クレーンゲーム
クレーンゲームの楽しさなんて理解したことはなかったけど、なんか夢中になってしまっていたな。
「これメルカリで2000円くらいで売ってるんじゃない?」
男というのは、愛する女に対して身も蓋もない、それでいて、ある意味では粋がってしまっているというか、そのようなことを言ってしまうものだ。小学生男子が女子をいじめてしまうアレは、大人になっても男の心のなかにずっとある。
きみはそんなこと全く気にしない。たまに頬をぷくっと膨らませたり、甘えた声で抗議するだけだ。自分はそうやってきみを可愛がっていると勘違いしていたが、今思えば、単に僕の幼さをきみが包み込んでいてくれただけだったのだ。甘えているのは、自分の方だったのだ。まあきみは、そんなことも、特に深くは考えていないだろう。
きみの眼差しは真剣そのものだった。ネットか何かで見たような、真偽も怪しい裏技を駆使して、きみはどうにかこうにかガラス越しの手を動かそうとする。
しかし無情にも、その手はいとも簡単に景品を手放し、それどころかさらに掴みづらいところに景品を転がしてしまう。もう千円は使った頃、振り出しに戻ってしまった現状を前に、きみは降参した。
きみのなんとも寂しそうな顔。こんなのにいちいち悔しがったりするなんて馬鹿みたいだ。
僕はポッケから財布を取り出す。財布の中には紙切れしかない。仕方がないので、わざわざ千円札を両替した。あーあ、こんなバカなことのために千円崩しちゃったよなんて思いながら。
しかしきみがとろうとしていたやつは流石に難しそうだ。それよりもっと取りやすいのをやった方がいい。まったく、要領が悪い。
男というのは、口だけは達者なものである。人に散々上から目線で物を申したわりに、本人の実力はからっきし、なんてことはよくある。もう500円も使ったのに、景品は取り出し口にさしかかるどころか、やる前より遠ざかっている気がする。
「こんのに500円も使ってバカみたいだし、よく考えればそんなに欲しくもないな」
無様な降参宣言である。結局のところ、きみの熱望を冷笑するわりに、まあ俺にやらせてみなと、きみの願いを叶えてあげられる実力はないというわけだ。なんとも情けない。
無力感に苛まれながら、後ろめたい気持ちできみの方をみた。口をきゅっと結んで、口角が微妙にあがっていた。優しい目をしていた。
そそくさとゲームセンターをあとにする僕の腕に絡みついて、「とれなかったね」とからかってくる。そのいたずらっぽい表情には、先ほどのような寂しさは少しも感じられなかった。




