?


華凛「なんだか楽しそうなことしてるじゃない。確かそれって、4人まで一緒に遊べたわよね?アタシも混ぜなさいよ。」


華凛の意外な発言に、俺は思わず

凌雅「え?」

と、まぬけな返事をしてしまった。てっきりこういうことは時間の無駄とか考えているものだと思っていたけれどな。


ふと優雅の方に目を向けてみると、優雅は特に特筆することの無いほどの普通の表情で言葉を続けた。


優雅「もちろん!凌雅もいいよな?」

凌雅「あ、ああ...。」


まあ別に断る理由もつもりも無いので、俺はテキトーに返事を返した。むしろ遊び相手が増えると考えれば、嬉しいサプライズだとも思えてくる。


優雅「そういえば、凌雅は華凛とゲームするのは初めてだな。」

凌雅「ああ。」


どうやらその口ぶりだと、優雅は既に何度か華凛とゲームで遊んだことがあるようだ。


華凛「先に言っておくけど、アタシは優雅より強いわよ。」

凌雅「そっか。」

華凛「ちょっと、何よその薄い反応は。」

凌雅「いや、やってみなきゃ分かんないし。」

華凛「へぇ、言ってくれるじゃない。」


口ではこう言ってみたものの、おそらく華凛の発した言葉は、単なる出まかせなどではないのだろうと俺は思った。

これは最近になって分かったことだが、華凛は決して自分自身のことを過大評価したりはしない。華凛が一見自信満々に見えるような態度を取っているのは、彼女自身が努力をして実力を付けたという確かな自負があるからなのだ。


優雅「よし、じゃあやろうか。」



ゲーム開始から2時間が経過した。結論から言えば、惨敗だった。1対1ではまるで歯が立たなかったので、途中から俺と優雅VS華凛で戦うことにしたのだが、それでやっと五分五分な感じであった。


華凛「悪いけど、アンタ達とは経験が違うのよ、経験が。」

優雅「クソッ、大会出場者の動画を見て研究までしたのに...。」

凌雅「マジか...。」


どうやら思っていたよりも、コイツらはガチだったらしい。そこまでしちまうと、もはやゲームを楽しめなくなりそうにも思えてくるのだが。いや、むしろガチだからこそ楽しいのだろうか?ホント、努力至上主義者の考えは理解できそうにないな...。


優雅「くぅー、でもやられたままで終わるつもりはないからな。次はこいつで勝負だ!」

華凛「ふふん、またコテンパンにしてあげるわ!」


どうやら2人とも、まだまだこのゲームをやるつもりらしい。それにしても優雅のヤツ、いつの間にこんな好戦的な性格になっていたのか。小さい頃は、「どちらかというと」なんて言葉をつける必要が無いくらいに競争は嫌いで大人しい性格だった気がするのだが。


優雅「あ、凌雅もコレやる?」

凌雅「俺は疲れたからいいや。」

華凛「アンタ、ホントに体力無いわね。もう少し運動でもしたら?」

凌雅「ああそうだな。夢の中で運動することにするよ。」

華凛「そうね。外は雨だし、部屋の中で...。」

優雅「いや、夢の中って言ってたぞ。凌雅は今から寝るつもりだ。」

華凛「えっ。何で?」


答えはいたってシンプルだ。疲れたから寝る。以上。


自室に戻り、俺はすぐさま布団に倒れ込む。休日の昼下がりの昼寝は最高だ。春の日差しの中でまどろみながら寝るのも至福だが、今日のような雨の日に雨音を聴きながら寝るのもなかなか心地良いものだ。


穂奈未「やっほ、華凛ちゃん、優雅君。」

華凛「来たわね、穂奈未。」

優雅「そうだ。穂奈未も一緒にやる?」

穂奈未「うーん、私は見てるだけでいいかな。そういえば凌雅君は?」

華凛「ああ、アイツは...。」


あ...あれ、何か穂奈未の声がするような。あ、でもこの睡魔じゃもう...。ぐーっ...。



「きりーっつ!」

「さよーなら」

バタン、ダッ、タッタッタ。帰りのあいさつが終わり、俺はいつものように下駄箱まで走っていく。今日は朝から一日中雨だったからか、階段も廊下も濡れていてツルツル滑る。上履きのキュッキュッという音が妙に耳に残って、何だか気持ち悪い。ランドセルの中の教科書もドサッドサッと音を立てて、俺のバランス感覚を狂わせてくる。


