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カラオケ店での出来事

作者: WAIai
掲載日:2026/08/21

カラオケの店のトイレから出ると、塩崎は座り込んでいる女性を発見する。

ー声をかけたほうがいいかな?

周りをきょろきょろ見るが誰も助けようとしない。

自分達の楽しい時間を過ごしていて、具合の悪い人間なんかどうでもいいみたいだった、、

ー薄情な奴ら。

そう言う自分も、多分トイレに来なかったら、女性を見逃していただろうと考える、

塩崎は女性に声をかける。

「あの!! 大丈夫ですか?」

柔らかめに言ったつもりなのだが、つい本性が出そうになる。

塩崎はヤンキーで、仲間達と一緒にカラオケに来ていたのだった。

「ふるあい」

「は…?」

顔を上げた女性を見ると、どうやら10代後半くらいから、20代前半のようだった。

酔っぱらっているのか、アルコールの香りがする、

それは塩崎も同じだったが、女性は涙を流し、「うー」と唸る。

ー助けタほうがいいな。

仲間を助けるなら、いざ知らず、見知らぬ他人を介抱して何になるんだと思うのだが、塩崎は立ち上がると、ある場所へ向かう。

「水か何か飲ませたほうがいいよな」

そう呟くと、自販機の近くに行き、水を購入する。

別に放っておいてもいいのだが、女性は美人でそのまま放っておいたらまずい気がした。

「ーはい、水」

キャップをわざわざ開けてやり、女性の肩に触れる。

女性は暴れるかと思ったが、意外なことに静かに従ってくる。

水をごくごく飲むと、女性は「ぷはっ」と声を出す。

それからふうと息を吐き出し、塩崎を見てくる。

「…あなた、誰?」

「カラオケに来た客の1人だよ。あんたが具合悪そうにしているから、助けようと思って」

「そうなの…? …ありがとう」

女性は子どものように、素直に頭を下げてくると、髪をかき上げる。

その仕草にどきりとしたが、塩崎は平然を装う。

「あんた、1人か?」

「…そう。部屋に戻らなきゃ」

「じゃあそこまで連れて行ってやる」

すると女性が目を瞬かせ、塩崎をじっと見てくる。

「まさか変なことをするつもりじゃ…」

「はあ!? ふざけるなよ」

さすがに怒ると、女性はびっくりしたのか、手に持ったペットボトルの水を少し零す。

「あーあ、ほら、しっかりしろって」

「わ、分かっているって…ひっく」

女性は塩崎の手を取ると、水をぐいっとあおり、蓋をする。

「水のお金は…」

「いいよ、別に。病人を放っておけないから」

「病人…。…そうか、病人か」 

女性は繰り返し言うと、くすくすと笑う。

塩崎はむっとして、女性を睨みつける。

「何なんだよ、あんた。人がせっかく助けてやっているのに」

「ごめんなさい。ただ、その、酒の飲み過ぎが病人だとは思わなかったから」

「どれくらい飲んだんだ?」

「ここは持ち込みOKだから、ビールにワンカップ、焼酎に…」

女性はまだぼんやりとしており、上手く口が回らないようで、指で数える。

「ビールはともかく、ワンカップかよ!? それに焼酎!? それは具合悪くなって当たり前だ」

塩崎はそう言うと、トイレを指す。

「トイレに行ったほうがいい。出すもの出して、アルコールをぬいたほうがいいと思うんだけど」

「大丈夫。トイレには行ったから」

女性はそう言うと、水をまた口に含む。

頬が赤く染まり、酔った状態の女性は色っぽかった。

少し意識がはっきりしてきたと思うと同時に、塩崎はどきりとする。

ーすげえ美人なの。これは1人にするのは危ないな。

そう判断すると、女性に手を差し出す。

「肩を組んで部屋まで運んでやる。それとも、俺の仲間のいる部屋に行くか?」

「うー。部屋に行く」

「どっちの? はっきり言え」

塩崎が少しイラッとすると、女性がぺこりと頭を下げる。

「すみません。自分の部屋に戻ります」

女性は塩崎の言葉を信じたのか、細い腕を差し出してくる。

秋になり、長袖姿の彼女はオシャレで、どうして1人でいるのだろうと不思議に思う。

「何で1人でカラオケなんだ?」

移動しつつ聞くと、女性はぐすりと鼻をすする。

「失恋したんです。それも大きな。だから1人でカラオケで発散しようとして…」

「あ…。ありがちのパターンか」

