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十八日目 三人の術式改良

 昨日皆が持ってきてくれた他の学科の魔導書を今日見ることにしているので、今日は訓練室で魔法を使うことはしないだろう。アルがミリアと一緒に来るみたいだけど、僕はこれを調べるから今日はアルの相手はしてあげられそうにない。


「レイ。その本は全部昨日の物?」


「そうだよ、アル。早速調べて使えるようにするんだ」


「そっか。じゃあ、今日は戦えないんだね……」


「うん、ごめん。せっかくこれが手に入ったんだし、調べたいんだ」


 アルには少し悪いが、今日は模擬戦には付き合ってあげられない。僕は今からやらないといけないことがあるから。


「レイ。ここには何か仕掛けでもあるの?」


 ‥‥‥‥?ミリア、いきなりどうしたの?


「ミリア、どうかした?」


「ここに入った時に頭が活性化するような気がしたの」


 ああ、そのことか。害はないし、大丈夫だよ。むしろ、これってすごく有益だしね。


「ミリア、大丈夫だよ。むしろ、それがあるからここに君を連れてきたんだ」


 アルも言ってるけど、本当に大丈夫だ。これは危険な物じゃない‥‥‥‥と思う。


「う、うん……。ただ、突然賢くなったような気がしたから……」


「本当に賢くなれるんだよ、きっと。レイ、僕は離れてようか?」


「うん、そうだね。作った攻撃魔法を試すならあっちでお願い」


「分かった。じゃあ、僕はあっちで練習してるよ」


 そう言ってアルは向こう側に移動した。――ミリアはどこでやるんだろ?


「ミリアは、どこでやるの?僕はここでずっと魔導書の術式を見るけど」


「あ、私もここでしていい?」


「うん、じゃあ、回復魔法の本が必要になるんじゃない?これ使う?」


 もうその本の中身は覚えたしね。勉強に使えるかもしれないからミリアに貸すよ。


「あ、ありがとう!」


「良いよ。気にしないで」


 さて、この魔導書の山の術式を纏めていこう。役に立つものはマークして、全部使えるようにしていこう。


ーーーー


 第三者side


 三人は自らの求める物を得るために動き出した。アルは術式を構成しては使ってその威力を確かめることを繰り返している。彼は、レイに勝つために威力の高い攻撃魔法を作り出すつもりなのだ。


「行け!ダークショット!」


 今アルが使ったのは一見ただのダークショットと同じであるが、そこに込められた魔力と術式は非常に良く練られた物であった。威力を高めるためにコストを3も費やしたが、その分破壊力に特化していったため、単発での威力だけならこの前の試合で使ったブラックホールも凌ぐほどの威力になっていた。


 レイのエアメイクで作られたバリアも、これなら間違いなく破壊できるだろう。そして、貫通性も高められているため、バリアを貫きつつレイに当てることも出来るはずである。そう、これで勝つことも出来るはずである。


「レイ……!絶対に負け続ける気はない!次は必ず勝つよ!」


 アルは、レイを倒すために自らの術式を改造していった。火力に特化した魔法で一気に相手を倒すタイプの戦闘スタイル、それが、アルの目指すものであった。


ーーーー


「つまり、これを基に術式を組んでいけば……」


 ミリアは、回復魔法を完成させるために術式を組み立てていた。闇学科には元々回復魔法が無いのだが、それを気にすることなく、自ら術式を組み立てていた。闇属性の回復魔法なんてありえない。誰もがそう言うだろう。実際、闇はどちらかと言うと破壊のイメージが強い。


 そして、回復の力と言えば水や光のイメージが非常に強い。だが、だからと言って完全に否定するのはどうだろうか。無いなら作り出せばいい。レイがトルネードを改造してサイクロンを持ちこんできたように。集音の術式を改造して盗聴術式を作ったように。自分にもレイのようなことが出来ると信じて……。


「……もう少し、もう少しで完成する!後一歩で……」


 ミリアの目標は、後一歩で実現するところであった。闇学科の少女は、闇の回復魔法と言うある意味前代未聞の術式を組み上げる。


ーーーー


「……これとこれは術式が同じだね。こっちとこっちは良く似てるけど違う」


 レイは、貰った魔導書のコピーにチェックを入れ、類似箇所を調べていた。先ほどからずっと調べていると、なんとなく同じ魔導書があることに気づいてきたのだ。実際に、彼が貰った全学科の魔導書には重複しているようなものがある。


