悪夢の始まり(2)
「よろしく、俺、羽賀良太郎。しばらくはお隣さんだからよろしくな」
隣の席にすわった生徒が、休み時間になると挨拶してきた。いかにも運動部然とした羽賀は、背が高く、短く切りこんだ髪、笑った顔が悪戯小僧のようだ。
「よろしく」
「だけど高校1年の2学期から転入なんて珍しいな」
恭介は事情をかいつまんで説明した。
「いろいろ大変だったんだな。ま、俺もここに入ってまだ5ヶ月くらいだけどさ、わからないことがあったら訊いてよね。あ、勉強以外でお願い」
あっけらかんと言われて、恭介は笑ってしまった。ユニークな奴。
「それよりさ、恭介って中学の部活ってなに?」
羽賀は実はこれが一番聞きたかったことらしい。
「サッカー部」
「マジで。ポジションどこ?ここでも入部する?ここのサッカー部つええぜ」
「そうなんだ。見てからにしようと思っているんだけど。俺、あんまり強くないし」
卒業した中学は普通の公立中学で、地区大会3回戦くらいで敗退するくらいのチームだった。
「後で見に来いよ。俺もサッカー部なんだ。すげえ先輩がいてさ。風見巽さんっていって1年からレギュラーはってる人でさ」
「おい、羽賀。ちゃっかり勧誘してるんじぇねえよ」
部活の話をしていることに気付いた回りの同級生が集まってくる。
「花山、せっかく高校も替えたんだし、新しいことに挑戦してみる気はないか」
どうも羽賀との会話は聞き耳を立てられてたらしい。
「そうだよ。サッカー部は人数足りてるだろう。乗馬なんてどう?珍しいしあとで役に立つよ」
恭介は乗馬の何がどう役に立つのか全く想像できなかったが、自分の周りで口々に勧誘する同級生を見る限り、どこも部員不足だってことは理解した。
「誘ってくれてありがとう。まだ、どんな部があるかもよくわからないからさ。一通りみてから決めるよ」
口々に言い募っているうちになんだかすごい騒動になってしまったのに困った顔をしながら、恭介は答える。
「そうだよ。まだ、学校を案内もしてないんだからさ」
羽賀が主張するのには、どうせサッカー部に連れて行くんだと抗議の声が上がる。
「そういや、花山。まだ、寮も見てないとか?」
確かに、新入りがあれば、寮の食事時にでも紹介がある。
「そうなんだ。今日もそのままうちから来たからさ。荷物だけは届いていると思うんだけど。寮ってどんな感じ?」
「ぼろいよ」
羽賀の言葉には容赦がない。
「そうそう。雨漏りとかもあるしね。この学校、伝統あるんだけど、その分、建物なんかは相当年代ものなんだよね」
他の生徒も答える。
「じゃあさ、一緒に帰ろうぜ。俺らで案内してやるよ。学園も寮もさ」
背中をバンバン叩かれて、羽賀は宣言する。
「サンキュー。よろしく頼むよ」
くすくす笑って恭介は答えた。