プロローグ
―――十年前、メルカ
一組の家族が町を呑み込む青い炎から逃げるために走っていた。
父親は二人の娘を抱え、母親も少しの荷物と二本の刀を抱えていた。
―――商店街、公園、路地裏などがめまぐるしいスピードで、後ろに消え、炎に呑み込まれていく。
そのまま走り続けてようやく守衛門についた。
「イカルガ! 大丈夫か! こっちだ、早く!」門にいる男性が叫ぶ。
「すまない! すぐ行く!」
父親のイカルガはスピードを上げ、母親のアスカもそれにあわせる。
ここにはほかにも何組もの家族連れがいた。
イカルガは娘のキイとアマミを下ろし、アスカから荷物と刀を受け取り、自分のコートを脱いでそれを包み、アマミに託す。
「アマミ、これとこの刀を持って姉さんとこの町の外へ出なさい。ここはそのうち戦場になるだろうから、早く!」
「でも、お父さんとお母さんはどうするの?」
「父さんたちはこの炎を消火できたら、すぐに追いかける。だから早くみんなと外に出るんだ!」
「……分かった。絶対に追いついてきてね。約束だよ!」
アマミとキイは門の向こうにいる子供たちの下へ走り去っていった。
その直後、一人の青年が通りかかった。
「ヤマト君、ちょうどよいところに来てくれた。君に頼みがある」
ヤマトと呼ばれた青年は少しも焦った様子を見せずに、話を聞いてくれた。
「なんだ?」
「私達の娘を守ってやってほしいんだ」
「分かった。あんたの頼みとあらば、命に変えても」
「いや、そこまではしなくていいよ。どちらかといえばアマミをしっかりと守ってやってほしい。あの子の暴走が一番怖いからね。あとは、君がアマミの気持ちに気づいてやってくれるといいんだが……」
最後のイカルガの呟きをしっかりと理解できなかったのか、ヤマトは首をかしげる。
「? よく分からんが、あの二人を守ればいいんだな?」
「ああ。頼んだよ」
ヤマトは最後に茶目っ気を見せて簡単に敬礼をして去って行った。
「アスカ、おそらくあの子達にはもう会えないだろう。最期にしっかりと目に焼き付けて置いたらどうだ?」
アスカは少し微笑んで答える。
「いいえ、もう大丈夫です。そういうあなたはいいのですか?」
「ああ、もういいさ。もう心残りはない。後は、今悲劇を語り継ぐ者を守り抜くだけだ」
すう、と大きく息を吸い込み、巨大な龍となる。アスカもそれに続き、町の者もそれに続いて元々の姿となる。
龍、鬼、獣…すべての者の姿が変わったとき、イカルガが叫ぶ。
「皆、行くぞ! われらメルカ亜人連合の力、見せてやろう! 最期の戦いだ!」
『おおっ!!』
ここは亜人の町。人口数百人だが、人間など一人もいない。故に県や鎧などを装備しなくとも、その肉体のみを武器や鎧とすることのできる精強な戦士たちがそろっている。
皆が叫ぶと同時に青い炎は大小さまざまな人の姿をとると同時に、両軍は同時に駆け出した。
その後、メルカがどうなったのかはこの世界に住んでいる誰もわからない。
ただ、今もメルカは青い炎に包まれている。
ただそれだけだ。
―――とある遺跡で拾われた手記より。
よろしくお願いします。