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運命の流転の果てに  作者: 水梨なみ
運命の流転の果てに
6/30

事故(1)

グラウンドは確かに寮の北側出口をでたところから見えるほど近かった。テニスコート、野球場、サッカー場、ラグビー場が隣接している。

その脇に体育館らしき建物もあるので、バスケットやバレーのコートはその辺にあるのだろう。

さらに木立の向こうに和風の屋根が見えて、月嶋先輩の剣道部はあの辺で活動しているのかと思った。

とりあえず、近いところから見て回ろうと恭介は、グラウンドを囲っているフェンス越しに各部活動を見学する。

テニスのコートが見え、フェンス沿いをゆっくりと歩く。

かなり本格的だ。

恭介は、内心驚いた。私立高校の部活動にしては、かなりレベルが高い。

文武両道って本当だったんだと思い、これでは、初心者で部に入るのはきつそうだと考えた。

テニスコートを通り過ぎるとサッカーグラウンドが見えてきた。夏休の途中まで、サッカー部にも所属していた恭介は懐かしいと思う。

砂の匂いと整備されたグラウンド。遠くに白いゴールネットが光を反射していた。

がしゃしゃしゃんっ!!

立ち止まってみていた恭介の目の前のフェンスが、轟音を立てる。

一瞬、両手で顔をかばって目を閉じる。衝撃も痛みもなかったので、目を開けるとフェンスに激しくぶつかったボールが転々とフェンスに跳ね返されて地面を転がっていた。

「あれ、花山じゃん」

そのボールを拾いにきた羽賀がフェンスの向こうの恭介を見て驚きの声を上げる。それに手を上げて答えると

「サッカー部を見学に来たのか?」

と尋ねられた。

「部活動一般の見学」

苦笑いして、恭介は答える。しかし、羽賀は聞いていなかったのかボールを拾うとフェンスを回り、通行用の扉を開け、花山の腕を取った。

「そこからじゃ、わからないだろう。せっかくだから、体験入部をしてけよ」

そういうと恭介の腕を取ったままグラウンドに向かいだした。

「羽賀、見るだけだからここでいいよ。まだ、どこに入るか何も決めていないし・・・」

「スポーツは見るだけじゃわからないって。久しぶりにボールを蹴りたくないか」

言われてみれば、懐かしいと思った時点で、やってみたいと思ったのは事実だ。強引にグラウンド脇まで連れて行かれ、

「見学にしてもここのほうがよく見えるし」

などと言う。

「マネージャー、見学者が来た」

ベンチ付近に立っていた体格の良い生徒に声をかける。男子校なので、マネージャーと言っても当然男で、ただ雑用をしてくれるためにいる人ではなくマネージャーと呼ばれた生徒もサッカー選手のようだ。名前の通り、部を仕切る係りといった感じなのだろう。

「おう、珍しいなこんな時期に。おや、恭介じゃないか」

近づいてきたのは同じ棟の3年の先輩で、上の学年にはすっかり定着してしまった名前で呼ばれた。どうも名前のインパクトが強かったようで、それしか覚えてくれない先輩も多々存在した。

「こんにちは。角田さん。サッカー部だったんですね」

「まあな。お前がサッカーに興味があるなんて知らなかったよ」

「いろいろ見てから決めようと思っているんですが、外を通りかかったら連行されまして・・・」

困ったように答えると角田さんは笑った。

「見るなら危なくないところで見てな。参加したくなったら声かけてくれ。その格好でもいいが、シューズとすね当てだけ貸してやるから」

それには、はいと答え、グラウンドを見る。どうもミニゲームの真っ最中のようだ。

ボール拾いに戻ろうとした羽賀に、ありがとうと告げると羽賀は親指を立てて走り去った。

ミニゲームは6対6の紅白戦で、片方のチームが押し気味に試合を進めていた。

「差し込まれっぱなしだ」

独り言を呟いてしまったほど一方的に攻められている。よく守っているので点は入っていないが、とにかくあの9番がすごいと思ったとたん、ボールを持ったままクルリと回転して一人抜き去った9番の選手の顔が見えた。

風見さんだ。

上手いとは、聞いていたが、この鮮やかなドリブルは何だろう。

思うまもなく、鋭い蹴りともにボールはゴールへと吸い込まれた。ホイッスルの音が高く響く。

わっと歓声があがり、センターへと選手が駆けて行く。

相手の攻撃から始まり、ディフェンダーから風見にボールが渡るとほとんど風見の独壇場だった。3人、4人で囲んでやっと風見の進行が止まるが、隙をつかれてパスが通り、また駆け出していく。

風見から目が離せなかった。羽賀がすごいと絶賛していたのを思い出す。周りのレベルが上がれば全国大会も夢ではないだろうに。

試合終了のホイッスルが鳴り響くまで、恭介は風見を目で追い続けた。





「すげえだろ、風見さん」

羽賀が試合が終わると恭介に近づき、声をかける。それに縦に首を振る。

「次、一年の番なんだけど、お前もやらない?」

「え?む、無理だよ。用意もなにもしてないしさ」

「さっき、角田さんが貸してくれるっていってたじゃん。やろうぜ」

相変わらず、人の話は聞かない羽賀に強引に連れて行かれ、にやにや笑う角田さんからシューズとソックスとすね当てを借りる。

久々にグラウンドに立つとやっぱりいいなと思う。上手くはないが、恭介はこの感じが好きだった。

試合は、やはり6人制で1年がほとんどだが人数が足りない関係で、2人ほど2年が混ざる。風見がその中に入っていないのをみて、恭介はほっとすると同時に残念にも思った。

「恭介、ポジションは?」

「右サイドのディフェンダー」

「じゃあ、そこらへんは任すから」

簡単に6人でポジションを割り振って、試合が始まった。

ボールを追いかけだすと他のことはもうどうでもよくなる。恭介は試合に集中し、久しぶりの感覚を楽しんでいた。

1年の実力差はどっこいどっこいのようで、いい具合に均衡したゲームが進む。

敵チームに攻め込まれ、恭介はそれを体を入れてとめ、前線にボールを送る。

「やるじゃん、恭介」

羽賀が駆け抜けざまに声をかけていく。そのまま、前線でゴールを狙いにいくのを後ろから見送った。

羽賀のゴールは決まらず、ゴールキックでまたもや攻守が入れ替わる。

恭介も自陣ゴール前へと取って返した。相手チームのMFがドリブルで駆け上がり、前線のフォワードにパスを出すのが見えた瞬間、恭介は駆けるスピードを上げ、そのまま前へと飛ぶと、ヘディングでボールを右サイドへと流す。しかし、ちょっと目測とスピードを誤った。ボールはグラウンド外へ出たものの目の前にはゴールポストが近づき、方向を変えるすべもないままゴールポストに突っ込んだ。

「恭介!」

羽賀や他の選手が自分の名前を叫ぶのが、遠くに聞こえる。まるで現実味のない騒ぎの声が近付いてくる中、恭介は、目の前を白と黒の羽が飛び散るのを見たと思った。

しかし、その幻影はあっという間に溶けて、恭介はそのまま意識をなくした。


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