 たとえば、学科固有の魔法には「その学科で使う物が壊れたときに直す魔法」があるのだが、これが存在するのは雷学科、土学科、光学科の3学科であり、直す対象はそれぞれ「魔法機械」「工具」「薬の入れ物」になっている。だが、これらの術式は実はほとんど同じ物なのだ。細部に細かい違いこそあれど、根本的な部分は全く同じであった。そこにレイは気づいたのだ。


「そうか。ほとんど術式が同じだけど少し違うってことは、その違う部分を万能な物に変えれば……」


 レイが今調べているのは修理の魔導書であった。・・・実戦では使えないが、万能な性質を持たせれば何かに役立つかもしれない。そう思って、レイは修理の魔導書3冊を基に術式を組み立て始めた。


 3人が自分の作業に没頭してから1時間。ついに、それぞれの成果が出はじめた。最初に行動したのはミリアだった。ミリアは突然立ち上がり、レイから離れた所に移動し、詠唱を始める。その今まで見たことが無い不思議な魔力にレイもアルも思わず見入られてしまった。ミリアが使っているのは闇の魔力である。にもかかわらず、攻撃魔法を組み立てていないのだ。そのことに最初に気づいたのはアルだった。闇魔法を使う身なら感じる闇の魔力特有の攻撃性をミリアの魔力から一切感じなかったのだ。


 ミリアは自分の魔力を術式を基に動かし、魔法陣を周囲の地面に展開する。おそらく、小範囲系の回復魔法を基にしたのだろうそれは、回復魔法の魔法陣らしからぬ禍々しい黒い輝きを放っている。だが、ミリアはそのことに構わず、その魔法陣の効果を頭で作り上げ、発動させる。闇は癒しには使えない。誰が言いだしたかなど知らないが、そのような固定観念は破壊してみせる。そう決意したようにミリアは、その術式の名を叫ぶ。


「リカバー!」


 その瞬間、ミリアの乗っていた魔法陣から黒い闇が放たれ、ミリアを包み込む。余りの出来事にレイもアルも言葉を失っているが、確かに少女の術式は完成したのだ。その黒い闇は、その中に立つものに癒しを与える、闇のイメージとも回復魔法のイメージとも全く似つかない物になってしまったが、 確かにミリアの身体は癒しの力に包まれた。


「ミリア……!?」


「凄い……闇の回復魔法?そんなの初めて聞くよ……」


 レイもアルも、ミリアの放った回復魔法の凄さにしばらく驚いていた。彼女の魔法が終わるまで、その不思議な光景に釘づけになっていた。


ーーーー


 ミリアの回復魔法が終わった後、レイとアルは術式の構成を続けていた。次に完成したのは、アルだった。面御室に立ち上がり、練習用の人形を置いて、その人形をターゲットにして魔法を使う。アルの右手に黒い球体が形成され、人形目がけて飛んでいく。人形に当たった瞬間、人形は破裂して四散した。非殺傷結界の中なのにである。


「……あれ、強すぎた……?」


 そう、アルのシャドーショットは明らかに威力が高すぎた。確かに倒せるだろうが、そのまま撃ったら確実に命すら奪いかねない威力であったのは人形のなれの果てである物体を見れば一目瞭然であった。仮にこんなものをレイに撃ったら模擬戦でもかなり危ないだろうし、勝つを通り越して軽くて骨折、最悪殺すになってしまうだろう。明らかに強くしすぎたのだ。


「アル……。あまり聞きたくないけど、その魔法を撃たれるのは僕だったりしないよね……?」


 レイの不安も当然である。仮にこんな魔法を撃たれたら、エアメイクなど意味をなさないだろうし、避けなければ自分の命も危なくなるだろう。アルがこんなものを作ったのは間違いなく自分を倒すためなのは分かるが、まさかアルは自分を殺す気なのかと考えていた。


「え!?ち、違うよ!こんな物さすがに人に使えないよ……」


 明らかにレイに怯えられてしまったのは分かるため、必死に否定するアル。ミリアは、遠くで固まっていた。アルの魔法の威力は明らかに行き過ぎであった。


「……壊れた物が出たということはこれの出番でもあるわけだけど……。これからアルと戦うのが怖い……」


 レイの頭の中には、先ほどの明らかに殺傷力が高すぎる魔法をアルが平然と撃ってくる光景しかなかった。他人をそんなに信用していないレイでは、こう考えてしまっても無理はないだろう。明らかに指先が震えていた。


