二十八日目 生贄は不良生徒(2)
第三者side
「さあ、光学科の生徒と水学科の生徒の模擬戦が始まります。光学科の生徒の希望を聞き、オーバーキルも許された状態になっております!さあ、光学科の生徒はどのような戦いをするのでしょうか……!」
司会の声が響き渡る。司会は光学科の生徒であるが、彼は審判として立っているだけで介入はしない。
「ああもう……どうして面倒事を呼び込んでくるんですか……私は事件もクラスの問題も無い平和な状態を望んでいたというのに……」
水学科教師アリエス。普段から面倒事を嫌い、授業以外には生徒に関わろうともしない教師であるが、その彼女も責任者として呼ばれたのだ。彼女の受け持った水学科の生徒のうちの6人が光学科の生徒に喧嘩を売ったり、水学科の他の生徒に虐めを行っていたのだ。この6人はイビルのグループ同様に典型的な問題児で、水学科に数合わせで送られてきたのだ。
彼らはアリエスの指示など聞かないし、アリエスも彼らなど生徒として見てはいない。アリエスは彼らには魔法も教えようとは思わないし、他の生徒には防御魔法を覚えさせてその上で彼らに近づかないように言うほどである。彼ら6人はアリエスにとってただの邪魔者であった。ゆえに、ここで光学科に捧げる生贄として選んだのだ。
「ああもう……さっさとやめればいいのに……。あんな邪魔者が居たら、私のクラスの評判が落ちるわ……」
アリエスは水学科の教師にも関わらず、敵のはずの光学科を応援していた。
「さあ、選手の入場です!まずは水学科のメンバーだ!」
会場の司会が告げると、水学科の生徒6人が入ってくる。彼らは水学科の同級生にも暴力を振るったり、他の学科にも喧嘩を売る典型的な問題児である。まさにここで叩き潰される生贄であった。
「さあ、次は光学科だ!彼らを叩き潰すためだけに結束した光学科の精鋭6人!圧倒的な強さを見せるのか!?」
この試合を見に来た者の半数は光学科の手によって問題児を叩き潰すことを望んでいた。そのため大歓声が上がる。ちなみに、残りの半分は光学科の技術を見に来たのだ。つまり、水学科から出された生贄には誰一人味方が居ない。彼らはここで叩き潰されることが存在意義なのだ。
「さあ、行きましょう」
「いよいよ、叩き潰せるんだな!」
「サンドバッグ!サンドバッグ!」
「せいぜい逃げ惑って許しを請え!落ちこぼれ!」
「ああ!やっと叩き潰せるんだね!」
「メリシア!今日はあんたに感謝するよ!こんな素晴らしい生贄をもらえるなんて!」
ストレスの発散のため、彼らは動き出す。普段は憎むべき敵、嫌悪する相手だが、今日この瞬間は味方同士になる。目的が一致しているので、彼らは同盟を組んだのだ。
「光学科の選手入場!」
その瞬間、会場に上がっていた歓声は更に大きくなる。所々から「あいつらを潰せ!」「光学科頼んだぞ!」などの台詞が飛ぶ。光学科の選手はリオを先頭に一列に並んで入ってきた。彼らの目には水学科の生徒はただの獲物にしか見えていない。
そして、光学科と水学科の生徒が横一列に並んで向き合った。昨日リオと戦った水学科の生徒がリオを見てさっそく噛みつく。
「てめえ!俺たちを誰だと思ってやがる!こんなことをしてただで済むと思うなよ!」
「そうだそうだ!俺たちを怒らせるとどんな恐ろしい目に遭うか分かってるのか!?」
典型的な小物のセリフを吐いてリオを威嚇する水学科二人。右手を前に出して威嚇しているつもりらしい。
「ああ、あなたたちを叩き潰すことで表彰されるんです。素晴らしいですよね?」
リオは彼らの話など初めから聞くつもりはないようだ。ただ、彼ら二人を叩き潰してストレスを解消したいだけだろう。何せ、自分にしつこく絡んできたのだから。腕を組んだまま、静かに獲物を見つめていた。
「お前の算段か!」
