三日目 空気物質化魔法とその課題
今日で入学から三日経った。
まずは、朝食を食べたり、顔を洗ったりといった日常的なことからする。
こういう時には一人だけでこの寮で過ごしているのは非常に得をすることが多い。
だって、順番待ちとかないから。
大勢で暮らすとそれがどうしても不便だからなあ……。
一人だとお風呂もゆっくり入れるし、この点は本当に便利。
「さて、空気を固めて物質化できるかな? この本の中身に沿ってやれば、僕にも使えるのかな?」
右手に持った本を見ながら呟く。
昨日見つけたこれが何よりも気になった。
もしもこれが出来たら、椅子も机も自作できる。
そうなったら、仮に教室で椅子が足りないからって座れなくても、作って座れば良いんだ。
「……まずは、魔力を使って、空気を覆わないと」
僕は今訓練室に居る。
魔力を外にだし、空気を囲むように動かす。
ボールの中に空気を閉じ込めるような感覚だ。
とりあえずは出来たかな? えっと――――。
「エアメイク!」
ちゃんと発動したみたい。
さっきまでこの魔力ボールは実体なんかなかったのに、今では普通のボールと変わらない物質になってる。
「……すごい。こんなことができるんだ……」
作ったボールを持ち上げてみる。
実体があるからか、イメージに左右されているのか、ずっしりと重い。
とりあえずは習得できたから、これで椅子や机も作れるよね?
「よし、さっそく机を作ってみよう!」
ボールを消滅させ、自分の部屋に戻る。
実物の家具は無いけど、イメージで作るなら出来るはず!
まずは空気を包み込ませて大きくして、形も整える。そして……。
「エアメイク!」
椅子と机をイメージし、空気を固めて形を変えていく。
期限は、僕がここを卒業するか、解除するまで。
そして、二つの家具を完成させた。
「出来た! 椅子と机だ!」
僕の目の前には、緑色に薄く輝く椅子と机が出来上がっていた。
完成だ! じゃあ、次は本棚を作ろう。
「エアメイク!」
本棚もひとまず完成したので、借りてきた本を入れていく。
こんなものまで魔法で自作するなんて思わなかった。
「物質化か……。これを使えば、空中に足場も作れないかな?」
もしかしたら空中歩行も出来るかも!
さっそくやってみよう! 訓練室に戻ろう!
「エアメイク!」
空中に半透明な緑色の四角い足場を作って、固定化はできた。でも
「しまった。登れない……」
僕はまだ飛行能力を持ってない。
だから、空中に作っても乗れない。
……まだ早かったみたい。それに、魔力が切れてきた。
たったの魔力16は辛いよ。全然作れないもん……。
はあ、しょうがないか、先に他の先生に会ってみよう。
ーーーー
と言うわけで、土学科と光学科の先生の所に行ってみた。
目があった瞬間に嫌悪感全開で睨まれたけど。
「何ですか、風学科が私に何の用ですか? 授業に参加するなど、認めませんよ? さっさと寮に戻りなさい」
「ふん。風学科と話すことなど無い。今すぐ帰れ」
うわあ……。クライズ先生の言った通りだ。これじゃ話も出来ない。
「まあまあ、そう拒否オーラ出さなくてもいいじゃん! な?」
「くだらん。風学科の話など聞く価値も無い」
「同感です」
行っちゃった。こりゃ駄目だ。
盗聴術式でも入れるしかないかも……。
「なあ、お前さ、周りの教師の授業計画っての、知ってるのか?」
「いえ、知らないです。初めて聞きました」
「実はな、担当教師の物以外に今年は学ばないから、授業はほとんど魔法ばっかりなんだ」
「……え?」
そんなの初耳です。
「あー、他がどうかは知らんけど、これがうちの時間割」
そう言って時間割が渡された。って、なにこれ!?
全部「ランダム」じゃない!
