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運命の流転の果てに  作者: 水梨なみ
運命の流転の果てに
8/30

運命の輪(1)

恭介の学園生活は、始まりの波瀾からは想像がつかないほど穏やかに2か月が過ぎた。

結局、あのゴールポスト激突事件のおかげで、サッカー部に入部し、充実した学園生活が続いている。慣れてくると男子校というのは、存外、居心地が良く、多くの友人ができると毎日が賑やかで楽しいものとなった。

風見さんともうまく付き合えるようになったしな。

授業が終了し、サッカー部の部室へ向かう。

再開してみると自分がいかにサッカーがやりたかったかを再認識し、また、風見のすごさに心打たれる日が続き、すっかりファンになっている自分を自覚する。

放課後、いつものように、廊下の自身のロッカーに、荷物を放り込もうと恭介は、ロッカーの扉をあけた。

何これ?

ロッカーに張りつけられていた封筒を取りだし、中を見る。

『生徒会召集令状』

カードの見出しにはそう書いてあった。

「召集令状!」

叫んでしまい、周りを見る。幸い誰もそばにはおらず、気付かれなかった。

続きにまだ文字がある。

『本日、午後3時に生徒会室に来られたし』

・・・。俺、何したんだ?

身に覚えはない。全くだ。

悩んでいても仕方がない。恭介は、腕時計を見る。時間は、2時50分を指していた。

やば、行かなきゃ。

大きく一つ溜息をついて、恭介は生徒会室へと向かった。


ノックをすると中からどうぞと声がした。恭介は、扉を恐る恐る開く。

「失礼します」

声を掛けて中に入ると奥のデスクに人影が見えた。

「月嶋先輩」

驚きの声を上げる恭介に月嶋は笑いかけた。

「やあ、花山くん」

「生徒会に呼ばれてきたんですけど、月嶋さんはここで何を」

「おやおや、知らないのか。生徒会長は寮長を兼務だってこと」

思い切り驚いた顔をした恭介を見て、月嶋は呆れた顔をした。

あれだけ端正な顔であきれた表情をされると結構堪える。

「二か月もここで生活している割には迂闊だな」

「すみません」

生徒会長と寮長。どちらもかなり職務があるだろうに、どうやってみんな兼務しているっているんだろう。

やっぱり、すごい人だ。

素直に感心していると月嶋が席を立つ。

「花山恭介くん、ここに君を呼んだのは頼みたいことがあるからなんだ」

「頼みたいことですか?」

「そう、学園のことをあまり知らない君も今後学園生活を送るためにいろいろ知ることができるし、僕も助かる」

そこで、月嶋は言葉を切るとまっすぐに恭介を見つめ、

「君を生徒会雑務係りに任命する」

と宣言された。

「雑務係りって・・・、なんですか。それ」

「さすがに迂闊な君でもいきなりは頷かないか」

くすくす笑って、月嶋はデスクを回って恭介のそばまで歩いてきた。真正面に立ち、恭介を見下ろす。

「雑務係り、要は僕の手伝いをする係りで、まあ、なにせ会長職は激務だからそれを助けて欲しいと言っているわけだ」

「でも、だいたい、2学期の途中で、生徒会役員選定なんておかしくないですか。普通は、4月に全役職を決めますよね」

恭介の言葉に月嶋は面白そうな表情をして、つと手を伸ばす。避ける間もなく、恭介は顎を捉えられ、上を向かされた。

「なるほど、鋭いね」

「馬鹿にしていますね」

「そんなことないよ。褒めているのに。君の言うとおりその役職はたった今作った」

簡単に語られた言葉に絶句する。顎を上向かされているせいで、月嶋と視線が合い、はたから見たらなんだか誤解されそうだ。

「だれが」

聞いても無駄だと思いながらも問わずにいられない

「僕が」

「なんの権限で」

「生徒会長、権限かな」

そんなに偉いのかと思ったが、確かに学生会運営の最高責任者だ。

あまりに当たり前に言われ、あとに言葉が続かず恭介は、月嶋を見る視線に力を込める。

月嶋は面白そうな光を瞳に宿して、何故か顔を近づける。

息が触れるほど、近くに顔を寄せられ、どうしていいかわからない。

「受けてくれるよね」

逃げようとしても、結構な力で顎を掴まれていて、顔を逸らすこともできなかった。かすかに首を左右に振ろうとするのですら妨げられて、恭介は顔をゆがめた。

「拝命しますって云ってごらん」

言うまで離さないよとその瞳が語っている。

「別に僕でなくてもいいと思いますけど」

最後の抵抗を試みるが、視線を離しもせず、月嶋は再度

「拝命します、だ」

と告げる。月嶋の甘い吐息が恭介の唇にかかり、こんな近くまで人に寄られた覚えがない恭介は背筋が震えるのを止められなかった。

係りを受ければ何をさせられるかわかったもんじゃないと思われ、受けるとは言いたくないが、この状況は言うまで打破されないことも分かっていた。

「返事は?」

「嫌です。離してください」

「強情だね。断れると思う?」

何を考えている人かわからないとはずっと思っていたが、ここまでとは予想外だった。

しかし、うんと言うまで離してくれそうにない相手に恭介は途方に暮れた。

「恭介、言って」

いつの間にか名前で呼ばれ、さらに顔の距離が近くなって、さすがの恭介もだんだん怖くなる。

「・・・わかりました」

「なに?聞こえないよ」

優しい声音がものすごく意地悪に聞こえる。

「拝命します」

「よくできました」

恭介の頬を月嶋の唇が掠めて、離れた。

唇がふれたところを押さえて、恭介は飛びすさる。

「な、なにするんですか」

「挨拶だよ。もっとちゃんとして欲しかった?」

悪戯っぽい視線で問われ、恭介は慌てて首を左右に振った。

「じゃあ、よろしく、恭介」

くすくす笑うと月嶋はすっかり呼び名を恭介と決めたようで、躊躇なく呼ぶ。

受けたからには頷ずかざる得ないが、全くいいようにあしらわれてかなり内心はムッとしていた。

大体、態度が豹変している気がする。でも、この人は何かと僕のことを気にかけて、側にいたような気もする。

それって、そういう意味??

自分の考えをまさかねと否定する。キスされそうになったからと言って、別にこの人が僕のことを好きと考えるのはおかしい。やっぱり揶揄われているんだ。

「明日から、昼休みは毎日ここに来るんだよ。放課後は部活で忙しいだろう。君を独占すると巽も怒るだろうしね」

最後の言葉は、恭介にとっては意味不明だ。考えるのも怖くて、それ以上深く思わないことにした。


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