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運命の流転の果てに  作者: 水梨なみ
運命の流転の果てに
3/30

悪夢の始まり(3)

放課後、羽賀の約束は、残念ながら果たされることがなかった。

「花山くん、寮長が玄関で待っていてくれるそうだから一緒に行って、規則とか教えてもらっておいてくれ」

ホームルームが終わると担任の教師は、恭介を捕まえてそう言った。

「げっ、寮長、じきじき」

横で帰り支度をしていた羽賀が驚きに声を上げる。

「え?普通は違うの」

問う恭介に、羽賀はわからないと答えた。途中で入ってくる新人は少ないらしく、普通の新入生はオリエンテーションで一通りの説明を受けるらしい。

「花山、早く行ったほうがいいぜ。寮長、待ってるならさ」

なんとも意味深な言い方で羽賀に忠告され、恭介は鞄を抱えると玄関に向かった。


「花山くん?」

尋ねられて、はいと答える。というか、それ以上、言葉が続かなかった。短くそろえた黒髪、面長の端正な顔、切れ長の目が少しきつい印象を与えるが、それすらこの落ち着き振りとしっくりあっている。

すごく格好いい。

しばし、顔に見とれてしまい失礼だったと恭介は思い直す。しかし、こういう反応には慣れっこなのか、寮長は顔色一つ変えない。

「僕は、寮長の月嶋静也つきしま せいや。君に寮を案内する役目を担っている。よろしく」

差し出された手を握り返し、声まで低くて綺麗だと思う。こっちだと促され、恭介は月嶋について歩き出した。

「こんな時期に転入は珍しい」

寮までの道を歩きながら、月嶋はそう切り出した。

「一応、集団生活だから規律はあるし、それを守る責任がある。寮則はおいおい覚えてもらうとして、人に迷惑をかけない、なにかあったら自己で責任を取る。これだけは守って生活してくれ」

淡々と低い声で語られるのは、いかにも寮長という感じだが、この容姿にこの声でこのクールな性格は絵に描いたように似合っている。

少し長めの前髪を時々うっとうしそうにかきあげる仕草ですら、見惚れてしまうほどだ。

世の中にはこんな男もいるんだ。こういう風になれるといいのにな

まだ頬の線が少年っぽさを残して丸く、そのせいで短い髪にできずに少し長めにしている自分の髪をちょっとひっぱってみる。目が大きく、瞳も大きくてくりくり良く動くので、小動物的な感じを与えてしまう自分とは大違いだ。

180センチ近いかな。

目線を合わせるのに少し顎を上げないといけないくらいの背丈から、そう推測する。細身のすらりとした姿勢のよい歩き方。

隙がないってこういうことをいうのか。

「聞いてるか」

「はい」

容姿に見惚れて違うことを考えていたのが、わかったのだろうか。

「学校と寮は同じ敷地内だから迷うことはないと思うが、この高校は思っているより広いからな。変なところに迷い込んで迷子になるやつがでるから、注意してくれ」

「ここ、まだ学校の敷地なんですか」

どうみても公道で、車が通る道を歩いていると思っていた恭介は、目を丸くする。

どんだけ広いんだ、この学校。

徒歩で10分くらい歩くと、羽賀いわくボロイ寮が見えてきた。レンガつくりの明治風な建物で、確かに古いが歴史建造物的な重さがあって、恭介はこれをぼろいというのは酷いのではないかと思った。

「寮は真ん中の広間を中心に4つのウィングに分かれている。広間が食堂、北側が風呂場と洗濯場、残りの三棟が居室で、一年は4人部屋、2年は2人部屋で、3年になると1人部屋になるやつもいる」