ランダムは炎魔法と体育? 気分で変えるって書いてあるけど、これはどうなんだろう……。
「そっか、この説明もしてなかったんだな? 実は、今年学ぶのは二つの教科だけなんだよ」
「そうなんですか!?」
「風学科は俺たち風のカリキュラムなら、風魔法、薬学か魔法術式だな」
「あれ? もしかして杞憂だった?」
「ん? お前、一体何作ったの?」
「これです……」
「……まさか盗聴術式?」
「はい」
「……」
「……」
両方とも黙ってしまった。まあ、仕方ないよね……。
「俺のとこは体育だから、無理だな。氷も雷も実技だし無理」
「そうですね。光学科と闇学科の副学を受講します」
「ガンバレ、少年」
「はい、薬学も魔法術式も修めてみます」
「良し、頑張れよ……ん? こんな時に連絡?」
「……?」
連絡?先生は何も持ってない気がするけど?
耳に何も入ってない手を当てた……?
「……はあ!? ボールがなくなった!? サッカーボールもバスケットボールもバレーボールも!?」
突然耳に手を当てたと思ったら、突然叫びだした先生。
でも、あんな大きなボールを紛失するってどういう事をしたら起きるんだろう?
谷底に落としたとか?
ボール? ボール作るくらいの魔力なら今でも足りるよね。
「おいおい! どうするんだよ! これからサッカー大会やるんだぞ!」
サッカーボールか……。知ってるからこれで作ろうかな。エアメイク!
「ああ、悪い、少年、今から行かないと……って、それは一体なんだ!」
「必要なのはサッカーボールですよね?」
「いや、さすがにこんなんで……!」
とりあえずエアメイクで作ったボールを渡した。その途端、この先生の目の色が変わった。
「これは、間違いなくサッカーボールだ! これなら、サッカー大会は出来る!」
「えっと、それでどこまで出来るか分かりませんけど、良かったですか?」
急造したから、強度とか重さとか不安だけど。
「完璧だ! 少年天才じゃね!?」
いやいや、買いかぶりすぎだよ!?
それより早く行かなくて良いんですか?
「よし! じゃあ、行ってくるわ! またな! 少年! あ、俺の名前はフレイな!」
「あ、はい。フレイ先生、気を付けてくださ……ってもういないよ」
実は近い場所でオリエンテーションやってたりして。まあ、関係ないけど。
でも、良いことを聞いた。クライズ先生だけでも問題なかったんだ。
まあ、何のために盗聴術式を組んだか分からないから、光学科には仕掛けよう。薬学は楽しそうだし。
ーーーー
クライズ先生が戻って来ていたので、直接さっきの話の事を聞いてみることにした。
「ああ、その説明をしていなかったな、すまない」
本当に説明を忘れてたんだ。一体どういう事なの?
「クライズ先生、どういう事なんですか?」
「実は、一年に教える科目はその属性の魔法と、担任の得意科目だけなんだ」
「……そうだったんですか?」
「説明をしておけばよかったな。すまない」
「いえ、おかげで盗聴術式が改良できましたし」
これ以上は多分無理。よく出来たと思う。
「…………なるほど、ここまでやったか。さすがだ」
褒めてくれた。……頑張ってみたかいがあった。
「はい、そこまでやりました」
「恐らく、これ以上小さくするのは不可能だ。後はこれを、対象の担当科目の教室に仕込んでみろ」
もう無理か。仕方ないや。
「はい。……でも、場所が分かりません」
「そうだな……。基本的に、塔に近い教室だ。だが、わざわざ移動せずにやることもあるだろうな」
「あの、クライズ先生の時間割も見ましたが、魔法の方が比重が大きいですよね?どうしてですか?」
これってどうしてなんだろう?
「そうだな、説明しておこう。闇魔法に限らず、魔法という物は下手すると相手を殺す殺人道具にもなるからだ」
クライズ先生はあまりに衝撃的なことを言ってきた。
「え……」
「お前がサッカーボールを送ってくれたおかげで大会ができたとあいつが言っていたな。あれを作った魔法で、人を包むとどうなる?」
「それは……。あ…………!」
多分、窒息死させられるだろう。
「それが答えだ。お前は初日に魔力を全て費やした一撃を撃ったが、もしあれが誰かに当たったらどうなる?」
もし当たってたら、確実にその人は大けがしている。
当たりどころによったら……!
