いつも変わらないもの
凌雅「うううぅー...。」
無事おつかいを終えた俺は今、うつ伏せになって倒れ込んでいる。原因はおそらくコーヒーの飲み過ぎだろう。先程もらったコーヒーを、俺はまるでスポーツドリンクを飲むかの如く、買い物の合間にガブガブと飲んでしまったのだ。
穂奈未「大丈夫?お茶飲む?」
凌雅「ううぅ、ありがとう...。」
さっき穂奈未から聞いた話によると、園城先輩は用事が出来たらしく、先に帰ったそうだ。華凛は待ちくたびれて、優雅を連れてどこかに行ってしまったらしい。まったく、誰のせいでこんな目に遭ったと思っているんだか。
そして穂奈未はというと、俺が倒れ込んでからずっと、付きっきりで看病してくれている。今くれたお茶は俺がさっきのおつかいで買ってきたものだ。本当にこういうところは昔から変わらないよな。穂奈未自身も長い間待ち続けて喉が渇いているだろうに、そんなのはお構い無しに真っ先に俺を心配してくれた。思えば中学の時もそうだったっけな。
穂奈未「・・・、どう?少し良くなった?」
凌雅「・・・。」
あの時もきっと、友達と楽しく過ごしたいのを我慢して、俺に会いに来ていたんだろうな。もしかして俺は、こうやって穂奈未に気遣ってもらうことで、間接的に迷惑をかけてしまっているのだろうか。俺さえいなければ、穂奈未はもっと優雅と長い時間を過ごして、そして優雅と付き合うことができていたんじゃないのか?だったら俺は...俺はなんてことを...。
穂奈未「あぁっ、そんなこと考えちゃダメ!」
凌雅「えっ、うっ!」
突然穂奈未が大きな声を上げたので、俺はびっくりして立ち上がりかけ、また吐き気をぶり返してしまう。
穂奈未「あっごめんね。大丈夫?」
凌雅「あ、うん...。」
穂奈未「驚かせちゃってごめんね。そのまま楽になるまで寝てていいから。」
凌雅「あ、ありがとう。」
そうだった。穂奈未はすこぶる勘がいいからな。特に誰かが困っているのを察する能力はまさに神業レベルだと言っていいほどだ。ああ、何か関係無いこと考えなきゃ!えーと、えーと...。
穂奈未「あーもう今度は何か別のこと考えなきゃって顔してる。分かるんだからね。」
凌雅「えーと、ナンノコトカナー。」
俺は目をそらすようにして答える。これに関しては俺自身も自覚がある。俺は話をそらしたい時、ついつい目をそらす癖があるのだ。しかし、自覚があることと治るかどうかということはどうやら別問題のようで、この癖は一向に治りそうに無いのである。
穂奈未「自分をあまり責めちゃダメだよ。反省するのは確かに大事なことだけど、でも自分を傷つけるだけの反省はしちゃダメ。辛いだけだよ。」
凌雅「穂奈未...、分かったよ。」
そうだよな、その通りだ。確かに今の俺は自分を傷つけているだけだよな。反省したところで、過去を変えられるわけでも無いのにな。反省は未来を変えるためにすべきだよな。
穂奈未「うん、分かればよろしい!」
そう言って穂奈未はこちらに笑顔を向ける。俺は少しドキッとしたが、なんだかまるで回復魔法でもかけられたかのように身体がスーッと楽になっていくのを感じた。
凌雅「よいしょっと。うぅーん...。」
穂奈未「大丈夫?」
少し元気になった俺はゆっくりと立ち上がる。そしてそんな俺に対し、穂奈未は受け止める構えを取っている。おそらく、俺が倒れた時に支えるために気を遣ってくれているのだろう。でも、もう大丈夫だ。まだ少し立ちくらみはするけれど。
凌雅「うん、もう平気だ。」
穂奈未「そっか、良かった。」
俺は大きく背伸びをして、空を見上げた。淡い水色とオレンジ色が綺麗なコントラストを作り出している。もうそろそろ夕方といったところだろうか。
華凛「あ、やっと帰ってきた。どこで道草してたのよ。」
優雅「穂奈未、一人で待たせてごめん。」
穂奈未「ううん、気にしないで。」
どうやら二人も戻ってきたようだ。それじゃ、買ってきたものを渡すとしますか。俺はビニール袋を持ち上げて、ゆっくりと二人の方へ歩き出した。
凌雅「はいよ、これで間違いないか?」
優雅「お、サンキュー!」
優雅がおにぎりとチキンを取り出したのを確認した俺は、華凛の方へと向き直る。しかし、華凛の手に握られていたものを見た俺は思わずビニール袋を落としてしまった。
凌雅「・・・。」
華凛「ちょっとアンタ、どうしたのよ。」
そう、華凛の手に握られていたのは、道中で散々見てきたメロンソーダ、いや正確には「クリームソーダ」だった。
凌雅「俺の今までの苦労は、くっ...。」
華凛「もう、だからどうしたのよ。そうだ、あたしはさっきメロンソーダは買ったからアンタにあげるわ。」
優雅「そういえばさくら先輩は帰っちゃったし、このコーヒーゼリー、貰っていいか?」
華凛「いいんじゃない?あ、お代はちゃんと出しなさいよ。」
優雅「分かってるって。」
華凛は自分の分を取り終えると、俺にメロンソーダを差し出してきた。
華凛「ほら、元気出しなさい。これはおごってあげるから。」
なんだよ、珍しく優しいじゃないか。まあコーヒー漬けになった俺の舌にとっては、このメロンソーダの甘さはそれこそ喉から手が出る程欲しい訳だが。それでは、有り難く頂くとするか。
カチッ、ブシューーーッ!!!
そう、俺は忘れていた。しかも、とても当たり前のことを。まるでホテルの大浴場にあるシャワーの如く、勢いよく飛び出したその緑色の液体は、俺の顔面にクリティカルヒットしたのであった。
凌雅「・・・。」
華凛「えっ、あっ。ごめん!」
穂奈未「凌雅君大丈夫!?」
優雅「・・・、プクククッ。」
どうやら華凛もわざとやったわけでは無かったらしく、思考停止して固まってしまっている。一方で穂奈未は、心配そうにこちらを見つめてハンカチを出している。そして優雅は、必死に笑いを堪えている。ああ、やっぱ俺ってば本当に...。
凌雅「ふ、不幸だ...。」
と、俺はどこかの高校生が口癖にしていそうな感じのお決まりのセリフをこぼしたのであった。




