十九日目 マジックペインター
今日も薬学の授業をミリアと受けることにしている。ミリアと一緒に座って受ける薬学は何も変わらないいつもの状態のはずだった。だが、それは今日のメリシア先生の発言を聞くまでの話だった‥‥。
「さて、今日は先日落ちこぼれ学科に編入した人達の代わりに、光学科に編入した生徒の紹介をします。イビル、グラス、ダース、ジョー、メイ、ヒルダ、ディス。この七名を光学科に編入させます」
メリシア先生のこの発言を聞いたとき、背筋が凍りつきそうになった。何でそいつらがここに居るの?ディスって人が誰かは知らない。まさか、そいつらが光学科に入るための落ちこぼれ学科に居たなんて‥‥。そして、イビルを何のためらいも無く引き上げたメリシアは何を考えているんだと叫びたかった。
「さて、あなたたちも座りなさい。今から授業を始めましょう」
「先生。光学科が今までどのようなことをしていたのか聞いても良いですか?」
ああ‥‥この声。間違いない‥‥‥‥。あいつだ。イビルって名前でまさかって思ったけど、本当にあいつだったんだ‥‥‥‥。考えるだけで怒りがこみ上げるが、目の前に本人は居ない上、まだ関わられると決まっているわけでもない。‥‥大丈夫だ。どうせ会わない。‥‥大丈夫だ‥‥。
「レイ!?……顔色、凄く悪いよ?」
ミリアがあまりに表情を悪くしている僕に気づいたみたい。‥‥大丈夫だって言わないと。あいつらと同じ場所の出身だなんて知られたくない。あいつらとの過去なんて、子供学校の出来事なんて思い出したくもない。
「……大丈夫。ちょっと考え事をね……」
「……うん。悩み事とかがあったら、言ってもいいんだよ?」
「ありがとう。ミリア」
僕はあいつとは関係ない。絶対に関係ないんだ‥‥。‥‥‥‥さて、授業を聞こう。
「確か、マジックペインターだっけ?」
「うん。魔力を染め上げる魔法の秘薬なんだって」
「へえ……。どんなものなのかな……」
‥‥‥‥そろそろ向こうの授業が始まりそうだ。
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イビルside
さて、教師の話を聞きつつ、ここで一番できる人間に関わってそいつの持ってる物全部取って捨てるかな。これが一番俺が評価されたり勝つために有効な方法だからな。しかしまあ、ここまで簡単に光学科に入れるなんてな。それにしても、レイが居ないな。あいつのような勉強馬鹿は使い捨てるにはうってつけなんだけど‥‥。隣の女にでも聞いてみるか。
「なあ、この学院にレイって奴居ない?俺、そいつの知り合いなんだけど」
「ああ、学科が違います。ここには居ませんよ」
「そっか。分かった」
マジかよ‥‥。あいつここに居ないの‥‥。まあ、あんな勉強馬鹿は俺みたいな優れた人間をより優秀な人材に育てるために居るんだけどね。それ以外にあいつに存在価値なんか無いよ。あんな友達の居ない奴にわざわざ価値をつけてあげるんだから、感謝してほしいくらいだよ。
「さて、では今日の内容を始めます。16ページを開けなさい。そこの本文を今から言いますね」
メリシアの言うとおりにするのが一番だから開けたんだけど‥‥嘘でしょ!とにかく文字、文字、文字!これを覚えさせられるの!?これが光学科の授業!?
「では言います。今日初めて参加した落ちこぼれクラスも書き取りなさい。後でテストをしますからね。‥‥今日紹介するのは、魔法霊薬の中でも極めて重要な立場にある霊薬、ラルゴ霊薬です。これは、学者ラルゴが生涯をかけて作り上げたと言われる霊薬で、魔力をその構成物質であるラルゴ霊薬Sによって着色し、別の構成物質であるラルゴ霊薬Tによって無色透明の魔力を任意の色に変えます。さらに、別の構成物質であるラルゴ霊薬Aによってその色を固定化させ、また別の構成物質であるラルゴ霊薬Rによってその魔力の色を自在に変える力も得ます。そして、またラルゴ霊薬Sが着色することにより、変更した色で固定化されます。薬の原理としては以上です。それでは、次は薬の作り方ですね‥‥」
な‥‥なんて長いんだ‥‥。これを丸暗記するなんて、レイに頼っても出来ないぞ‥‥。見ると、グラスもメイもヒルダも涙目になってるし、ダースは放心して固まっている。くそ、何とか俺だけでも生き残らないと!俺は優秀な子なんだ!ああいう馬鹿とは違う!
