追放された雑用係、実は魔王より強かった。「まさか、わらわより自分が強いと思っておらぬじゃろうな?」
「俺、雑用係なんで、それは雑用じゃないから出来ません」
そんな事ばかり言っていたら……。
「じゃ、テメーには何が出来るんだよっ! この役立たずがっ!!」
勇者パーティーを追放された。
「だから、雑用なら出来るっつてんだろう!!」
と言ったところでもう勇者達は居なかった。
「雑用ならなんでも出来ます!」
「おお、頼むぞ!」
「助かるわ!」
最初はあんなに歓迎してくれたのに……。
「食事を作って」「雑用じゃないんで、料理人に頼んで下さい」
「掃除と洗濯して」「メイドに頼んで下さい。雑用だと思いましたか?」
「薬を調合しといて」「調剤師に頼んで下さい。これが雑用のわけがないでしょう」
「壊れた道具直しておいて」「雑用で済む仕事だと思ってるんですか? 修理人に頼んで下さい」
「魔物の死体の処理して」「どこが雑用なんだ! 葬儀屋を呼んで下さい」
「荷物持って」「荷物持ちに頼んで下さい」「それは雑用って言うだろう!?」
「テントを張るのは……」
「これは雑用っぽいぞ……」
勇者パーティーの注目が俺に集まった。
俺が口を開く。
ゴクリと唾を飲み込んだ勇者たちが、息を殺して見守る。
「……はい、かしこまりました」
「ほっ」
俺の初仕事に勇者パーティは胸を撫で下ろす。
「あ、食事を作るから、水を汲んできて貰える……? 」
「火を起こすのもお願い……?」
「はい、かしこまりました」
「ふう、食事だけでもこんなに雑用があるなんて……大変です」
「「……」」
「武器を手入れしてくれないか?」
「……いいですけど、それ雑用って言っちゃうんですか? 大事な武器なのに」
「イラっ」
勇者がキレて、俺は勇者パーティーを追放された。
「なんだよ! 本当に追放する事ないじゃん……雑用……頑張ってたのに……ぐすん」
この世界での俺の仕事だから極めたいだけなのに。
俺は泣きながら歩いていた。
「見ていたぞ。面白い奴じゃな。可哀想だから、わらわの城で雑用をしてみないか?」
女の子に声を掛けられた。
「……雑用があるんですか!?」
俺は見知らぬ女の子のところで雑用をすることになった。
◆◇◆
そして、ついた先は魔王城だった。
「これは雑用では無いのか!?」
「雑用っていうのは、仕事として名前がない細々した事で、誰かがやらないと困るが担当者が決まってないような雑務のことです。
魔王城ではすべての仕事が使用人たちによってシステム化されて、俺の入り込む余地はありません」
俺は、魔王様の部屋のソファでくつろぎながら答えた。
「ぐぬぬ、それでは雑用係のおぬしを雇った意味が無いではないか!? 何かないのか? 雑用になる事は!」
「それを教えられるのはコンサルタントの仕事なので、俺が奪ってしまう訳にはいきません」
「ぐぬぬ、屁理屈ばかりいいおって! 何もせぬ!」
魔王様が怒り出す。
「魔王様の連れてきた雑用係、魔王様に逆らってばかりで最強なのでは?」
完璧にシステム化された使用人達が騒ぎ出す。
「まあ、魔王様、遊びならなんでも付き合いますから、ボードゲームでもやりましょう」
「うむ、仕方ないのお」
魔王様はホクホク顔でテーブルに座る。
今までは誰も遊んでくれなかったらしい。
こんな小さな女の子なのに。
「見た目で判断するでない、わらわは百歳は超えておる」
完璧にシステム化された魔王城に、魔王様の友達はいなかった。
魔王は百歳でも、小さな女の子に見えるから可哀想で、毎日遊んでやる。
「おぬし、雑用もせずに毎日遊んでばかりで、雑用係はやめてニートになったのか?」
なんだって!?
