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俺の愛する幼馴染(負けヒロイン)  作者: 炎右ロイ
プロローグ
1/17

穂奈未(ほなみ)と凌雅(りょうが)

桜の花びらが舞う中、俺の目の前には俺が世界で誰よりも大好きな女の子が立っている。

パッチリとした黒い瞳、くせ毛ながらも手入れの行き届いた黒い髪、ほのかにぽっちゃりとした丸みのある体つきに、聞いているだけで脳内に何かいい成分が出ているのが分かるほどの甘く優しい声...。

ああ、何もかもが、君の全てがとても愛おしい。好きだ、大好きだ。言葉だけじゃとても伝えきれない。できることなら、この気持ちをもっともっと伝えたかった。そう、「伝えたい」ではなく、「伝えたかった」。俺はもう、これ以上は伝えちゃいけないのだ。


「ごめんなさい!」


うん。分かっていたさ、こうなることは。でも、これで良かったんだ。これで...。



俺の名は尾崎凌雅(おざきりょうが)、18歳。桜の花びらが舞う別れの季節、卒業式を終えた俺はある場所へと向かった。

校庭の端にある、周囲の樹よりも大体1.5倍くらい大きな樹、とある恋愛ゲームになぞらえて俺が勝手に「伝説の樹」と呼んでいた広葉樹である。察しのいい方にはもうお分かり頂けると思うが、俺はそこで女の子に告白し、先程の状況に至った訳である。

まあ、あえて分かりやすい言い方をするならフラれたのだ。更に付け加えると、俺は「フラれるのが分かっていながら告白した」のである。


ところで、俺には優雅(ゆうが)という双子の弟がいる。優雅は学校では名を知らない者はいない程の優等生で、成績はいつもベスト3以内、スポーツも万能で優雅がどちらのチームに入るかで勝敗が決まるといっても過言ではないレベルだった。

そういうこともあってか、俺はいつも優雅と比較されていた。小学生の頃は俺の方が成績優秀で、一方で優雅は決して勉強ができない訳ではなかったものの、俺と比較してしまえばどの教科でも成績は下回っていた。故に、優雅のことを悪く言う連中も少なくなかった。そして、兄弟で比較されるような状況になると優雅はいつも作り笑いをしてみせていた。そして、放課後は部屋に閉じこもって、1人で泣きながら勉強していたのを俺は今でも色濃く覚えている。


その努力の甲斐もあってか、中学1年生の冬頃になると、ついに優雅の成績が俺の成績を上回ったのだった。あいつが影で必死に努力をしていたのを知っていた俺は、まるで自分のことのように本当に、本当に嬉しく思えた。

だが、この嬉しさはあまり長くは続かなかった。そう、この時から周りの人々の態度が急変したのだ。周囲の人間はほとんど皆、優雅の方に興味を示し、優雅にばかり期待をかけ、優雅のところにばかり集まるようになっていった。その一方で、俺に対しては冷たい態度ばかりを取るようになっていった。もちろんそれは親ですらも例外ではなく、優雅に対しては常に話をしているといっても過言では無いくらいの頻度で声をかけ、俺に対しては一言も発しないという日も珍しくなくなっていった。そして、家の中ですらも次第に俺の居場所はなくなっていったのである。気づけば、もう自分の部屋の中くらいしか居場所はなくなっていたのだった。しかし、俺は泣きながら勉強をした弟とは違い、ひたすらアニメに、ゲームに没頭しまくった。頭の中をできる限り自分の好きなことだけでいっぱいにするように、そして自分を取り巻いている状況について考えないで済むように、ひたすら、必死に現実逃避をし続ける毎日を過ごしたのだった。


「今の俺に必要なのは、残酷な現実なんかじゃない。どこまでも暖かくて優しい幻想なんだ...。」


人と話すのが怖い。元々俺は幼い頃から人見知り気味ではあったものの、ここまで人間が怖いと思えたのはその時が、人生で初めてだった。

テストの成績もみるみる落ちていったが、国語の文章題に関しては前よりできるようになった気がした。おそらく、本や教科書内の小説が書かれたページを学校内における現実逃避のためのツールとして使っていたためだろう。