「では、薬の作り方です。ラルゴ霊薬の構成物質は5つあります。それらは、根源たる物質のラルゴ霊薬sとラルゴ霊薬t、ラルゴ霊薬a、ラルゴ霊薬rからできています。これらを混ぜ合わせることにより、ラルゴ霊薬が作り上げられます。このラルゴ霊薬は、別名、カメレオン霊薬とも言われております。これは、魔力の色をころころ変えるその様がカメレオンの変色のように見えることから名づけられました。さあ、この部分を後2回言ってあげるので、丸暗記しなさい」
なんだってー!これを丸暗記!?このアホみたいに長い文章を丸暗記!?そんな無茶な!‥‥いや、とにかくやらないと。俺は優秀な子だから、なんでも出来るんだ!俺は別に周りを食いつぶさないと勉強できないわけじゃないからな!周りを食いつぶすのは、邪魔者を蹴落とすためだからな!
「イビル、助けて……」
涙目のヒルダが縋ってきた。ああもう、邪魔だ!お前みたいな馬鹿ブスは勝手に落ちてろ!どうせこっちの役には立たないんだからな!
「勉強の邪魔しないで!」
「うう……」
はあ、邪魔なんだよ!こういう時にはレイが一人で居たのも分かる気がする。こういう馬鹿に絡まれて成績が落ちたら、俺も困るからな!どうせお前らはすぐに落ちるんだよ!俺だけが残るんだよ!
「随分冷たいんですね」
「え?だって、俺も勉強しないと不味いし……」
あんなブスよりも、こっちが大事だ!
「まあ、そうですけどね。ここでは協力や知恵を借りると言った行動は考えない方が身のためですよ」
「え?」
は?何言ってるの?人が頼んでいるのに捨てるの?
「光学科の人間は、あなたと同じですから」
「……は?」
俺と同じ?意味分からない。‥‥ああ、優秀だってことだな!なるほど!
「ああ、そういう意味だね!分かったよ!」
「そういう意味ですよ」
皆優秀だってことだね!さて、誰を食いつぶすか決めないと!
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レイside
最悪だ。僕を探してたってことは、あいつは、また僕を使おうとしてる。‥‥もし術式の時に来られたら、文字通り終わる。クライズのやり方によって僕から根こそぎ取られるのが許されてるから、あいつにまた利用されるだけになる‥‥。‥‥ふざけるな。
「レイ?……大丈夫!?」
「え?……うん。本当に大丈夫だよ。マジックペインター、作りたいな……」
別の事を考えないと。あいつのことを考えてると、怒りが湧き上がってくる。表面上は良い顔をしてても、あいつの中身は屑そのものだから‥‥。
「……うん。作りたいね。行こうか」
ふう。‥‥実験しに行こう。
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「ええと、レイ、本当に大丈夫なの?」
セフィナ先生にも心配された。‥‥大丈夫です。
「問題ないです」
「……分かった。じゃあ、始めるね。でも、その様子じゃ授業の合間に調べることも出来て無さそうだから、簡単な説明からします。ラルゴの霊薬の正式な名前はマジックペインター。これは、文字通りに飲んだ人の魔力を着色する薬で、飲んだ人の好きな色に自分の魔力の色を変えられる薬です」
「……自由に変えられるんですか?」
ミリアが聞いた。まあ、当然だと思う。だって、魔力の色を自由に変えるなんて出来るとは思えない。
「うん。文字通り、自由に変えられる。白、黒、赤、などの基本的な色以外にも、銀や金といった色にも変えられるよ。しかも、薬で解除しない限り永続だし。まあ、無害だから放っておいても問題ないけど」
‥‥そんなものがあるのなら、最初からそれを飲ませればいいのでは‥‥?
「レイ、君の思った通り、確かに生まれた赤ん坊に飲ませてもいい薬だし、英才教育を子供にするなら飲ましている親も多いよ」
「そうなんですか……」
「……まあ、難しい話はここまで。じゃあ、その材料になる素材四つを今から混ぜ合わせてください」
そう言って先生が置いたのは、赤、青、緑、白の四色の‥‥これは‥‥石かな?