「え!?レイ!だ、大丈夫だよ!こんなもの撃たない」


 レイの中には恐怖が浮かんでいた。自分が呑気に魔法を作るための準備をしているすぐ横で、自分を殺す刃物を研いでいる(魔法の威力を非殺傷結界の中なのに物質破壊ができるくらいにしてしまった)人間が居たのだから。


「保証はないよね……?」


 故に、怯えたレイはアルから露骨に距離をとっていた。自分の今の魔法ではどうやっても先ほどの魔法を防げないレイにはどうしようもないのだ。‥‥明らかに怯えすぎだが。


「……撃たないってば」


 さすがに、ここまで怯えられるとは思わなかったアル。さすがに少し落ち込んでいた。明らかにやりすぎた威力の魔法を作ったアルが原因なのだが。


「……とりあえず、この人形に魔法を使おう……」


 まだ指先を震えさせながらも魔法を唱えるレイ。先ほどの魔法で壊れた、もとい破壊された人形の破片に向かって詠唱を始める。その手に淡い緑の光が収束し、人形の破片に注がれる。


「リペア」


 レイが見ていた術式は全て特定物にしか働かないものであった。では、その特定物の部分をほとんどの物に変えればどうなるのか。人形はレイの魔法によって包み込まれた直後に集まりはじめ、勝手にくっつき始めたのだ。その光景にはアルもミリアも開いた口がふさがらない。壊れた物体を直す魔法はあるが、それらは特定の物にしか作用しないはずであった。それを、無関係の人形を修理することもできるように術式を改造したのだ。レイに言わせればただそれだけのことなのだが、二人の目にはそうは映っていなかった。やがて、四散した人形はまた壊れる前の姿に戻っていた。


「……今日は、もう切り上げない?そろそろ、二人は授業があるんじゃない?」


 レイの言葉通り、アルもミリアもそろそろ授業が始まるため、移動しなければならない。二人は慌てて荷物を纏めはじめる。


「そうだね、そろそろ行かないと!またね、レイ!」


「じゃあ、また明日ね!」


「うん。またね、アル、ミリア」


 アルとミリアが出て行ったあと、レイは一人座り込んで考え事を始めた。


「まさか……あの二人の方が成果が出てるの……?僕の魔法はただの玩具でしかないけど、二人の魔法は……」


 魔法の用途は戦闘だけではなく、また、レイの魔法も決して劣るものではなかったのだが、レイは自分の魔法が劣っているのではないかと考えてしまっている。圧倒的な破壊力の魔法や回復魔法に比べると、明らかに自分の作った魔法が地味なうえ、戦闘では役に立たないと思える物だったからである。


「……不味い。不味いよ……また、追いつかれて抜き去られる……」


 レイは魔導書を探し、その術式を読み解き始めた。自身の不安をなんとか取り去るために‥‥。


ーーーー


 ここは風学科に入ってはいるものの、何もしていない落ちこぼれの名簿のある部屋である。メリシアはその中に入り、名簿を探していた。落ちこぼれに落とす生徒の代わりに、光学科に入れてやる生徒を探していたのだ。


「ええと……ああ、これですね」


 メリシアはその名簿を取り、中の名前を調べる。所詮子供学校を出たときの実力などあまり大差は無いのだ。子供学校ではただ遊ばせるだけなんだから。そう思って、メリシアが名簿の中の名前を見ていく。すると、あることに気づいた。


「……やけに、デルテミア南部養育学校の子供が多いですね。12人中6人とは……。そういえば、風学科の生徒もそこの出身でしたね」


 デルテミア南部養育学校。子供学校の中でも特に余り性格の良くない子の巣窟になりやすいと評判の学校であった。そこの子供たちは遊んでいるだけで、一見何も悪いことは無さそうなのに、何故か子供の性格は歪む、悪いと評判であった。一見平和だが、子供たちは何らかのグループを作り、それ以外を排斥するとか、使える時だけ互いに仲良くし、終われば即絶交するとか、そんな変な噂が絶えない場所であった。安い料金で入れるという長所を活かしているためか、毎年入れたがる親が居るのだが‥‥。


「まあ、彼らを引き抜いてみましょう。駄目ならば、捨てればいいのですからね……」


 デルテミア南部養育学校の落ちこぼれ生徒の本性をメリシアはまだ知らなかった‥‥。

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