九日目 これは薬学?丸暗記?
メリシアさんの長い長い文章を丸暗記してしまうような猛者は居るでしょうか…?
自分には無理です。
昨日の模擬戦でトルネード、サイクロンを使って圧勝した僕は、注目の的になっているみたいだった。食堂に行くときにやたらと視線を感じたり、僕が座っているところのすぐ近くに何人かよって来たりした。…話しかけてくるわけでもなかったから特に相手にはしなかったけど。食事の後は、風学科の寮の自室に居た。
「さて…今日は薬学だっけ?」
そう、事前に仕掛けた盗聴術式、あれがついに役に立つのだ。光学科の教室に仕掛けたまま、約二日放置していたが、あれはまだ生きている。というか、今から動かすんだ。それを起動させると、僕の耳に別の場所の声が聞こえてきた。
「さあ、私の講義を行います。私メリシアが担当するのは薬学です。薬の調合でございます」
そう、この人の授業を聞くために、仕掛けたんだ。僕もノートと教科書を机に置き、授業を受ける状態に意識を整える。
「では、初めに、教科書の6ページを開いてください」
その声に合わせて、6ページを開く。…最初から公式なのかな?聞いたことはノートにとっていこう。
「その公式はフェナテリス定理と言って、フェナテリスという学者が、新暦532年の12月3日午後2時53分に世界に提出した定理です。その中身は、フェナテリス物質Aという素材と、フェナテリス物質Bという素材の詳細な情報、そして、フェナテリス物質Aの根源たる物質であり構成要素でもあるフェナテリスAα(Aアルファ)、フェナテリス物質Aβ(Aベータ)、フェナテリス物質AΣ(Aシグマ)の構成にも言及した定理であり、同時に、フェナテリス物質Bを構成するフェナテリス物質Bα、フェナテリス物質Bβ、フェナテリス物質BΣの構成にも言及した定理である。さあ、この内容を覚えるため、今からもう一度言うこの内容を全てノートに書き写しなさい」
何言ってるのこの人!?盗聴術式の中から「うえっ!?」とか「マジ!?」とかそういった叫びも聞こえてくるんだけど!そもそも、その内容薬の調合と全く関係ないよね!?…どうでもいい長すぎる定義自体は置いといて、公式は…。
公式
A=Aα+Aβ+AΣ、B=Bα+Bβ+BΣ
Aは魔力ダケというキノコの事。Bは知力草という草の事。それらを構成する根源物質の存在についてフェナテリスが定義したもの。根源物質とは、魔力ダケが闇の魔力、水、炭素であり、知力草は土の魔力、水、炭素である。
ちょっと!教科書の公式のすぐ下に普通に答え書いてあるじゃん!そもそも覚える必要あるのそれ!?そんな無駄に長い物を覚えて何の役に立つの!?って、もう5分経ってる!
「覚えましたね?では、次の内容に行きます。8ページを開けなさい」
はっ…!ノートを取らないと…。
「フェナテリスの定義したこの二つの物質、フェナテリス物質Aとフェナテリス物質Bを調合することにより、フェナテリス物質Cを生み出すことができます。フェナテリス物質Cは現代でもまれにみる力を持った物質で、これを口腔より体内へ摂取することにより、体内で消化吸収され、体内の魔力をその構成物質フェナテリス物質CABにより再生、発生させる力があります。その結果、このフェナテリス物質CABは神の素材であるとされ、フェナテリスは新暦534年3月28日午後1時58分に神を分析した者としての栄誉と名誉、フェナテリス賞を受賞することに至りました。その功績を後世に残すための偉大なる博物館が、この世界のどこかに残っているとのうわさです。さあ、もう一度言ってあげますから、この内容をノートにとって完璧に覚えましょうね」
…長い。しかも、フェナテリスの栄誉とか絶対関係ないし。無関係の物を詰め込むのがこの人の薬学なのかな?
公式
魔力ダケ+知力草=魔力回復薬
フェナテリス物質CABとは、魔力の事である。
短っ!必要なのこれだけじゃん!他全部無駄じゃない!?さっきの話とか途中から完璧に無駄な内容だよね!?