りょうが「おっと!」


掴んだ階段の手すりが思っていたよりも濡れていて、俺は手を滑らせてしまった。幸い、階段に足を持っていく前だったので、転ばずに済んだようだ。

学校の床はとても固いので、派手に転べば最悪死ぬことだってありえる。実際、廊下で突き飛ばされて何度か転んだことがあるが、はっきり言ってめちゃくちゃ痛かった。

あの時は上手く受け身がとれたから良かったものの、頭でも打っていたらどうなっていたことか。アイツらはホントに力の加減というものを知らないからな。しかも、学習しない。それで一体どれだけの人が痛い思いをしたことか。

まあ、毎日走って下校する俺も人のことを言える立場では無いのかもしれないが。

下駄箱の靴を履き替えて、俺は持ち手を輪ゴムでぐるぐる巻きにした傘を手に取る。他に輪ゴムを巻かれた傘は無いので、一発で俺の傘であることが分かる。一応油性のマジックペンで書いた名前を確認する。「おざきりょうが」とひらがなで書かれている。

ホントはカッコいい漢字を使って書きたかったけれど、小学校では「習っていない漢字を使ってはいけない」という謎のルールがあるので、自分の名前にまだ習った漢字が1つも無い俺は、名前は全てひらがなで書かなければならないのである。

が、今はそんなことはどうでもいい。


ゆうが「ううっ、無い。無いよぉー...。」


隣のクラスの傘立ての前で、優雅が泣きながら何かを探していた。まあ今の状況から考えれば、傘を探しているのだろう。


りょうが「何だ、かさわすれたのか?まじめなお前にしてはめずらしいじゃんか。」

ゆうが「わすれてないよ、たしかに朝もってきたもん!」


そうだ。思い返してみれば、優雅は朝、傘を持ってきていたはずだ。もっと言えば、朝のテレビを見て「今日は雨だって」と優雅は俺に向かって言っていたじゃないか。


りょうが「あー、こりゃぬすまれたな。」

ゆうが「ううっ、そんなぁ...。」


傘の借りパクは、別に今日に限ったことじゃない。実際、俺も何度か借りパクされたからな。俺が傘に輪ゴムを巻いているのは、その対策のためでもある。ああやって目印を付けておくことで、そういうヤツらは嫌がって持っていかなくなるのだ。そうだな、例えば中古のおもちゃに前の持ち主の名前が書いてあったら欲しくなくなる、みたいな感じと言えば伝わるだろうか。


りょうが「うーん、しょうがないからコレ使って帰んなよ。」


とりあえず、俺は自分の傘を優雅に貸そうと思った。しかし、返ってくる返事は大体予想はついた。


ゆうが「でも、それじゃありょうがが帰れなくなっちゃうし...。そうだ、いっしょに使えば...。」

りょうが「そうもいかないだろ。」


やはり、答えは予想通りだった。優雅は優しいからな。決して自分だけ楽になろうということはしない。絶対にしない。でもな優雅、時には「お言葉に甘えて」人を頼ることを覚えた方がいいんだぞ。まあ口に出して言うのも、何だか優雅の優しさを否定してしまうような気もするので、今は言わないでおくけれど。


ゆうが「ううっ、じゃ、じゃあちょっと待ってて!家帰ってかさ持ってくるから!」

りょうが「あっ、おい!...行っちゃった。」


さてと、ああどうしよう。正直、このまま濡れて帰っても良いのだが、優雅が戻ってきた時に俺がいないのもなんかかわいそうだしなぁ。時間を潰そうにも、ランドセルには教科書と筆箱くらいしか入ってないし、かといって、今更図書室に行く訳にもいかないし。何よりも、優雅の優しさを無碍にしたくないし。うーん。