「……」
その光景を思い浮かべると、体が震えそうになる。
「魔法は確かに素晴らしい力だ。だが、間違えるとただの暴力になる。気をつけろ」
「……はい、クライズ先生」
素晴らしいけど、凄く危険ってことですよね。分かりました。気をつけます。
「……さて、警告はその辺にしておくか。あのサッカーボールがあったおかげで、大会が盛り上がった。どんなに力を入れて蹴っても壊れないと評判だったな。どんな魔法を使ったんだ?」
あのボール、壊れることなく使えたんだ。よかった。
「あ、空気を魔力で固めて、物質化しました」
エアメイク、便利でした。
「確か、似たような魔法を図書館で見たな。調べたのか?」
その中にあったんです。
「はい、誰も居ないので、魔術書を全て借りていきました」
「なるほど。掃除はどうなっている?」
図書館はすごいことになってたね。そういえば掃除しないと。
「魔力が回復したら、やっておきます」
生徒は僕だけだし。
僕がやらないと。
「いや、あいつにやらせる。寝ているだけだが、たまには動いてもらおう。伝えてくれるか?」
あいつって、風学科の先生ですか?
そう思ったら、先生が頷いた。
「風学科の先生ですか? 分かりました。伝えておきます」
そう言って、クライズ先生の部屋を出た。
ーーーー
「うっ。掃除か…………」
何でめんどくさそうなの?
「やっておくように伝えてくれと頼まれました」
でも、この人やってくれるのかな?
「……ねえ、代わりに」
押し付ける気だし。
「あなたがやってください」
「仕方ないなあ……。全く……」
とりあえずは、安心かな?
さて、訓練室で実験の続きをしよう。
ーーーー
「どんなものが作れるかな? 翼は作れるかな?」
翼をイメージして作る……が、動いてはくれない。
まだ空は飛べないみたいである。
「空中歩行の真似事だけでもやってみよう。エアメイク!」
空中にいくつか作り、そこに行くための踏み台も作った。
「意外に高いね……。これは予想外だ……」
空中に作った足場は高さ1メートルの所に作ったため、かなり高く感じる。
降りよう。ちょっと怖い。
「気を取り直して……。エアメイクで盾とか剣って作れるのかな?」
模擬戦で使うとかは考えてないけど、覚えておいても損はないよね?
「剣と盾をイメージして、エアメイク!」
魔法が発動して、緑色に光り輝く剣と盾が出来た。だが
「重い……。これもイメージが重量を作ってるのかな?」
これも本物のイメージを基にしているのか、重くて持てない。
剣は全くダメ。盾は、一応両手なら持てないこともなかった。
でも、それじゃ駄目だ。
「壁を作った方が現実的かな……」
動かす必要はないから、この場合すごく楽だ。
バリアをイメージして作ったら一方通行の壁にもなった。盾より壁を作った方が良いみたい。
「あ、そうだ。作ったものをエアメイクで変形させられるのかな」
今作っている作品は全部自分の中に解除した魔力を取り込んで作ってるから効率が悪い。
作ったものを直接変形出来たらすごく楽だ。
「この壁を杖に変える!エアメイク!」
壁が僕の目の前で変形していき、杖になった。が
「駄目だ。中の空気を逃がしてないから大きすぎる……」
そう、壁の体積をそのまま残して杖にしたのだ。
大きすぎて使えない。失敗だ。
「うーん……エアメイクは便利だけど万能にはほど遠いな……」
これがあるから机も椅子も作れるんだけど、作り直しがちょっと面倒なんだよな。
……難しい。
「ブーメランも、このままだとものすごく練習しないと使えないしなあ……」
そう、これらを使いこなすには、今の状態では凄まじい技術が要る。
剣を振るったり、鎧を着るなら当然体力も要る。そんな無茶な。
これじゃ壁と床と椅子と机と小物しか作れないよ……。
「うーん、他の魔法も覚えないとだめかな。空を飛ぶにしても現状じゃ無理だよ……」
翼を作っても動かし方を知らないから全く動かせない。これでは空は飛べない。エアメイクの欠点を補う魔法でも探さないと……。
「これで万事解決! とはいかないか。……あっ、食事時間を知らせる鐘だ」
先は長いや。今日はご飯を食べたら切り上げて、明日から魔法の勉強を頑張ろう。
ここもレイの独り言だらけです……。
修行も一人でやってますしね。
他に一人くらい入れるべきだったか……。