表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒い戦士  作者: 飛桜京
第二章
10/74

第一話 

 晩餐会があった翌朝、ホワイトパレス城内に与えられた客室で気配に気付いて目を覚ました。


 その視線の先には窓の桟が二つあり、その一つずつに巨大な鴉が一羽ずつ止まっていた。前日にヤマトが偵察に出した召喚獣のひとつ、<オーディンの鴉>のフギンとムニンだ。


「ずいぶん早かったな。もう少しかかると思ってたんだが」


 話しかけると、フギンが答えた。


『早いめに伝えたほうがいいと思ったのでな』


「そうか。よくやってくれた。むこうはどんな感じだった? バルザート側から頼む」


『総大将はバルジという名の貴族だ。ここの貴族とは違い、家柄や権力を重視する傾向が見られるへたれた指揮官だ。兵力は五十万といったところだろう。副将はビートという男で、総大将とは違い、芯の通った部下思いで、拳で語るタイプの男だ。バルジと違って人望があるな。


 今バルザートはセイレンから北に五十キロ程の所にいた。おそらく三日程で着くだろう』


 フギンの報告を聞いて、ムニンに目を向ける。


『エルゲイツ総大将はデルトという男だ。何度も戦功を上げているが、やり方が狡猾だからかあまり好かれてはいない。副将のデインは、奴の弟だそうだ。兄と似た性格をした狡猾な男だ。彼奴もあまり好かれておらんのは確かなようだな。

 エルゲイツの兵力は四十万程、北西の方向に五十キロくらいのところにいる。地形的に見て、三日半といったところだろう』


「ずいぶん緩やかな進軍なんだな」


 手短なところにあった羊皮紙に報告された内容のメモを走り書きをしながら尋ねると、ムニンが答えた。


『恐らくこの国の者を焦らせるつもりなのだろうな』

「だよなあ。面倒なことしやがる……。さっさと攻めてこればいいものを」

『……皆が主のようにはいかぬからな』

「そんなもんなのかね。俺としちゃやり甲斐があるから、そっちのほうがありがたいんだが」

『それ以前にこの国は聖戦の折、勇者と呼ばれた戦士たちを数多く生んだ最強の国のひとつなのだ。相手が慎重になってもおかしくはない』


 この国は小さいながらも、数千年前の魔族との聖戦で数多くの勇者を生み出し、魔族を退かせて勝利をもたらした。そのため、この国は唯一の小国として、周囲の大国からも恐れられながらも、今も生き残っている。


 そして今もこの国は<戦士の国>と呼ばれており、国民の八割は戦士で、残りの二割が農民や漁師、商人だが、その中の八割は傭兵を兼業としている

ということを思い出した。


「そうだったな。あ、そうだ。ムニン、エルゲイツの仕掛けている罠か何かについてわかるか?」

『分かる。彼奴らは、崖下で戦うということを考えて崖の上に伏兵を仕掛け、丸太落しや崖崩しを狙っているようだ。それも両側からな。今確認しているのはそのくらいのものだが、まだほかにもあると見て間違いはないだろう』


 再びヤマトが走り書きを再開する。


「わかった。ありがとな。また報告しに来てくれ」

『『承知』』


 そういって二羽は再び飛び去った。


 二羽の鴉が飛び立つのを見送って、ヤマトは普段着に着替える。


 ホムラはもう起きていて、朝早くから趣味の読書に勤しんでいた。ナデシコはまだベッドにくっついていたいのか、掛け布団ごと丸まっていまだにすぅすぅと寝息を立てて眠っている。


「まったく、こいつは本当に俺たちより年上なのかどうかが怪しくなってくるな。もう少し大人っぽいとこ見せてほしいもんだ。というかホムラを見習ってくれないかな」

「それはお前もそうだろう……俺がいないと何もしないからな……」

「……ぐっ」


 ホムラに静かに痛いところを突かれて押し黙る。


 実際ホムラがいないと何もできないのは事実で、ホムラがいなかった頃のヤマトとナデシコの二人旅は、実に適当だった。服は軽く洗って乾けばよし、食事はその辺で獲って来た物の丸焼きなどと、随分ひどい有様だった。