塩崎は独りごちると、女性がこんなのにも酔っているのが分かった気がした。

「分かった。もう何も聞かない。とりあえず部屋に行くぞ」

「おー!!」

女性は手を上げると、塩崎になかば引きずられるように進んで行く。

「部屋はどこだ?」

「えっとね…。あ、あそこ!!」

女性は嬉しそうに指したので、塩崎は部屋のドアを開ける。

するとテーブルの上に、アルコールが大量に並んでおり、これはさすがに…と驚くと同時に呆れる。

「あんた、馬鹿だ」

「は? な、何が…?」

「俺が見つけたからいいものの、もし下心がある連中が声をかけたら、あんた危ないところだったぜ。今の状況、分かる?」

ヤンキーが説教してもしょうがないのだが、女性は急にしゅんとし、椅子に倒れ込む。

「う、うわ!! いきなり通れ込むなよ」

「だ、だって…うう」

今度は泣き出したので、塩崎は美人なくせに面倒くさいと思ってしまった。

しかも子どものように、ぼろぼろ泣くので、ティッシュを差し出す。

「ありがとうございます」

「はい。じゃあ、俺はこれで」

行こうとすると、服の裾を引っ張られる。

何だ、と振り返ると、スマホを差し出される。

「LINE交換、お願いします。あとでお礼をするので」

「いいよ、別に。あんたに下心があるわけでもないし」

ぶっきらぼうに言いつつ、心中は穏やかではなかった。

ー面倒くさい相手だけど、美人だし…。お付き合いしたほうがいかな。

ふられたばかりなら、自分からアプローチしてもいいよなと言い聞かせる。

「ちょっと待って。…ほい、どうぞ」

スマホを取り出すと、LINE交換する。

本当は電話番号なども知りたかったが、ここは大人しくすることにした。

「あとで連絡します」

「はい、どうも。…じゃあ、俺はこれで」

「ありがとうございました。…うえ」

女性が手を口に当てたので、放っておけず、塩崎は自分でもお人好しだなと思う。

ー仲間が待っているかもしれないのに。

しかし放っておけないのは、今の彼女のほうだった。

具合悪そうなのを放っておいて、見殺しにするなんて、流儀に反する。

「タクシーを呼ぶからな」

「え…。でも、私、1人で…」

「駄目だ。ちょっと電話を借りる」

室内にある電話でフロントにかけると、男性が出てくる。

「もしもし…? 何でしょうか?」 

「タクシーを1台、お願いします。今すぐに」

「分かりました。少々、お待ちください」

塩崎は電話を切ると、女性の背中を撫でてやる。

「ほら、水を飲んで。とりあえず、タクシーを頼んだから」

「どうも…。お酒、良かったら飲んでください」

「今はいい。とにかく酔っぱらった状態のあんたのうが問題だ。男に襲われたらどうするんだよ、全く」

本気で怒ると、塩崎は女性の頭を叩く。

「痛っ」と聞こえたが、これくらいは許されるだろうと、勝手に判断する。

「とりあえずタクシーが来るまで待とう。あとはテーブルの上のものを片付けて」

何、甲斐甲斐しくしているんだと思いつつ、家庭環境が複雑なので、どうしても気を遣ってしまうのは、しょうがなかった。

「あ、電話だ」

フロントからと電話に出ると、タクシーが来たようだった。

「ほら、立って。タクシーが来たみたいだから」

「う、うん。ありがとうございます」

また女性を支えて立ち上がると、塩崎はこの出会いは、良いのか悪いのか、分からなかったが、とりあえず知り合えたことに感謝する。

ー俺の彼女になったりして。

そのつもりで介抱したのだが、女性には内緒だった。

「さあ、カラオケの店を後にしよう」

「は、はい…」

女性は塩崎の言われるままで、少し楽になってきた。

フロントで女性を預けると、会計を済まし、店の外へ連れ出す。

「うわ、気持ちがいい」

外は星空が煌めいており、人工のネオンよりも美しかった。

秋の虫の鳴き声が心地よく聴こえ、涼やかな夜の一時となる。

「ほら、タクシーに乗って」

女性を誘導すると、タクシーの運転手に声をかける。

「家まで送って行ってあげてください」

「はい」

タクシーのドアが閉まり、女性は頭を下げてくる。

それに手を上げ、タクシーが去るのを見届ける。

ー俺も仲間の元に戻らないと。

少しにやけた顔を払うために、両頬を叩くと、カラオケの店に戻ったのだった。

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