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運命の流転の果てに  作者: 水梨なみ
運命の流転の果てに
24/30

ダンスパーティー(2)

会場となっているホールに入ると普段並べられている椅子は全て撤去され、広い空間に多くの着飾った生徒がそれぞれに談笑していた。会場の奥には、管弦楽部のオーケストラが設置され、音楽を提供し、食事もブッフェ形式でテーブルの上に様々な料理が取り分けられるのを待っていた。

「飲み物を貰ってこよう。恭介は何がいい?」

「炭酸系ならなんでも」

「わかった、ちょっと待ってて」

と微笑うと月嶋は恭介を残して、さらに会場の奥へと消えた。

月嶋は昨日のあの出来事が彼の言ったとおりただの冗談だったかのように、恭介に優しかった。昨夜の食事も面白い話に終始し、とても楽しかったし、常に先回りの気の使い方で、恭介には何もさせない徹し方だ。

静さんは本当によくわからない。あの苛立ちの意味さえも。

暗くなりそうな考えを頭の隅に押しやり、恭介は興味深げに会場を見渡した。見知った顔がたくさんいるのは当たり前だが、それぞれが知らない女性を連れているのが新鮮で、不思議な気がする。

会場の壁際へ目をやって、風見を見つけた。ぐるりと隣の学校の女生徒だろう子たちに囲まれ、なにやら楽しそうに笑っている。風見もかなり洒落たスーツ姿で、年齢よりも大人っぽく見える。確かに女の子が寄って行くのは当然という気はする。

しかし、あまり恭介が見たことのない表情をする風見に、恭介はなにやら面白くないような気がした。

特に声をかけることもなかったのだが、風見が視線をふとこちらに流したかと思ったら、歩み寄ってくる。

「恭」

呼ばれてびっくりした。

「こんばんは。よく、俺だってわかりましたね」

そう、いつもだったら驚かないが、今日は自分でも自分がわからないような格好なのだ。

「恭ならどんな格好していたってすぐわかるよ」

すごいことをさらりと言って、目を細める。

「それにしても、綺麗だな」

そんなに簡単に褒めないでほしいと思う。とにかく、恥ずかしい。

「俺も風見さんのスーツ姿は初めて見ました」

何を言っていいかわからなくて、そんなことを口走る。

「その格好のときには、私って言った方がいいよ」

背後から声を掛けられて、恭介は振り返った。

「玲」

「玲さん」

同時にその人の名を呼ぶと玲はにっこりと微笑った。

白のタキシードに栗色の髪を後ろで縛り、幅広のリボンで止めてあった。

隣のうちの有子ちゃんが持っていた絵本にでていた王子のようだ。

「綺麗だね、恭介。すぐにわかったよ」

こちらも怖いことをさらりと言う。

「どうせ、名前でわかるんだから、いいんですよ。俺で」

ちょっとふてくされたように言うと二人が同時に笑う。

「でも、ここにいる誰より綺麗だよ」

「やめてください。恥ずかしいじゃないですか」

真っ赤な顔で抗議する。どうしてこんな歯の浮くようなセリフを真顔で言うんだろう。この人たちは。俺だったら絶対できないと恭介は思う。

「巽、玲」

「ああ、静也」

そこへ飲み物を取りに行った月嶋が戻ってきて、恭介は3人に囲まれる。この3人がそろうと目立つことこの上ない。それも今日は、3人とも正装している。

先ほど、風見を取り囲んでいた少女たちがこちらを指さして何やら言っているのが見えた。心なしか睨まれている気もする。

月嶋に渡されたグラスを受け取る。その時に周囲をちらりとうかがうと、ホール中の視線がここに集中している気がする。

「なんかすごく目立っている気がするんですけど」

この三人がいるんだから当たり前だとは思うのだが、それにしてもここにいるほとんどがこちらを気にしているというのはおかしい。

「それは、恭介のせいだね」

横に立った月嶋に簡単に言われる。

「俺のせいなんですか」

それはないだろうと驚く恭介に構わず、そうだな。と残りの二人も同意する。

「飲み物取りに行っただけで、あれは恭介かと何回も訊かれたよ」

「あっちでも他校の女生徒が噂していたよ。あんな綺麗な子がいたかって」

玲の言葉に唖然とする。女子にまでそんなことをいわれたらお終いかも。

「ほら、あっちでも女の子たちが睨んでいるよ」

さっき風見を取り巻いていた子たちを顎で示し、玲は言った。

「風見さんがこっちに来ちゃったからですよ。さっき話をしていた途中だったんじゃ」

「交流試合に勝ったから、おめでとうとか言われただけだ」

それは、ただの話題のとっかかりなのでは。俺が女の子に見えていて、風見さんを取ったことになってるのかな。

恭介は、なんだかとても憂鬱になってきた。

たしかに、女装姿は滑稽にはならなかったが、まんま女性だと思われて、女性に妬かれるのは男としてどうなんだ。

はあ。大きな溜息がでた。

月嶋の手がすっと伸びて、恭介の腰を抱き寄せる。

「そんな暗い顔するものじゃないよ。演劇の舞台だと思っていればいい。他がどう思ってもね、恭介には関係ないから」

斜め上から見つめられて、月嶋が囁くように言った。確かに、知らない女の子からどう思われようが恭介には関係ないが、胸中は複雑だ。

「月嶋さんもやってみればわかりますよ。女装して男だって見破られないのって男として、どうなんだって気持ちになりますから」

「男女は関係ないよ。どっちにしても恭介は綺麗だってことだから」

臆面もなく真顔でそんなことを言われ、恭介は言葉が出てこず、口だけ開いたまま固まってしまった。

「可愛いね。恭介は」

そんなことを言われ、ますます身の置き所がなくなる。

そこに、ミスに選抜された生徒とそのパートナーは集合するようにアナウンスが入った。

「さて、行きますか」

差し出された腕を恭介は取った。



オーケストラの音楽がホールに流れ、その中を色とりどりのドレスが舞う。

さすがに全生徒に選ばれた各学年の代表だけあって、どの女性役も様になっている。ぱっと見で、男だと思う人はほとんどいないに違いない。

もちろん、それだけでなく踊りたい生徒は誰でもダンスに参加できたので、ホール中央は、一斉に花が開いたかのような華やかさだ。

恭介もさすがに特訓の成果もあってそれなりには踊れるようになっていた。相変わらず、月嶋のリードだと身体が硬くなるのは止められないが、それでも前のように手と足が一緒にでるような無様なことはなかった。

ダンスは踊っている間、視線を合わせているのでそれがとても恥ずかしい。しかし、こうやって月嶋の横に当たり前のようにいられるのも、これで終わりかと思うとそれはそれで少し寂しい。

「これで、お芝居も終わりですね」

言葉に寂しさが出ていたのか、

「このまま続けたって、僕は一向に構わないけど」

と返されてしまった。

「それって、意味ないでしょう」

「悪い虫が寄り付かないようにするくらいのことにはなるかな」

確かにそのためのお芝居だった。月嶋と別れたという噂がたてば、またそんな話も出るかもしれない。

「いままでどおりでいいと思うよ」

周りには誤解させたままでほっとけという意味だ。

「そうですね」

答えるが、学年も違う以上、なかなか一緒にいられる機会もないだろうなと恭介は思った。

周りに聞こえないことをいいことに囁きあいながら踊っていたらあっという間に曲が終わった。

「よくやったね」

お辞儀をすると月嶋が褒めた。ダンスに限って月嶋に褒められたことのなかった恭介は、心から嬉しいと思った。

「ありがとうございます」

とても嬉しそうに微笑うと月嶋の瞳が優しく瞬いた。


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