「……ナデシコを起こして飯に行くぞ」

「それが簡単にできたら苦労しないね。こいつの寝起きの悪さ知ってんだろ?」

「俺よりお前が起こせ」

「任せろ……って、お前なあ、とばっちり受けないように逃げようとしてんじゃねえよ!」

「お前は今、『任せろ』と言った……だからお前が起こせ」

「つい言っちまっただけだろうが!」

「頼んだぞ……」


 そう言って逃げるように去っていく。


「あ、おい! 待ちやがれ!」


 扉が閉まる前に呼び止めたが、ホムラは何故か親指を立てて去って行った。


 部屋に残されたのは、ナデシコをどうやって起こそうか考えて頭を抱えるヤマトと、今もムニャムニャと時折寝言を言いながら気持ちよさそうに眠っているナデシコだった。


「くそ、ホムラめ。後で絶対恨んでやる……」


 ■ ■ ■


 何とか朝食時間に間に合ったヤマトとナデシコは、ホムラと合流するが、ホムラはもう食べ終わる寸前で、文句を言う前に去ってしまった。


「うー。何でホムラいないの?」

「お前のせいだ。お前のせいでこうなったんだ」


 ナデシコが目を覚ますまで、とんでもない時間を食わされ、その上、持ち前の怪力で反抗されて、ヤマトはもうボロボロだった。


 食べながらもぐったりとテーブルに突っ伏しているヤマトと、まだ眠そうに目を擦ったり小さくあくびをしているナデシコのところに、ヴェナスが来た。


「やあヤマト君、ナデシコちゃんも一緒か。ホムラ君はどうした?」

「おはようございます陛下。あいつなら逃げました」

「あ、おはようございますぅ。ふわぁぁ」


 突っ伏しながら挨拶するヤマトと、あくびを交えつつ挨拶するナデシコ。


「どうした? 夫婦喧嘩でもしたのか?」


 そう言いながら同席してくる。


「いや、こいつを起こそうとしたら抵抗されまして。というか、結婚してません」

「夫婦円満のコツは二人で一緒によく笑うことだぞ」

「聞いてないし……」

「いやあ、おかげですっかり仲良くてなあ。結婚してからの二十五年間一度たりとも喧嘩したことはないし、険悪な仲にもなったことはないぞ。おそらく私たちはこの国一幸せな夫婦ではないだろうか」


 話す程デレッとしていくヴェナスと、聞く程辟易としていくヤマトに、目が覚めたのか目を輝かせて聞くナデシコ。


「腹立つな、もう。ノロケよりも先に話を聞いてくれよ……」

「それでそれでっ!?」


 その後二十分間ヴェナスのノロケ話は続き、ヤマトは泣きそうになりながらも聞き続ける羽目に遭い、最終的には途中で逃げ出した。


 ■ ■ ■


 正午、軍議が始まった。


 大将から少将の五人が入ってくるかと思えば第五部隊長のジェイがいない。


「珍しいな。時間に正確なジェイが遅刻か」

「ちょっと探しにいきますか」


 クロウとアイクがジェイを探すために席を立つ。



 三十分後、問題なく帰ってきた。気のせいだと思うが、金髪のはずのジェイの髪の毛が銀色に見えたのは気のせいだろうか?あと、かすかにだが、何かの匂いもした。


「申し訳ありません。遅くなりました。……ヤマトさん?私の顔に何かついているでしょうか?」

「ん?あ、ああ、すまん。なんでもないさ。ただ、あんたってやっぱ子供と女を足して二で割ったらできたような男だなあと思っただけだよ。悪かったな」


 どうやらジェイの顔をじっと見つめていたらしい。やはり髪の毛は金髪だ。気のせいだったのか。


 そのとき、ヴェナスが立ち上がって、宣言する。


「よし、全員揃ったな。ではこれより、バルザート・エルゲイツ対策軍議を始める!」


 全員が立ち上がって右拳を左胸に当てる、セイレン軍式の敬礼をして座る。


 まずヤマトが立ち上がり、発言する。


「取り敢えず、こいつを見てくれ」


 右手を軽く振ると全員の前に、図が表示される。


「こいつは上空から見た王国から北に行ったところの地図なんだが、この青い矢印はセイレン軍、赤がバルザート、緑がエルゲイツだ」


 地図上に三色の矢印が現れ、青い矢印が途中で二股に分かれた。


「こいつは偵察隊からの受け売りなんだが、バルザート総大将はバルジ。ここの貴族とは違い、家柄や権力を重視する傾向が見られるへたれた指揮官だ。兵力は五十万といったところだろう。副将はビート。総大将とは違い、芯の通った部下思いで、拳で語るタイプの男だ。バルジと違って人望があるな。

 今バルザートはセイレンから北に五十キロ程の所にいるらしい。おそらく三日程でセイレン国境に着くだろう。

 エルゲイツ総大将はデルトという男だ。何度も戦功を上げているが、やり方が狡猾だからあまり好かれてない。副将のデインは奴の弟だそうだ。兄と似た性格をした狡猾な男だ。奴もあまり好かれてないようだな。

 エルゲイツの兵力は四十万程、北西の方向に五十キロくらいのところにいる。地形的に見て、三日半くらいか。で、俺たちセイレンの総兵力は四十八万だ。それを二つに分けると、二十四万ずつだな。かろうじて半分といった程度か」

「では、どのように分ける?」


 アイクの質問に、ヤマトはバルザート側に平民組+王家組、エルゲイツ側に貴族組に分けると答えた。


「で、俺達三人はどちらかに二人と一人になって入る。それでいいか?」


 これにはヴェナスが答えた。


「うむ。ならば、エルゲイツ側に二人来てほしい。やはり罠の危険があるからな」

「わかりました。なら、ホムラはエルゲイツ側に行ってほしい。こいつは罠の回避・解除が得意ですから、役に立つでしょう。それでいいか?」


 ホムラが頷くのを見て、ヤマトが続ける。


「ついでにナデシコもエルゲイツ側へ行ってほしい。別に俺が行ってもいいんだが、数の差については自前で増やせる俺のほうがいい。それでいいか?」

「いいよ」

「じゃあそれで。こんなもんでいいんですかね、陛下?」

「うむ。では、出陣日時と戦場となるであろう場所を教えてほしい」

「わかりました。出陣は明日の正午、場所は対バルザート組は国境から2日程行ったところの<海辺の道>、対エルゲイツ組は国境からすぐの分かれ道のあたりに布陣をしてくれ。計略とかについては任せるから、各自で話し合っておいてくれ。じゃ、以上です」


 ヴェナスが尊大に頷き、宣言する。


「うむ。では、内容については今聞いたとおりだ!皆、忘れないようにすることを心がけよ!」

『はっ!!』



 そしてこの二日後に、国家の存亡をかけた戦が始まる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