日記
そらの住んでいる家は、小さな団地。
「お母さん、今日ねまた中島先生と映画の約束しちゃった!!」
「またぁ?中島先生だって恋人くらいいるでしょうが!」
そらの家は母親と弟が一人。父親はそらが3歳のとき病気で亡くなった。
「姉ちゃん、わざと先生と、その恋人がデートできないようにしてんじゃないの?」
部活から帰ってきた、弟がそらと母親の会話に横から入ってきた。
「いきなり、ただいまも言わないで、なんなの?あたしからじゃなくて、先生から
誘ってきたんです!」
「はいはい、そういゆうことにしておきますよ。」
何の変わりのないちょっとした兄弟ゲンカ。
そらの家族はそらのことを障害者ということをあまり思っていなかった。
むしろ、母親の方は自慢の娘、弟の方はたよりになるお姉ちゃん、
と思っていた。
「そういえば、さっきあの田村くんから電話きてたよ。そらちゃんと少し話がしたくて
って、わざわざ電話してきて。メールだってあるのにね。」
母親がそらにからかうように言ってきた。
「田村くんなんて懐かしいね!今何してるんだろう?」
田村くんとは、そらが中学のときの同級生。
彼も足が不自由で車椅子を使っている。中学で車椅子バスケの部活があって、
そらはそのマネージャーで、彼はバスケ部の部員だった。そらと、
彼は特別仲が良かった。
「田村くんに電話しないの?」
「今日はなんか眠いからいいや。また今度。」
そういうと、そらは不自由な足を引きずりながら、自分の部屋に入った。
そらの毎日の日課は、寝る前に必ず日記をつけること。
手が少し不自由なためか、日記に書く字はきれいとはいえない。
そらはそんなことは気にせず、日記を欠かさずつけていた。
『今日の一日。
学校で先生と映画の約束をした。何の映画みようかな?
やっぱり恋愛系がいいかな?先生も賛成だと思う!
あたしが学校行っている間、田村くんから電話があったらしい。
田村くんなんてほんと久々!元気にしてるかな?
今日もまたあの人はいました。
明日も会えるかな?』
そらの日記には、必ずあの男の人がいた。