「それは、パリスと呼ばれる魔力石の一種よ。赤いのがレッドパリス。炎の魔力素の結晶体。青いのがブルーパリス。これは水の魔力素の結晶体。緑のがグリーンパリスで、風の魔力素の結晶体。最後の白いのが、ホワイトパリス。光の魔力素の結晶体」
「先生、魔力素って何ですか?」
ミリアが質問した。
「魔力素と言うのは。魔力に色を付ける物質の事。たとえば、あなたたちは入学した直後に水晶玉に触れたけど、その時に色がついたでしょ?それを可能にしているのがこの魔力素。」
「つまり、マジックペインターはその魔力素を自由に変えられるようにする薬って事ですか?」
「そうよ。……さて、時間ももったいないし、始めよっか。その4つの石を入れて、回復の霊薬の時のように棒で叩いて潰してね」
「分かりました」
ミリアと僕は、マジックペインターを作るために実験を始めた。基本的には何も変わらず、今度は石を砕いていくだけである。‥‥やってることが全く変わらないのが少し残念だけど‥‥。
「レイ。あんな危ない実験はさせられないからね」
「……これで砕くのが3回目なので、熱したり水に溶かしたりしないのかなって思っただけです」
「まあ、3回やって3回とも砕くだけだとね……仕方ないか」
何ができるのかは気になりますけど、さすがにずっと変わり映えのしない内容だと‥‥。
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「うん。止めて。それじゃあ、それを水に溶かしていきましょうか」
「水に溶かすんですか?」
このまま飲んではいけないんでしょうか?
「そうだよ。下手に水なしで飲もうとすると飲みにくいし、水に溶かせば一気に飲みやすくなるから」
「はい。じゃあ、水に溶かしてみます」
ミリアが水に作ったものを溶かし始めたのを見て、僕も同じようにする。すると、先ほどまで4色の粉末だった物が水に溶けていき、灰色っぽい液体になった。
「さあ、どうする?これを飲んでみる勇気はあるかな?」
「セフィナ先生、これを飲んでも害はないですよね?」
「それは当たり前だよ。でも、魔力の色を自由に変えられるからそれだけ注意かな」
「……」
ミリアは悩んでるみたいだけど、僕には関係ないよ。‥‥飲む!
「……これだけ?……!?」
あ、あれ!?魔力が何かおかしく‥‥!?
「別名はカメレオン霊薬。魔力があらゆる色に変化するから、その名がついたの」
「エアメイク!」
作り出したボールの色を見る。‥‥緑のままだ。まあ、とりあえずこれは置いておく。魔力が真っ赤になるようにイメージしてみてから、もう一度使った。
「エアメイク……!?」
僕の魔力は炎学科の学生のごとく真っ赤なものになっていた。作り出したボール自体も赤い。
「す……凄い……」
ミリアがその変わりようを茫然と見ている。それを飲んだら良いのに。
「そう、この変色こそがラルゴ霊薬の本当の効果。すごいでしょ?」
すごい。突然炎魔法や水魔法を使えるようになった気分だ‥‥。
「じゃあ、これで実験は終了。お疲れ様でした」
セフィナ先生の授業で魔力の色が変わるようになったから、凄く魔法のイメージが作りやすくなりそうだ。もしかしたら、全属性先に使えるかも。
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リオside
「くそ!全然覚えらんねえよ!3行も書けねえ!」
ふふ。所詮あなたたちにはここでの勉強は無理だと言う事です。何せ、丸暗記授業についていくには丸暗記しかありませんから。まあ、今回の中身は私にとっては懐かしい物でしたね。マジックペインターが出てくるとは思いませんでした。
あれを9歳の時に両親に与えられて私は一足先に魔法使いになりました。今4年生の姉が薬学の本を持ってきたのが3年前。その時に、私の両親はマジックペインターを作って私に飲ませようと決意したみたいです。まあ、素材を買うお金の問題があって実際には9歳まで、つまり、去年まで飲めませんでしたが。ただ、そのおかげで入学したばかりなのに上級魔法が使えるような子になったんですよね。
「それにしてもこの落ちこぼれ学科、最低な人の集まりのような気がしますね……」
メリシアは本当に何を考えているのやら。こんなのを集めてきて何をしたいのでしょうか。イビルからは本当に屑のような雰囲気がします。表情は笑っていても、目は笑っていない、いえ、ものすごく歪んだ笑いをしているような気がします。だって、人を利用するだけ利用してすぐに捨てる人間と同じ雰囲気がしていますしね。
「まあ、私には」
関係ない。そう呟こうとしたとき、机の中に何かあることに気づきました。かなり奥の方に仕込まれているみたいですが‥‥。
「……これは、術式?」
私が見つけたのは、何かの術式でした。
「……これで、盗み聞きをしているのでしょうか……」
もしそうなら、これを作ったのは凄く術式づくりの上手な人です。‥‥私が知る限り一人しかいないですね。
「……まあ、放っておいてあげましょうか」
別にメリシアに密告しても何一つ利益はありません。放っておいても良いでしょう。‥‥でも、術式を作った人と話してみるのも面白そうです。調べてみましょうか。
(この術式の連絡先を調べよ。サーチ!)
術を唱えるとサーチの光がその術式を調べました。一気に私の頭に魔力の流れていく先が伝わってきます。
(ここは……まさか、風学科なんでしょうか?)
まあ、あの子以外に居るとは思えませんが、これではっきりしましたね。一度、ゆっくり話してみましょう。