「では、今の二つの内容を覚えることを今日の課題にしましょう。20分あげますから、完全に覚えなさい。その後、テストをしますからね」
…メリシアは悪魔だね。こんな要らない内容を丸暗記させるなんて…。えっと、今日学んだことを纏めると…。
魔力ダケ+知力草=魔力回復薬。要するに魔力回復薬の作り方。…あれ、これだけ?嘘…。たったそれだけの内容を、あんなに意味不明な内容に着色して丸暗記させるの?…ありえない。メリシア先生はただの馬鹿だ。なんか盗聴術式の向こうから阿鼻驚嘆の叫びが聞こえるし。「こんなの覚えられるか~!」とか「こんなの意味あるのか!?」なんて声がたくさん聞こえてくる。…うん。それを覚えても全く意味が無いよ。覚える必要があるのは魔力回復薬の作り方だけだもん。…ということは、この後セフィナ先生が魔力回復薬を実際に作るのかな?…あ、纏めてたら丁度20分過ぎちゃった…。
「さあ、覚えましたね?今の内容をこのレポート用紙に書きあげなさい。カンニングは許しませんよ?さあ、ノート、教科書を直しなさい。制限時間は20分です。今すぐ始めなさい!」
ああ…盗聴術式の向こうから悲鳴が…。こんな超長文を二つも丸暗記なんか普通の人間に出来るわけが無い。どう考えても要らない内容まで入ってるし、この人本当に理解させる気あるの?フェナテリス物質なんたらって同じような言葉がやたらと続くし、無関係の事柄まで入ってる。しかも時間は20分って…。あんな長い文章を10分で書き上げて、もう片方も10分で完成させるの?…そんな無茶な。
「うわあ…これは無理だ…」
うん。こんな授業を受けても通れる気がしません。絶対に落ちます。
「はい、そこまで!全部回収します。持ってきなさい。提出が済み次第、今日の講義は終了でございます」
こんな無茶な内容を丸暗記させるなんて、このおばさん何を考えてるんだろ?…セフィナ先生の所に行くか。
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「ん?レイ、どうだった?」
「…あれは、授業と言って良いんですか?」
「うん、丸暗記と言う立派な授業だよ。…多分」
「一応、必要なところだけ書きました」
「なるほど、魔力回復薬か。大方、フェナテリス物質なんたらかんたらって長々と話したでしょ?」
「…はい。あれは、生徒をどうしたいんでしょうか?」
「さあ…。メリシアじゃないから分からないよ…」
「…眠くなりそうです」
「5回目になると、寝る人も増えるよ?」
「そうなんですか」
「さて、意味不明な超長文だっただろうけど、その部分のポイントは至って単純。魔力回復薬を作るための方法って事。だから、これらで実際に魔力回復薬を作ります」
そういってセフィナ先生が出したのは紫色のキノコと赤い草。…これが魔力ダケと知力草?
「君の認識通り、この二つがフェナテリスの定義した物質。フェナテリスはこれらを調合し、人類で初めて魔力回復薬を作ったの」
「つまり、魔力が神の力だと言われていたんですか?」
「そうだね。歴史になるけど、その時のフェナテリスの活躍が魔力を見つけるきっかけになった。それ以前にも魔力はあったけど、神の力とかそういう認識。水晶も無かったし、限られた人間だけが振るえた力だったの」
「じゃあ、フェナテリスが神を分析した者として称えられたのは、魔力は神の力と信じていた風潮だったからって事ですか?」
「うん、そういう事。フェナテリスは魔力を神の力として発表したけど、その死後にフェナテリスの言っていた力は誰にでもあるって分かってしまって、フェナテリスの栄誉は神の力を~の部分が変更されたの。それでも、人類で初めて魔力回復薬を作っただけあり、その権威は揺るがなかった」
「凄い人だったんですね」
「まあ、あの授業だと恨みの対象だけどね。さて、調合の実験を始めよっか」
「はい、どうすればいいでしょうか?」
「まず、キノコと草をこういった器に入れ、潰すの。最初は潰すと水が出るけど、その内混ざっていって最終的には全く別の物に変わる」
そう言ってキノコと草を先生が入れたのは、底の深いコップのような物と、棒のような物だった。…これを使うのかな?
「じゃあ、レイ。この棒を持って、中の物を潰して」
「え、あ、はい」
とりあえず、一度やってみないと。棒を持ち上げて、コップの中の物を刺すようにして潰す。…一度じゃ駄目みたい。しばらく、潰してみるしかないか。
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「あ、うん。丁度いい感じになってる。止めて」
「はい」
中の物を見たときの衝撃は多分ずっと忘れられない。紫色のキノコと、赤色の草。これらが素材だったためか、赤紫の液体に変わっていたのだ。…棒を上げて液体のついた先端部に顔を近づけると、なんだか甘い匂いがする。
「それが魔力回復薬。棒の先端に着いたものを一度舐めてみたら?」
「あ、では…」
甘い。キノコと草を入れたのに、果物の汁を飲むような味がする。それに、舐めたものが喉を通ると、体に温かい物が湧きあがる感覚がする。…すごく美味しい。
「どう?魔力が内側から湧き上がってくるでしょ?」
「これが、魔力回復薬の味なんですね」
「うん。こっちのコップの方は、使えるように小分けにして後であげるから」
「あ、ありがとうございます」
「どう?実際に作った方が、分かりやすいでしょ?」
「はい。すごく理解しやすいです」
「あの丸暗記授業でやったところの中身を、次からも実際にこうやってやるからね」
「分かりました」
…実際にやると薬学ってすごく楽しい。…あれは、ちょっと薬学とは違うような気が…。丸暗記ってどうなんだろう…。本当に…。
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メリシアside
「…何なんですかこれは!私の崇高な講義が覚えられないというのですか!」
答案をさっそく採点しましたが…全く、1行書くこともやっとですか!情けない…。私の最盛期には、本一冊くらい10日で丸暗記したというのに…。どうしてこんなに記憶力が無いんでしょうか?
「ああ…全く。ふがいないことこの上ない…」
白紙答案が12名。一行から五行が30名。しかも間違っている。あなたたちにはやる気があるんですか…。全く、最近の子は能無しばかりですね!
「そして、6行から7行くらい書いてるのが…3名。まあ、これは間違っていないので今回は良しとしましょう…」
全く、先が思いやられます!こんなので本当に私の薬学の単位をあげられるんでしょうか?全員不合格なんてことにはならないでしょうが、光魔法も同じような展開なんですよ?…私の方針についていけない子は要りません。




