第七話
血溜りを二つ作って出てきたヤマトは、返り血を浴びて黒と赤の大変不気味な姿になっていた。
「まあ、こんなもんかな」
そう呟いた後、ヴェナスとイーシャの元へ。
「終わりましたよ」
「もう終わったのか。ずいぶんと仕事が速いのだな」
「それが俺ですから」
「さすがは先生ですねー」
途中でイーシャが話に加わる。
「まあ、俺だからな。それよりもだ、リエラ。お前は何でここにいるんだ?」
「先生こそどうしてこんなところに?」
…………。しばし沈黙。
「えーと、どういうことか最初から説明してくれるかな?」
ヴェナスの質問に二人が答える。
「……えー、どこかで俺の戦いを見た姫様が平民に扮装してリエラと名乗って俺に弟子入りを志願してきたのが事の始まりですかね」
「因みに、そのときより前からホムラさんたちには弟子入りしてましたから。私のことすぐにばれちゃいましたけど」
どうやってわかったのかが疑問になるところだ。ヤマトの所にやって来た時のイーシャからは、魔力を感じていたが、あまりにも微かだったので、こいつはいずれ魔法を使えるようになるかもしれんと簡単に思ったのみで、たいして気にしていなかったのだ。
「あいつら偶にいなくなるなー、とか思ってたらそれが理由だったのか。何習ってたんだ?」
「罠の作り方と解除方法、見分け方に、魔法の使い方です。あと、戦い方」
納得した。ナデシコに変装系の魔法を習ったのだろう。彼女は子供のように見えるが、ああ見えて実は凄腕の魔術師だから、まあ納得がいく。ここまで魔力を抑えられるのはイーシャの才能だろう。
ヤマトが教えていたときも簡単な魔法と剣術を同時に使う芸当を簡単にやってのけたのは、ホムラの教育もあったから、というのもうなずける。彼は基本無口なくせに、人に何かを教えるのがとてもうまい。一度彼がとある村で臨時教師をしているのを見ていたが、かなり評判がよかったのを覚えている。
「……ああ、納得した。何であんなにお前がうまく戦えるのかと思ってたらあの二人の教育があったからか」
「まあ、そんなところですかね」
「…………私の娘が勝手なことをして申し訳ない」
恐縮するヴェナス。
「いや、俺たちも気にしてないんでいいですよ。割と楽しかった―――?」
ヤマトの言葉が途中で止まり、ふと西の空を見上げる。
すると、エルゲイツ側に送ったはずのムニンが飛来した。
「わ、大きなカラスですねー」
イーシャが感嘆するが、ヤマトはそれに答えない。
「ムニン? いったい何があったんだ?」
『早く来ていただきたい。このままではエルゲイツ軍と一緒にセイレン軍も壊滅する!』
「「「!!?」」」
「どういうことだ?」
『ナデシコの暴走だ』
「すぐに行く! 陛下に姫様は兵を退却させてください! 俺は先に行きます。ムニン、案内してくれ。クロ、行くぞ!」
『『承知!』』
クロに騎乗したヤマトはムニンの案内で駆け出した。
■ ■ ■
その頃、セイレン王都のホワイトパレス城門前に一台の馬車が現れた。
「ここに『ヤマト』という傭兵がいると聞いたんだけど、合ってる?」
女性が問う。
「いえ、今はおられませんが、明日には帰ってこられるのではないでしょうか」
「そう。ありがとう」
「いえ、この程度のことであればいくらでも」
衛兵が敬礼すると、女性は微笑んで手を振った。見惚れそうなほどに優しく、美しい微笑だった。
女性は馬車に乗って、引き返していった。