↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR

クレーンゲーム

作者: 師走とんぼ
掲載日:2026/10/10

 





 クレーンゲームの楽しさなんて理解したことはなかったけど、なんか夢中になってしまっていたな。


「これメルカリで2000円くらいで売ってるんじゃない?」


 男というのは、愛する女に対して身も蓋もない、それでいて、ある意味では粋がってしまっているというか、そのようなことを言ってしまうものだ。小学生男子が女子をいじめてしまうアレは、大人になっても男の心のなかにずっとある。


 きみはそんなこと全く気にしない。たまに頬をぷくっと膨らませたり、甘えた声で抗議するだけだ。自分はそうやってきみを可愛がっていると勘違いしていたが、今思えば、単に僕の幼さをきみが包み込んでいてくれただけだったのだ。甘えているのは、自分の方だったのだ。まあきみは、そんなことも、特に深くは考えていないだろう。


 きみの眼差しは真剣そのものだった。ネットか何かで見たような、真偽も怪しい裏技を駆使して、きみはどうにかこうにかガラス越しの手を動かそうとする。

しかし無情にも、その手はいとも簡単に景品を手放し、それどころかさらに掴みづらいところに景品を転がしてしまう。もう千円は使った頃、振り出しに戻ってしまった現状を前に、きみは降参した。


 きみのなんとも寂しそうな顔。こんなのにいちいち悔しがったりするなんて馬鹿みたいだ。


 僕はポッケから財布を取り出す。財布の中には紙切れしかない。仕方がないので、わざわざ千円札を両替した。あーあ、こんなバカなことのために千円崩しちゃったよなんて思いながら。


 しかしきみがとろうとしていたやつは流石に難しそうだ。それよりもっと取りやすいのをやった方がいい。まったく、要領が悪い。


 男というのは、口だけは達者なものである。人に散々上から目線で物を申したわりに、本人の実力はからっきし、なんてことはよくある。もう500円も使ったのに、景品は取り出し口にさしかかるどころか、やる前より遠ざかっている気がする。


「こんのに500円も使ってバカみたいだし、よく考えればそんなに欲しくもないな」


 無様な降参宣言である。結局のところ、きみの熱望を冷笑するわりに、まあ俺にやらせてみなと、きみの願いを叶えてあげられる実力はないというわけだ。なんとも情けない。

 無力感に苛まれながら、後ろめたい気持ちできみの方をみた。口をきゅっと結んで、口角が微妙にあがっていた。優しい目をしていた。


 そそくさとゲームセンターをあとにする僕の腕に絡みついて、「とれなかったね」とからかってくる。そのいたずらっぽい表情には、先ほどのような寂しさは少しも感じられなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。