こちらは別の水学科である。これもあちこちでいちゃもんをつけて絡んでいる小物である。目の前の光学科に指をさしている。
「ああ、楽しみだ。サンドバッグが目の前に居るんだからな」
水学科の生徒に指をさされた光学科の生徒は、サンドバッグをどのように潰すのかを考えているようだった。若干遠い目をしている。
「ねえ、ゴミをどうやって処分するか決めたの?リオ?」
リオの横に居た光学科がリオに話しかけてきた。目の前の水学科を叩き潰す方法を決めたのかどうかの確認だ。
「ええ。私は決めましたよ。そっちはどうするんですか?」
どうやって目の前の水学科を叩き潰すのか決めたリオ。当然相手に聞きなおす。
「もちろん、二度と逆らえないように「調教」してあげるわ」
「ゴミの調教もなかなか面白そうですね。こちらは、ひたすら攻撃するだけですよ」
物騒な会話を繰り広げる二人。周りの事など目に入っていないようだ。
「おい。そろそろ始まるぞ?」
そんな二人を光学科の一人が呼び戻す。いよいよ、試合が始まるのだ。
「ああ、そうですね」
「忘れてた。気をつけないと」
彼女たちも戦闘準備を完了し、試合を始める前に水学科から一旦離れる。
「さあ、いよいよ試合開始だ!両者、準備は良いか!?」
まずは水学科の方だ。まあ、全員乗ってくるだろう。
「ああ、くそ!ふざけやがって!ぶっ潰してやる!」
「あの女、調子に乗りやがって!」
「ええい、勝てばいいんだよ!」
「叩き潰す!光学科とかいう高慢ちきなエリートは、俺が潰す!」
「エリートだからって調子に乗りやがって!」
「さっさとはじめろ!ぶっ潰す!」
彼らは皆光学科に叩き潰されているのに、その時に光学科の生徒によるオーバーキルがなかったからその本性を知らないのだ。今日ようやく己の愚かさを知ることになった。
「水学科は了承した。さあ、光学科は!?」
「全員、問題ないです!早く戦わせてください!」
リオが光学科を代表して叫んだ。
「では、時間も押しているので始めよう!試合開始だ!」
その言葉の直後に、光学科から無数の光弾が水学科目がけて打ち出された。シャインショット‥‥光学科の初級魔法であるシャインボールを改造して作った連射の出来る魔法である。リオがまずそれを乱射して水学科を混乱させ、その隙に他の五人が接近し、魔法の暴力で全員叩き潰す。そういう計画だったのだ。
「う、うわあああ!」
「散れ!」
「助けてくれ!」
目の前に迫る無数の弾幕を避けるべく、散った水学科。だが、その結果自ら罠に嵌ってしまった。まず犠牲者になったのは、最初に飛び出した水学科だった。
「シャインバインド!」
「うわあああ!体が、体が動かねえ!なんだこれは!」
光学科の生徒の唱えた魔法により、突然現れた鎖と十字架に拘束されてしまう。その生徒は言ってしまったが、代わりに別の生徒が来た。
「さて、汚いゴミでも調教すれば変わるかしら?シャインウィップ」
先ほどリオと話していた少女の手には光で出来た鞭。そう、これでひたすら叩き続けるつもりらしい。
「な、なにを「バシイ!」ぎゃああああ!?」
「ゴミの調教、今からスタートよ!」
突然鞭で叩かれた水学科。彼はこの後、時間が来るまで鞭で叩かれ続けるのだ。そのころ、別の水学科も攻撃を受けていた。
「セイントサンダーボルト!」
リオの手から電撃が放たれ、水学科3人を貫いた。強烈な電撃は、防御魔法の無い人間を動けなくするには十分すぎる威力である。
「ぎゃああ!身体があ!」
「足が!動かねえ!」
「た、助けてくれ!」
動けなくなった不良の所へ、リオが歩いて近づいて行った。
「さあ、ゴミを掃除しなければ……私だけではもてあますかもしれませんが……」
「手伝おうか?俺もこいつらに恨みがあるんだよ」
「ああ、良いですね。お願いします」