ほなみ「りょうが君、そこ立ってたらじゃまだよ。」


気付くと、目の前には穂奈未がいた。


りょうが「あっ、ほなみ、ほなみはかさ持ってきた?」

ほなみ「うん、持ってきたよ。りょうが君はかさ持ってきてないの?」

りょうが「持ってきたけど、ゆうががかさぬすまれたから、かしてあげたんだ。」

ほなみ「そうなんだ。りょうが君はえらいね。」

りょうが「へへへ、ありがとう。」


ああ、穂奈未に褒められるのは嬉しいな。そういえば、穂奈未はこの頃から可愛いかったな。まあこの頃は、恋愛とかそういうのはよく分からなかったけれど。


ほなみ「でもさ、りょうが君はどうやって帰るの?」

りょうが「ゆうががかさを持ってきてくれるんだって。」

ほなみ「それってさ、時間かかるよね。」

りょうが「うーん、でもゆうがはやさしさで取りに行ってくれたからさ。」

ほなみ「そっか、ゆうが君はやさしいもんね。」

りょうが「うん!オレの弟だからね。」


褒められるのも嬉しいけれど、優雅を褒めてもらえるのも嬉しい。今と違って、優雅は学校ではあまり目立つ子ではなかったけれど、何事に対しても一生懸命で、誰に対しても優しいところは、今も昔も変わらない。俺も穂奈未も、それは昔からよく知っているのだ。


ゆうが「りょうが!」


しばらくして、優雅が傘を持って現れた。走って来たのか、傘をさしているにも関わらず、全身びしょ濡れだった。


りょうが「おー、おつかれさん!」

ほなみ「あっ、ゆうが君びしょびしょだよ。ほら、ハンカチあるから使って!」

ゆうが「ありがとう。ほなみもかさわすれたの?じゃあまた持ってこなきゃ!」

りょうが「もういいよー!」

ほなみ「わたしはかさ持ってるよー!」


そして俺達は優雅を追いかけるべく、傘を持って走り出した。スピードを重視して走るため、それこそ文字通り傘を持って走っていった。


ランドセルは家に置いてきていたためか、今日の優雅は走るのがとても速く、追いつく頃には家に着いてしまっていた。いつもは俺の方が速いためか、優雅はどこか勝ち誇ったような顔をして、家の前に立っていた。


りょうが「さてはお前、わざと聞こえないフリをしやがったな。」

ほなみ「えーっ、そうなの?ゆうが君ひどーい!」


言葉ではそう言いつつも、俺も穂奈未も別に本気で怒ってなどいなかった。


ゆうが「へへへっ、そうだ。ほなみもいっしょにゲームやる?」

ほなみ「うーん、わたしはいいかな。」

りょうが「じゃあ、家まで送っていくよ。」

ほなみ「うん、ありがとう。やっぱり、りょうが君はやさしいね。」

りょうが「へへへっ。」

ゆうが「うん、ぼくのお兄ちゃんだからね。」

ほなみ「ふふふっ。」



凌雅「ふぁーっ...。」

穂奈未「あっ、凌雅君おはよう。」

凌雅「えっ、ほ、穂奈未!?」


俺が目を覚ますと、穏やかな表情で本を読みながら、勉強机の椅子に座っている穂奈未がいた。


穂奈未「ふふふっ、何だか幸せそうな顔をしてたよ。」

凌雅「ああ。幸せな夢だったよ。」

穂奈未「そっか。」


改めて俺は思う。穂奈未はやっぱり可愛いなあと。


凌雅「なあ穂奈未。」

穂奈未「なあに?」

凌雅「そのさ、ありがとな。」

穂奈未「?どういたしまして?」


穂奈未は、何のことか分からないという顔をしている。というか、俺も何故このタイミングでその言葉が出たのか、うまく説明できそうになかった。でも、決して出まかせや嘘を言った訳ではない。そんな気がした。


凌雅「じゃ、優雅達のところへ行くか。」

穂奈未「うん。」


そして俺達は、特に特筆することのない、とある雨の日を楽しく過ごしたのだった。


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