また、教室では居心地が悪かったので、休み時間は大抵学校内で誰も来ない場所を探してそこで時間を潰していた。その経験もあってか、校内の構造も妙によく覚えており、今でも脳内である程度再現して歩き回ることができてしまうくらいだ。


しかし、そんな俺でも心を開くことのできる人間が数少ないものの、幸いなことに数人程いたのだ。そして、その人間の内の1人が七浦穂奈未(ななうらほなみ)、幼稚園の頃からの幼馴染だ。穂奈未は性格は大人しめながらも、困っている人がいたら迷わず手を差し伸べるような、とても心優しい女の子だった。

特に中学生の頃、人間不信に陥ってあまり外に出なくなった俺を心配して、学校では俺の悩みをいつも親身になって聞いてくれた。そのおかげで、俺は辛いながらも学校にはしっかりと、休まずに登校できていた。おそらくこの頃には、俺は穂奈未のことが好き、だったんだと思う。

高校に入ると、瞬く間に優雅の周りに大勢の女の子が集まるようになっていった。地元ではそこそこ偏差値の高い学校ではあったものの、なんとか穂奈未や優雅と同じところに入学することができた。


しかし、人間不信がほとんど治っていない俺に友達を作ることなどできるはずも無く、大体の時間を机に突っ伏すか持参したライトノベルを読むなどして過ごしていた。また、友達のいない俺にとって忘れ物をすることは授業を受けられないのと同義であったため、俺は基本的に宿題と配布物以外はロッカーの中にしまっていた。カバンのスペースに余裕ができた分、本を多めに持ってくることも可能だった。そういうこともあってか、読書はよくしていたものの、読む本に困ることはほとんどなく、図書室に行った記憶はあまりない。

ただ、いくらライトノベルが好きであっても、目の前でリアルラブコメチックなことをされて、それをただ眺めていることしかできないのは、はっきり言って苦痛でしかなかった。


そして卒業が近づいたある日のこと、穂奈未は俺にこう告げた。


穂奈未「私、優雅君が好きなんだ...。」

凌雅「・・・、そっか。」


不思議とショックは思ったほどには感じなかった。もしかしたら、俺が無意識の内に穂奈未の気持ちに気付いていたからかもしれないし、優雅になら穂奈未を取られてしまってもいいやという気持ちが俺の心のどこかにあったからかもしれない。

そしてさらに、穂奈未はこう続けた。


穂奈未「だからね、凌雅君の力を貸して欲しいんだ...。」

凌雅「分かった、俺で良ければ何でも手伝うよ。」


そう俺は言ってしまった。即答だった。しかも、その時の俺は嬉しいという感情で満たされていた。あの穂奈未が俺を頼ってくれた。こんな俺でも恩返しができる。それがとても嬉しく心地良かった。


その後、俺は穂奈未と「優雅を落とす方法」を一生懸命に考えた。時には一緒に買い物に出かけたりもした。正直その時だけは恋人になれたような気もして嬉しかった。しかし、それはつまり「穂奈未が好きだ」という気持ちをハッキリと自覚してしまったということでもあった。だから、やはり言うしかなかった...。穂奈未に「好きだ」と。



以上が「フラれるのが分かっていながら告白した」理由である。ここまで言えばお分かり頂けるだろう。俺がたった今告白した女の子こそが、穂奈未であると。ちなみに、穂奈未と考え出した「優雅を落とす方法」は結局「卒業式の日に直接会って告白する」というシンプルな方法で決着したのであった。


と、回想に浸っている間に穂奈未は居なくなってしまった。だが、穂奈未ならきっと「あそこ」で告白するだろう。俺は急いで「あそこ」へ向かった。


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