リオともう一人の生徒が彼らに制裁を加えることを決めたようだ。これで四人生贄になることが確定した。
「くそ!ふざけんな!高慢ちきなエリートが!アクアボール!」
「お前らみたいなやつらが一番むかつくんだよ!アクアボール!」
最後の二人は他とは違い、光学科から逃げるどころか刃向かってきた。共にアクアボールしか使えないが、彼らを追いかけた光学科3人もいきなり攻撃してくるとは思わなかったようだ。
「な!落ちこぼれが刃向かうのか!?シャインウォール!」
「なんと生意気な!屑のくせに!シャインアロー!」
「お前たちはここで潰されるだけだと言うのに!無駄に逆らいやがって!ブライトサンダー!」
刃向かってくることを想定していなかったとしてもそこは光学科。見事に防ぎきって反撃する。一人の手から光の矢が放たれ、直後に水学科の上からは雷が降り注いだ。
「ぎゃあああああ!!」
「ぐああああ!」
最後の二人も倒され、サンドバッグとして使われることが確定した。その直後に、大歓声が上がった。歓声の中に混じって「俺にもやらせろ!」「あいつを潰させろ!」と言う声も聞こえる。虐められる側の人間も来ていたようだ。この試合が終わったら、彼らが飛び入り参加して更に不良生徒を粛清するのだろう。
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「レイ……君はこれを見ても楽しいと思えるの?」
アルが目の前で繰り広げられる水学科の不良粛清ショーを見ているレイに問いかける。魔法のアイデアは手に入るが、いくら相手が酷い生徒だからって、ここまでする必要は無いじゃないか。そう思っているのだ。実際、水学科の生徒の一人は磔にされて鞭で打たれ、三人はリオと誰かに白い炎で焼かれている。残った二人も三人に雷や氷を落とされていた。これでも死なないのが非殺傷結界の効果である。
「うん。だって、自業自得だからね。あいつらは弱者を虐めて楽しんでいた。だから、自分たちが強者に叩き潰されても文句は言えないと思う」
レイには、彼らがこのような酷い仕打ちを受けるのは当然だと思えていた。いくら自分たちが強くても、周りを虐げて楽しむなんてことは許されない。それを破った彼らだから、他の罪のついでと言えど、こうなることはある意味当然だとレイは考えていた。
「それに、さ。こういう物が無ければ、光学科から犠牲者が出る。まあ、それは光学科の問題だけど、それを避ける意味でも他の学科の不良の粛清は必須なんじゃないかって思える」
「レイ……でも、やっぱり僕には……」
アルには、どうしてもこれは認められなかった。いくら相手が悪でも、このようなやり方で粛清するのはおかしい。そう思っていた。
「アルがそういう人だってのは知ってるしね。……まあ、これ以上見ても仕方ないか。戻ろう」
レイも、この後に行われる観客たちが乱入して彼らを潰す試合には興味は無かったので、戻ることにした。立ち上がり、アルと共にいつの間にか周りの席に集まっていた興奮する観客を無視して立ち去った。
「レイ、君がああやって粛清される側でも同じことが言えるの?」
二人が誰も居ない廊下に出たところで、レイがそういう悪人だった場合に、自分が粛清されることに耐えられるのかとアルは聞いた。
「自分がそういう事をしたのなら当然言えるよ。罪には罰を、虐めには復讐をするのが当然だしね。僕が水学科の生徒みたいなことをしていた結果今日のような粛清を受けるなら、報いが来たって事だと認めて受ける」
レイの答えは、自分がしたならその報いは受けると言う物だった。自分に何もしていない相手に虐めをした場合にはその報いを受けると言い切ったのだ。直後、彼らが出てきた部屋から観客が参加して不良を攻撃する第二ラウンドが始まる合図が聞こえた‥‥。




