第二話
出陣直前、ヤマトはホムラとナデシコを呼んで少し話し合っていた。
「ひとつだけ聞いておきたいんだが、軍議の時にジェイが遅刻してきたのを覚えてるか?」
二人とも頷く。説明の手間が省けてよかった。
「その時にジェイの髪の毛が一瞬だけ銀色だったような気がするんだが、何かわからないか?」
「光の加減によるものではないのか?」
「おそらくな。あの時、微かに俺たちの魔力じゃない魔力の匂いがした。おそらくアイクも気づいているかもしれない。多分変化か何かをしているんだと俺は踏んでるんだがな……」
鼻には自信がある。間違っているはずがない。
「それなら、何かあるかもしれないよね。ヤマトが言うんなら間違いないよ。いつもそのおかげで事前に対処できてるもんね」
ナデシコが小柄な体の割りに豊かな胸を張って答える。
「後ひとつだけ。さっきムニンから報告が来たんだが、エルゲイツ軍の様子が何かおかしいそうだ。細かいところまでは分からなかったそうなんだが、エルゲイツ軍全体が土煙の中に隠れた時に淡く光って薄れて見えたそうだ。何があるとも言い切れないからな。取りあえず気をつけておいてくれ」
「わかった。ナデシコ、サポート頼む」
ホムラがそう言うとナデシコはサムズアップしてみせる。
「任せて! 腕が鳴っちゃうよっ!」
「そりゃあ頼もしいな。何かあったら知らせてくれ。何かしらしてくれればすぐに駆けつける」
「じゃあ、ヤマトはこれを持ってて。これは転移魔法を込めてあるからこれなら何かあったら一回だけならいつでもどこからでも私のところに転移できるからね」
そう言ってナデシコが渡したのは銀色の首飾り。邪魔にならないようにしてくれたのだろう。
「ありがとな。大切にするよ」
「しなかったら呪うからね」
「怖い怖い。気をつけなきゃな」
その時、クロがやってきた。
『そろそろ準備ができそうだ。もうすぐだから集まったほうが良いぞ』
「じゃあ行くか」
クロに跨り、城門前で兵士たちと合流する。そこには白銀の鎧で固められた兵士たちが一分の乱れも無く整列していた。
ヴェナスがやってきた。
「む、来たか。そろそろ出陣だ。持ち場についてくれ」
「了解」
その時、ナデシコが視線に気がついて振り向く。
「ヤマト、どうかしたの?」
「いや、お前って改めて見るとあの子に似てるなーと思ってな」
「あの子って?」
「ああ、お前と出会う前に出会った女の子だよ。多分今は医者をしてると思うが―――、まあいい。この話はいずれするよ」
「わかった。じゃあね。気をつけて」
「ああ。そっちもな」
そして三人は別れた。