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黒い戦士  作者: 飛桜京
第二章
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第八話

 時間は少し遡り、出陣直後のホムラ達。


「ヤマト、大丈夫かなあ」


 そう呟くナデシコに、心配はいらないと首を振って伝える。


「そうだといいんだけど……」


 そんな話をしながらホムラとナデシコは、行軍の一番最後尾を走り続ける。途中で二人共先頭に出るが、今は必要ないために最後尾を走っていた。そんな時、クインタス率いる第一部隊の兵士がホムラを呼びに来た。


「ホムラ殿、ナデシコ殿そろそろお願いします」

「了解」「はいはーい」


 兵士と共に先頭へ出る。クインタスが話しかけてきた。


「やあ、ホムラ君。君とナデシコさんは、随分と仲が良いようだね。あんな美人を友にできるとは、なんとも羨ましい。もしかして、恋人だったりするのかな? それとも兄妹?」

「…………それは、無いな」


 長い沈黙の後、静かに答えるホムラ。彼は、ナデシコに一番お似合いなのは、ヤマトではないかと思っている。どちらかというと、姉弟に近いが。そういう自分も、ヤマトを弟のように見ているため、三兄弟に見えるのかもしれないなと考えるホムラだった。年齢的に上の二人が逆になってしまうが、イメージ的には、ホムラが長男でナデシコが長女、ヤマトが末っ子。……財政的な危機を一日足らずで起こしてしまいそうな兄弟である。主に下二人が。


「兄妹だったら俺は、逃げる。ついでに、どちらかといえば姉弟だ」

「嫌いなのかい?」

「いや、そういうことではないんだが、あの二人は疲れる」

「二人というと、ああ、ヤマト殿か。彼もそういえばいたな。この行軍にはいないのでついつい忘れてしまっていた。許してほしい」

「…………」


 言葉ではなく、ただ頷いて返す。


ホムラは元来無口な男だった。常に無表情で必要最低限のこと以外はまったく話そうとしない。今日はかなり話すほうだった。過去数ヶ月の間に、彼が短時間でこれだけ話したのは初めてのことだろう。いや、もしかしたら『数年間で』、かもしれない。彼はそれほどまでに話さない男だった。


「珍しいねー。ホムラがそんなに話すなんて」


 ナデシコがそう言うと、ホムラは頷き、クインタスは話の矛先をナデシコに変更して話しかけてきた。


「ホムラ君はいつもこうなのかい?」

「うーん、そうだね。あまりしゃべらないからたまに一人でどこかに行っちゃうと分からなくなっちゃうことがたまにあるね。だからちょこちょこ母性に目覚めそうになるよ」


 ホムラが顔を逸らす。小さく「お前に言われたくない」などとぶつぶつと呟いていたが、二人には聞こえなかった。


 ■ ■ ■


 しばらく進み続けた後に少しの小休止をしていると、先遣隊に行かせた小隊が戻ってきた。クインタスが小隊長に呼びかける。


「ごくろう。どうだった?」

「特にこれといった変化は見られませんでした。ただ、進軍速度が妙に遅いので、待ち伏せを狙っているのではないかと我々は考えております。それ以外の変化はありませんでした」

「ふむ。相手は狩人の国だから何かしらの罠を仕掛けていてもおかしくはないな」

「もう一度見てきましょうか」

「いや、道中疲れただろう。君たちは後陣で少し休んでいるといい」

「はっ。では我々は失礼いたします」


 びしっと敬礼する小隊長以下十名にゆっくりと頷くクインタス。小隊長達が去っていくと今度はナデシコがホムラを引き連れてやってきた。


「クインタスさん信頼されてるんだねー」

「ふふふ、これくらい普通のことさ。将たる者兵の信頼を得ずしてどう戦うというのかな? それは無理というものさ。それで、何か用かい?」

「暇だったから雑談しに来たの」

「……付き添いで来た。俺のことはいないと思ってくれていい」


 そう言うとホムラは近くの木陰でのんびりと読書を始めた。何をやっても絵になる男だと思った。


「丁度いい。私も暇を持て余していたからね」

「わーい。ホムラが相手してくれないから暇だったんだよね」


 可愛らしい仕草で喜ぶナデシコ。こんな美女(美少女?)と一緒にいられるヤマトとホムラは本当に幸せ者だと思う。


「どうだいナデシコさん。この戦が終わったら私とお茶でも―――ぐおっ!? き、急に何をするのだね!? 痛いではないかっ!」


 なんとなくナンパしてみたら腕をへし折られかけてしまうクインタス。とんでもない激痛が走った。もしかしたらあの二人が彼女と距離をとっている理由はこの強力があるからではないのだろうか。


「え、だって戦前にそーいうこと言われたらとりあえずへし折っとけって、ヤマトが言ってたから……」

「お、恐らくそのへし折る対象は私の身体じゃなくて、フラグだと思うのだよ……」

「ふらぐ? フライなら知ってるよ。おいしいよね、あれ」


 思っていた以上に子供だった。大きな子供という感じだ。


「…………」

「はっ、なんだか馬鹿にされてる気がする!」


 大当たりであると言おうとしたその時、鋭い風切音が聞こえた。ついさっきまで読書をしていたはずのホムラがクインタスの目の前に立ち塞がる。


「……ここは敵の目の前だ。もうのんびりしている暇はない」


 そういったホムラの右手には一本の矢が掴まれていた。これが飛来するのが見えていたのだろうか。ホムラがかなり遠方を指差す。


「あそこから来た。これは宣戦布告のようだな。行くぞ大将」


 そういったホムラはすでに槍を構え、陽光の元で燦然と輝いて見えた。そんな姿に見とれることしばし。


「う、うむ」


 と、なんとか答えることができたが、その顔が真っ赤に染まっていることに自分でも気がついた。


(私は何をしているのだっ! 相手は男だぞ! 女性ならまだしも男に見惚れてどうする!)


 そんなクインタスの苦悩を知らないホムラが首を傾げながら尋ねる。


「? どうした、行かないのか?」

「な、何でもない。気にしないでくれ。……―――総員、行くぞ! 突撃!」

『おおっ!!』


 セイレン軍の突撃が始まった。

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