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運命の流転の果てに  作者: 水梨なみ
運命の流転の果てに
7/30

事故(2)

目が覚めると恭介は、自室のベッドの上にいた。記憶が飛んでいて、なぜ、ベッドで寝ているのかがわからない。

二、三度瞬きをしてから身体を起こした。

「っ痛」

頭に手をやると包帯が巻かれていた。

サッカーをしててボールをクリアして、どうしたんだっけ。

考えるがなんだかわからない。

がちゃりと扉の開く音がして、恭介はそちらに視線を送った。

「目が覚めたのか」

「風見先輩・・・」

部屋で声をかけられたのは、初めてだ。

「吐き気と頭痛は」

たずねられて、首を横に振る。

「頭はこの辺だけ痛いですが、あとは別に。俺、グラウンドにいましたよね?」

「なんだ、覚えてないのか。はた迷惑なやつだな」

つかつかと部屋を横切り、デスクの椅子を引くと、恭介と向かい合うように。背もたれ側を向いて、風見は座った。

「サッカーのミニゲーム中にゴールポストに頭から突っ込んだ。そのまま、気絶したから大騒ぎだった」

「すみません」

なぜか攻められている気がして謝ってしまう。

「一応、校医にも見てもらったら、ただの打撲だそうだが、頭なんで、もしも、頭痛が続く、吐き気がするという症状が少しでも見られたら、医者に行けとのことだ」

報告は以上とばかり、風見は口を閉ざす。

「おいおい、そっけないな。風見」

突然、入口から声がして、月嶋が部屋へと入ってきた。

「事実は以上だろうが」

風見のむっとした声に月嶋は面白そうに笑った。

「一番先に駆けつけて、抱き上げてここに運び込んだ奴の台詞じゃないな」

月嶋の言葉に恭介は絶句する。

「大丈夫かい。花山君」

月嶋の問いかけに恭介は頷いた。

「俺、迷惑かけたんですね。すみません」

「謝ることじゃないよ。大事がなくてよかった。あまり、無茶をやらないように。まあ、スポーツに怪我は付き物だけど」

手を伸ばし、月嶋は恭介の頭をそっと撫でた。

「こぶになっている。冷やしたほうがよさそうだ」

「大丈夫です」

恭介の言葉に笑いかけ、月嶋は、氷を取ってくるよと出て行った。

「風見先輩、いろいろすみませんでした。ありがとうございます」

風見に向かって頭を下げると、風見は困ったような表情をみせる。

「お前、サッカー部に入るのか」

唐突に話題がかわって、恭介はえ?という顔をする。

「まだ、決めていませんけど、今日は運動部を一通り見学する予定だったので」

「うちの部はどうだ」

まったく会話がかみ合っていないような気がしながら。

「すごいです」

と答える。後ろに風見先輩がとつけそうになって、そこは、のみこむ。

「まだな。ディフェンスがいまいちなんだ」

いったい、風見先輩は何が言いたいのだろうと恭介は頭をひねる。

「サッカーはいつからやってる」

「小学校からですけど」

「ずっとディフェンスか?」

頷くとそうかとだけ答える。何かを言おうとして、風見が口を開きかけると扉が開いてぞろぞろ人が入ってきた。

「花山。大丈夫か」

羽賀を先頭に、一年のサッカー部の連中がどやどや、がやがや現れ、恭介のベッドをとり囲んだ。

「羽賀・・みんな・・・」

口々に大丈夫かと問われ、それに頷いて大丈夫と答える。

「まったく、熱中するにもほどがあるだろう」

呆れた顔で言われる。

「でもさ、花山のクリアはすごかったよな」

「そうそう。お前すげえよ。見た目よりガッツあるのな」

口々に恭介のプレーを褒める友人達に恭介は困った顔をする。

「大丈夫だっただろう。安心したか」

騒ぐ1年の背中から声がかかった。

「寮長」

「花山君は怪我人で、まだ本調子ではないのだから、静かにした方が良くないか。

そっちで、睨んでるやつもいるし」

全員が部屋の奥に視線を走らせ、身体をこわばらせた。

「風見先輩!」

確かに風見が睨んでいる。

ここは風見の部屋でもあったことを思い出した1年は、後ずさりながら、

「じゃあな、花山」

「また来るわ」

来た時同様、全員、がやがやと出て行った。

「あ、ありがとう」

その背中に御礼を言うが聞こえたかどうか。

「はい、氷。これで冷やすと少し違うだろう」

「ありがとうございます」

渡された氷嚢を受け取り、傷に当てる。冷たさに一瞬痛みを感じたが、押し当てていると痛みが少し遠のく気がする。

「良く冷やして。もしも気分が悪くなったら、風見に言うんだ」

わかったかと瞳で問われ、

「わかりました」

と恭介は答えた。

それに月嶋はにこりと微笑む。

「じゃあ、巽。あとは頼んだよ」

「ああ」

月嶋の要請に軽く応じて、風見は答える。

その声がやけに心配そうに聞こえ、つい風見に視線を走らせると目が合ってしまった。

何となく視線が離せず、つい、見つめてしまう。

先に視線をはずしたのは風見の方だった。特別な意味はなかったが、つい見とれてしまったことに気づき、恭介はばつが悪くて、頬に朱が上る。

ぱたんと扉が閉まって、風見と2人きりになると余計になんだか恥ずかしい。

椅子から立ち上がり、風見は恭介のそばまで歩いてくると肩にポンと手を置いた。

「寝ろ。ずっとここにいるから」

肩を押されて、恭介はベットに倒れる。下から見上げた風見はやけに優しげに見えた。

「すみません」

「謝るな。謝らなくていい」

恭介は毛布を引き上げ、頷いた。

「ありがとうございます」

風見の優しさに感謝し、恭介は目を閉じた。


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