「……もう遊んでやらない……」
魔王はショックを受ける。
「あ、遊ぶのじゃ! わらわが悪かったのじゃ!!」
「……やはり雑用係が最強なのでは?」
「雑用係ー! わらわをほったらかしてどこに行ったのじゃ」
「買い物に行きましたよ」
「なんじゃと!? それはメイドの仕事であろう!?」
「魔王様の友達として、お買い物に行かれたようです」
「ぐぬぬ、また屁理屈を言いおって……わらわが寂しがっておるのに、雑用係はわらわが大事ではないのか……!」
「ま、魔王様ーー! ついに! 百年ぶりに、勇者が魔王城に攻めてきました!!」
「あれ? 魔王様は? せっかく新作のボードゲームを買ってきたのに、俺と遊びたくないのか?」
しかし、使用人達が深刻な顔をしている。
「勇者が攻めて来たのです……」
「ん? そんなのいつもの事じゃないのか?」
何人もの勇者たちが、魔王城の近くまで行って、あと少しで倒せていない事は有名な話しだった。
「魔王城の前に最強の暗黒騎士がいて、彼が魔王様のところまで勇者が来るのを百年食い止めていたのです。現在の魔王様を心配した先代の魔王の采配で、魔王様が勇者と戦うのは今日がはじめてなんです」
「え?」
それは……。
「でも、強いんだろう? 魔王なんだから!」
「ええ、それは勿論です……」
不安にさせる言い方だった。
魔王様……俺の仕事する姿を一度も見て貰ってない……。
「仕事……そうだ!」
「メイドさん、俺に雑用を頼む気はないか?」
「え? いつも頼む気ですが、あなたが働いてくれないので」
「雑用じゃないからな……」
……今はその話はしなくていいだろう。
「俺は魔王様ともっと遊びたいんだ!」
キンッ!
勇者の剣をわらわの爪で弾く。
鋭い爪とツノ、自由に動く尻尾の戦闘形態になるのは実に五十年ぶりじゃ。
しかし、勇者が魔王城に来るなど思ってもみなかったから、この姿の身体は動かしにくい。
最初の数撃は互いに様子見だから防げたが、この姿で激しくなる勇者の攻撃は防げぬ。
元の幼女の姿の方が慣れていて戦いやすかった。
戦闘が始まってからでは姿を変えられぬ……。
失敗したのお……。
勇者の剣と、魔法使いの魔法、その他。
勇者たちが、それぞれの持てる一番の必殺技をわらわに叩き込もうとしている。
終わりじゃ……。
……もっと雑用係と遊びたかった……。
ドンッ!
衝撃と共に空気が震える。
来るはずの勇者たちの攻撃が、わらわに届かずに消えた。
必殺技が全て防がれた衝撃に煙が部屋を包む。
「なんだ!?」
「俺たちの攻撃が防がれた!?」
「最強の技を一斉に放ったのに!!?」
勇者たちも驚いている。
煙が消えると、わらわと勇者たちの間に一人の男が立っていた。
「お前は、俺たちに追放された口だけの雑用係!」
「どうして、魔王城にいるの!?」
「雑用係として、魔王城に雇われているんだ」
男はニッと笑う。
雇ったはいいが、仕事をしているところは見たことがなかったのじゃが……。
「魔王様、お友達が遊びたいと呼んでるから、呼びに来た」
雑用係がわらわに向かって言う。
それは、確かに雑用だった——。
「遊び? 友達だあぁ?」
勇者が呆れた声を出す。
雑用係はその間にもわらわを抱きあげて肩に抱えると、ピューッと走り出した。
「おい! 待て!」
「魔王を逃すの!?」
「雑用ってレベルじゃねーぞ!」
「なんじゃ!?」
「魔王様、遊びに行くぞ!」
呼びに来る友達などおぬししかおらぬが……。
それはおぬしの遊びの用事ではないのか?
わらわはこうして戦闘を離脱した。
いつもの部屋に新しいボードゲームがあった。
「ほら、遊ぶぞ、魔王様!」
「待て! 呼ばれたから遊ぶとは限らぬ。今のわらわは戦闘中なのじゃ」
「えー、負けそうだっただろう」
「この姿が悪いのじゃ」
わらわは元の幼女の姿になる。
「きっちり勇者を倒してから遊んでやるから待っておれ」
そう言ってわらわは勇者を倒しに行き、戻ってから、雑用係と新作のボードゲームで遊んだ。
「魔王様が無事で良かった……! 雑用係さんに雑用を頼んで良かった」
「ま、負けじゃ……」
新作のボードゲームはルールが分からぬ!
雑用係が満足そうにニコニコしている。
ムカつく顔じゃ。
「おぬし、まさかと思うが、わらわより自分が強いと思っておらぬじゃろうな?」
「え? 魔王様、弱いだろう?」
「ボードゲームの話ではない!」
勇者の必殺技を全て無傷で防ぐとは——。
雑用係とはなんなのじゃ!?