「全員じゃないんですか?」

一部ってどうしてだろうと恭介は思う。

「集団生活を学ぶというのが、この学校が寮制度を採っている理由だからな。本来なら

個室がありえないんだ。まあ、部屋が余っているから、成績がいいとか、部活をひっぱっているとか、そういう地位につけば個室がもらえることもあるってことだ」

そういいながら、月嶋は、中央の広間へ歩いていく。

「お、寮長。かわいいの連れてるじゃん」

通りすがりの生徒に声をかけられ、あろうことか寮長、月嶋はかるく頭を下げた。

「新入りですよ、今井先輩」

「今日からお世話になります花山です。よろしくお願いします」

先輩という言葉で、恭介は言葉をさらに改め、挨拶をする。

「おう。よろしくな、おれ、3年の今井。寮長の案内じゃ肩が凝るだろうが、まあ頑張ってな」

ひらひら手を振って今井はいなくなってしまった。

「先輩って?」

「ああ、俺、2年だから」

軽く言われたことにショックを受ける。寮長なのに2年生。ありえないだろう、普通。

「ここが食堂ね。食事当番もあるからな、部屋番号と食事当番表はちゃんと確認すること」

壁に貼ってある食事当番表を眺め、こりゃ思っていたより大変かもと思う。

「花山くんの部屋は、南棟の202号室。荷物はもう運んでおいたから」

「ありがとうございます」

案内されて、部屋の中へと入る。ベッドが2つしかない。

「1年は4人部屋なんですよね」

その言葉に、月嶋はその端正な顔を困ったようにゆがめた。

「それが基本だが、1年は現在140名で、君が入ったので、141名。これがどういう意味かわかるか」

一瞬、は?っと思ったが、4人部屋が基本という話をしていたことに気づき、141を4で割ってみる。

「一余ります」

「正解。というわけで」

月嶋が説明しようとしたところで、扉がばんと音を立てて開き、1人の男子生徒が入ってくる。これまた、身長が高く、細身のわりにしっかり筋肉がついた肢体をしている。髪は短いが、あっちこっちを向いていて、日に焼けた肌に良く似合っていた。男っぽい顔だが、鼻筋が通っていて、巷の女子にとても受けそうな顔だ。

「こいつか、静。新入りってのは」

かなり乱暴な口調で怒っているようにも聞こえる。

「そう、一年の花山恭介くん」

「きょうのすけ、変な名前だな」

人の名前にけちをつけて、ふんと笑われた。月嶋さんを名前で呼んでいるから、2年生だろうが、かなり失礼なやつだと恭介は思った。

「花山くん、こっちは2年の風見巽。君のルームメイトだ」

月嶋は苦笑しながら、恭介に相手を紹介する。

ベッドに荷物を置いているからそうかとは思ったが、このワイルドな感じの上級生が同室かと思うとかなり気が滅入った。

「君が一人一年で余ったので、いまさら部屋替えもないと、一人で部屋を使っている2年と同室ということになった」

2年で一人部屋ということは、何かしら学校に対して業績があるということだ。

「いい迷惑だがな」

風見がいらだたしげに答える。

「巽、決まったことなんだから仕方がないだろうが。大人気ない」

切って捨てるように月嶋が応じる。それにむっと黙って返し、風見は荷物を置くと出て行った。

「悪いね。無愛想なやつだから」

月嶋に謝られても困ると恭介は思った。これからあの気難しそうな先輩と暮らすのかと思っただけで、さらに気分が落ち込んだ。

「夕食は、7時から。30分遅れると食事なくなるから気をつけて。いらないときは、朝出かけるまでに申告すること。入浴は、24時まで。シャワーは24時間使えるが、一応、消灯が24時だからそちらを優先で」

最低限必要な規則を寮長が説明する。当たり前だがいろいろ細かく決まっているものだと感心した。

「後は、これをよく読んでおくように。読んだら、規則書は玄関脇の本棚へ返してこの書類にサインして提出してくれ。これにサインすると規則は了承したことになるから、あとで知りませんでしたってのは無し。きちんと責任持って対処してくれ」

パンフレットくらいの厚さの本と書類を渡された。

「わかりました」

「それじゃあ、これで」

寮長がきびすを返すのに、

「ありがとうございました」

頭を下げて恭介は礼を言った。

それに片手を挙げて月嶋は部屋を後にした。

落ち着いていて男から見てもカッコいい人だと改めて思う。一つ溜息をついて、部屋の中を振りかえると段ボール箱が積み上げられていた。

「荷解きしないと」

恭介は、使われていない側の机や棚に、私物を片付け始めた。


毎回、字数がばらばらで申し訳ないです。

半分で切りたかったのですが、話の流れから切れませんでした…

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